「幸福」と装い

 

 

映画と服飾について、私が読んだ限り一番の名著は秦早穂子さんの「スクリーン・モードと女優たち」(1973年/文化出版局)で決まり。ヌーヴェルヴァーグを日本に紹介した人だから、映画と服飾の切り口で書かれた文章でよく登場しがちな映画に加え、秦さんならではの視点から映画がピックアップされており、アニエス・ヴァルダ「幸福」も見開き2ページで取り上げられているのが最高。

 

そうそう「幸福」、装いが印象に残る映画だった。秦さんの文章は、シニカルな展開の隙間に”しあわせ”とは何か?の問いをこれでもかと投げつける物語とは裏腹に、労働者階級の市井の人々の暮らしとさりげない装いが一瞬の美しさを見せる3つのシーンを解説しながら、

 

“しあわせ”とはなんなのだ。それではすでに理屈になってしまう。前にあげた暮らしと装いのからんだ、三つのシーンをとりあげたほうがその答は、漠然とではあるが逆に出てくるのではないだろうか。”しあわせ”は、理づめで追求しても姿をみせてくれない。アニエス・ヴァルダのいいたかったこともそこにある。

 

と結ばれているけれど、公開時も現在も、上映のたびに物議を醸すであろうこの映画の、登場人物の暮らしと装いこそ、”しあわせ”の恐ろしく暗い面を映し出しているようで、私は彼らの装いが怖かった。愛人同士だった頃にはそれぞれの装いをしているのに、家族の形を纏い始めた途端、徐々に郊外のショッピングモールに並ぶ、そこに行けば家族みんなの洋服が同時に揃うような量産型カジュアルブランドの広告のように、家族のメンバーが他の家族の装いとも完璧にバランスを取る配慮を見せながら、作り物の幸福感を演出すべく変化していく。

 

シニカルさがタイトルにも装いにもあらわれた見応えのある映画。なかなか上映されないので、久しぶりに映画館で観られてホッとしている。「幸福」には他にも好きな(と言っていいのか)場面が山ほどあって、思いついたらまた書きます。

 

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