ジャンヌ
帰りの電車で、ジャンヌ・モローの訃報を知る。
ジャンヌ映画で何が好きかな、と考えながら夜道を歩いた。ルイ・マル「恋人たち」がまず浮かんだのは夜だからかしら。それから今、東京で公開中のジャック・ドゥミ「天使の入江」も好き。ブルジョワ的生活を送り、何もかも手にしているのに、いったい何が不満なの?という物語でこそ、あの顔が活きる。誰にでも得意領域の表情があり、ジャンヌの得意領域は不満顔で、もともとの顔の造形をさらに引き立てる表情だと思う。どんな女でも笑顔が一番美しい!みたいな言説、辟易とするね!ジャンヌの不満顔をご覧よ、輝いているよ…!
トリュフォーでは「突然炎のごとく」より、「黒衣の花嫁」の方が好き。トリュフォーって恋愛体質が映画にびしばし表れる人で、例えば「暗くなるまでこの恋を」なんて、ヒッチコック風サスペンスを目指したのに、途中からドウーヴにデレデレする自分を制御できなくなって、グダグダした愛の物語に変化し収拾つかなくなるの、素直で面白いな、って思うけれど、きっとジャンヌ・モローには恋愛感情はなく、でも女優としては信頼してるって感じなのだろうな、という推測に至ったのが「黒衣の花嫁」だった。
ジャンヌ・モローが亡くなったので、ジャンヌのことを考えた。「天使の入江」は、追悼の気持ちも微かに込めて観ることにする。