幸福

 

今週はとにかく、夏の疲れをとることを最優先ミッションとしており、火曜にして徐々に身体が軽くなってきた。夏の間に観た映画の所感メモ。

 

アニエス・ヴァルダ&ジャック・ドゥミ特集から、アニエス・ヴァルダ「幸福」。絵に描いたように幸福な夫婦、夫が愛人を作り、悲劇を招く。オープニングとラストが、妻が入れ替わっただけの同じショットで戦慄が走る。彼にとっての妻とは、切れた電池を入れ替えるような、取り替え可能な存在なのか…という物語のタイトルが「幸福」。アニエス…怖いよ…。

 

不倫がきっかけで何らかの関係が破綻してゆく物語は、映画において一大ジャンルを築いており、現実世界で誰が誰とどうこう…に、ちっとも興味がないので、フィクションにおいてはなおさら、物語として面白いかどうかだけが関心事項で、登場人物たちがどんな性格を持ち、どんな振る舞いで、どんなオチに至るのかを昆虫観察のように眺めてしまうけれど、とかく「脇が甘い」「口が軽い」は不倫における二大禁じ手なのではないかと思う。と書いて、ハッ!それって不倫に限らず、すべての人間関係においてですね!と思った…けれど、このまま書き続けるとして、「脇が甘い」ゆえに悲劇を招く例はトリュフォー「柔らかい肌」など。一方、「口が軽い」ゆえに悲劇を招く代表例が、この「幸福」だと思う。

 

とにかく!この夫が!何も考えてない、シンプルでアホな男で、彼にとって不倫とは難易度の高い行為なのに、なにぶんシンプルでアホだから、これは俺には難しい!って気づきもしないで、やすやすと手を出し、一番知られてはいけない相手にニコニコペラペラと喋り、何の罪のない人が何故か悲劇的展開に至る。そんな男を物見遊山気分で観てみたい方には、鑑賞をおすすめいたします。

 

久しぶりに観てみた今回、ハッとしたのは、愛人が郵便局で働いていて、夫が初めて彼女を誘い、外で会うカフェのシーン。小さなテーブルを囲み、お互いがお互いを見ている。ショットが素早く切り替わり、夫の視線、愛人の視線をせわしなく往復する。はじまりは視界は広くカフェの風景の中にいるあなた、を捉え、隣の席の客や、ちょっとしたインテリアにピントが合う瞬間がある。時折、近くにある「誘惑」の文字が意味ありげに捉えられ挿入される。そんなショットを重ねながら、徐々に、目の前にいるあなたにだけ、くっきりピントが合っていく。はぁ!このシーン、とてもかっこよくて痺れた。その他大勢であったはずのあなた、どういうわけかあなたばかり目で追ってしまうの、なんて恋のはじまりを、こんなふうに撮った映画が他にあっただろうか。

 

ヒリヒリする筋書きながら、物語を成立させるための要素がいちいち面白くて目が離せず、アニエス・ヴァルダの映画の中で、私は特に好き。

 

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