メットガラ
5月に観たドキュメンタリー「メットガラ」。
ファッションの世界は華やかで、この映画でも提示されたように、ファッションそのものがビジネス?アート?等、様々なグレーな問いを含んでおり、映画になりやすい題材ということか、ファッション・ドキュメンタリーは量産されている印象だけれど、私は割と警戒している。だって面白いものが少ないんだもの。「いくつになっても女・現役!」みたいな、ファッション誌の見出しのような証言セリフが散りばめられ、3年後には聴くだけで恥ずかしくなりそうな音楽が流れて纏められてしまって、これだったらファッション誌を読めばいいのでは…映画じゃなくて、という気分に陥る。
「メットガラ」はメトロポリタン美術館服飾部門のキュレーター、アンドリュー・ボルトン、泣く子も黙るアナ・ウィンターが登場し、製作過程に密着するのは「China: Through the Looking Glass」、中国文化の服飾への影響がテーマの展覧会…これだけ素材が揃えば、そうそうつまらないのは作られまいて…と淡い期待を抱き観に行った。
けれど、なかなか壮大な素材殺しを観たわ、と、どんよりした気分で映画館を出ることに。
西欧諸国よりも中華圏に対して心の距離がより近い私は、中国の歴史や文化に対する彼らの敬意や理解のなさばかり強調され、おおいに苛立った。注意しなければならないのは、敬意や理解がなかったかどうかはわからないけれど、映画がそんな一面ばかり切り取ったように見えたということ。
メトロポリタン美術館の東洋美術部門も協力し、インスピレーション源となった美術品(仏像や壺)とファッションを同時に展示するのは、大きな美術館ならではの良さがあるとして、人民服と毛沢東の肖像、さらに仏像を同じ展示室内に並べたい…と、いいこと思いついちゃった!とばかりにウキウキ提案するアンドリュー・ボルトンの前で複雑な表情を浮かべるウォン・カーウァイ、その後、静かに再考を促すウォン・カーウァイ…等、ハラハラしながらも珍奇な場面を目撃するもの珍しさはあったとして、視察やデザイナー訪問のため訪れた北京で、中国の女性ジャーナリストから中国に対する理解不足を指摘される場面では(質問はうろ覚えだけれど、確か少し批難するような口調だった→北京で会見をすることは、古い中国を発信するというメッセージになりかねないが、それについてどう思うのか?だったかな)、ようやく観たいものがきた!どんどん斬り込んで!と一瞬興奮したものの、たいして納得できる答えがなかった上に(答えたけれど、映画はそれを使わなかったのかもしれない…と疑うほどに、私はこの監督を1mmも信用していない)、カメラはジャーナリストが去った後の「彼女は1930年代(だっけな?)を生きているのよ」とイヤミを言うアナ・ウィンターの発言と軽い嘲笑の表情を捉え、この不快感は何だろう。監督はファッションは歴史にインスピレーションを得ながらも同時に過去を否定し「新しいこと」を更新していく…ことを示したいのかもしれないけれど、見せ方が上手くないせいかファッションの軽薄な一面だけが必要以上に強調されてしまっているように思えた。
しかし考えてみれば、これは「China: Through the Looking Glass」の準備過程であると同時に、セレブリティが集結し展覧会のオープニングを彩る「メットガラ」のドキュメンタリーなのだから、一夜限りの「メットガラ」の華やかさが映れば良いのかな、と、やけくそ気味に気を取り直す。この年のメットガラ、よく覚えている。中国を代表する女優たちがずらりと並ぶ写真、絢爛豪華で見惚れた。特にファン・ビンビン(范氷々)!「傾国の美女」という表現はこの人のために使うべきでは?という浮世離れした美しさで圧倒された。映画にはもはや期待しないから、動くファン・ビンビンをスクリーンで観られたらそれで良い…と待ち構えていたら…最後まで登場しなかった…!ファン・ビンビンだけではない、中国の女優は一人も、一秒も登場せず、存在自体が黙殺されていた。席順決めに困った結果、会場の隅に追いやられたクロエ・セヴェニーが、ひとりぼっちなのー!と騒ぐ、呆れるほどどうでもいい場面に数秒使うのであれば、中国女優を映しておくれよ…。こんな年の「メットガラ」をテーマに選んだにもかかわらず、もしかして監督、中国、お嫌いでしょうか?メットガラでのファン・ビンビンはこちら。コン・リーのドレスも美しい!彼女たちが映されず、ディズニー魔女のようなギャグのような帽子?をかぶったサラ・ジェシカ・パーカーが映されたことに、断固抗議したい。
映画はつまらなかったけれど、展覧会は中国を黙殺して成立するはずもなく、きっと素晴らしかったのだろうな。アンドリュー・ボルトンは「キングスマン」に登場しそうな英国紳士でフォトジェニックだし、オートクチュールも、それを着たアメリカのセレブリティも登場するから、そちらに興味があれば目の保養にもなる。中国に心の距離の近い私の興味を満たしてくれなかっただけで。
ふと、フレデリック・ワイズマンならどう撮っただろうかと妄想してみる。「チチカット・フォリーズ」「臨死」「DV」「軍事演習」「動物園」…といった、その時々のアメリカを記録したフィルモグラフィに加わる「メットガラ」!淡々と現実を捉えながらも、鋭さが滲み、ファッションや米中関係に関する問いを提示し続け、この上なく面白いドキュメンタリーになったのではないだろうか。