深夜の告白

 

余韻を反芻しながらも「沈黙」にずいぶん体力を奪われたこともあり、暖かい部屋に篭って借りたままになっていたDVDを、半分眠りながら観た。1944年、ビリー・ワイルダー監督「深夜の告白(原題:Double Indemnity)」。バーバラ・スタンウィックの代表作と呼ばれていることもあり、ファンとしては、観ていないことが気がかりだった。

 

脚本にビリー・ワイルダーに加え、レイモンド・チャンドラーがクレジットされている。妻が愛人と結託して夫を殺す、保険金殺人の物語。筋書きも謎解きも、今となっては珍しくもないけれど、40年代当時としてはさぞかしセンセーショナルだったのだろう。

 

バーバラ・スタンウィック、適当に検索するだけでも撮影時のオフショットが多いように思う女優で、共演者や監督と打ち解けた表情。人柄の良さで知られ、誰もが彼女と共演したがったと何かで読み、あの独特の下町のいい女っぽさは本人の素によるところも大きいのかな、と推察。

 

車中で愛人に夫を殺させても動揺することもなく、正面を見据えたまま運転を続け唇の端に笑みすら湛えた女は、いかにも悪そうな、そのような役柄の得意な女優より、庶民的な親しみのあるバーバラを選ぶことによって世に受け入れられたのかもしれない。「ティファニーで朝食を」のホリーにオードリー・ヘップバーンのような清潔な女優を選ぶことで、ホリー自身が抱えるインモラルさを打ち消し、都会の妖精のような、新しい女を誕生させたように。

 

…とはいえ、バーバラ・スタンウィックは動いてこその女優なので、私には「レディ・イヴ」や「教授と美女」での役柄の方が魅惑的だった。最後、悪女になりきれなかったバーバラがメロドラマのヒロインのように変化するくだりは、悪を貫いてほしかった…!と、少し辟易としたけれど、ウォルターとキーズの男の物語と捉えると、「深夜の告白」の別の魅力が見えてくる。

 

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