さよなら日劇:ゴジラ(1984年)
さよなら日劇ラストショウについて、続き。
木曜あたりにのんびり東宝のサイトを眺めていたら、まだいくつか選択肢はあったものの、のんびりしているうちにあれよあれよと満席になり、選択肢が減った。「シン・ゴジラ」はチケットがあったけれど何度も観たからパスしたい。「ゴジラ(1954年)」は宝田明さん登壇もあり早々にソールドアウト。そうなると意地でもゴジラを観なければならない気になって消去法的に「ゴジラ(1984年)」を選択。観たことないけれど、どんな映画かな。
ロビーにはシン・ゴジラ氏。あなたのことはよく知ってるわよ…と語りかけながら場内へ。
ゴジラ(1984年)は田中健主演、夏木陽介、宅麻伸、沢口靖子などが出演。武田鉄矢も出てくる。首相役は小林桂樹。会議室のシーンが多いのはシン・ゴジラに共通するけれど、内閣総辞職ビームで全滅することもなく、首相はゴジラ鎮圧まで見届けていた。シン・ゴジラを見慣れた目には、1984年の特撮はとてもチープに思えたけれど、特撮について何も知らないので、公開当時には大変な技術だったのだろう。頻繁に登場するスーパーxが、古いSFに登場するUFOのような可愛さ。そしてシン・ゴジラに比べ、1984年のゴジラは、人間のエゴが生み出したゴジラによって人間が苦しめられ、ゴジラを倒すのも人間である、という苦々しいパラドクスに苦悩の表情を浮かべる登場人物が多くエモーショナルであった。核を巡って米ソの間に立たされるのも80年代っぽい。
そして沢口靖子。当時18歳の沢口靖子、可愛い!東宝の姫!お肌ピカピカ!だけれども、それ以上に表情のバリエーションが「緊迫した沢口靖子」「微笑む沢口靖子」「無表情な沢口靖子」の3パターンしかないことがもたらす沢口靖子の不気味な存在感が、ゴジラのそれより際立ってしまっている。その証拠に一晩寝て起きた現在、沢口靖子のことしか覚えていない。1984年のゴジラ、シン・ゴジラに比べお顔が普通というか、目がちょっと動物の子供みたいなつぶらさで迫力に欠けたせいもあったけれど、それにつけても沢口靖子。三原山の火口に落ちてゆくゴジラをヘリコプターから眺め、うっすら微笑みを浮かべる沢口靖子…で映画が終わってしまったせいか、なんだか昨日から沢口靖子のことばかり考えている。本人は右も左もわからず一生懸命なのでしょうが、30年以上経過すると怪演と呼ぶしかない演技だった。
入場時に記念にいただいたのは、ゴジラ(1984年)のフィルム。せっかくの機会に、まったく物語がわからなくてポカーンとしちゃうともったいないので、あらすじを簡単に予習して行った。ゴジラが数寄屋橋から有楽町マリオン(日劇が入っているビル)前を歩き、新幹線を弄んだ後、永田町を経由して新宿に向かう、と書かれていたので、まさに日劇ご当地映画、これを選んでよかった!と思っていたらフィルム、ちょうどその場面のもので記念度が増して嬉しい。スクリーンに映る1984年の数寄屋橋界隈は、東芝の電飾、NECの看板、2018年に観ると、東芝は息も絶え絶え、NECはリストラ、日劇は閉館するよ…万物流転、諸行無常なんである。
上映は35mmフィルム。途中、映写トラブルで一瞬ブラックアウトするフィルム上映ならではの体験。その間、場内がどよめいて拍手が起こっていたのが面白かった。バチバチ音のするフィルムで、日劇で最後にゴジラを観られたこと、きっと忘れません。
映画の中で、ゴジラは有楽町マリオンの壁を爪先で引っ掻いてガラスをいくつか割っていた。もっと破壊するのかな、と思えばそのまま通過して、JRの高架の前で停止し、新幹線をおもちゃのように弄んだ。
エンドロールの最後に万雷の拍手。興奮して外に出ると、有楽町マリオンは無傷、私も無事で、2月の空は青かった。有楽町マリオン、ゴジラと同じ、1984年にできた建物らしい。新築を破壊するのは忍びないって、窓ガラス程度の破壊にとどめ、さすがにゴジラも遠慮したのかな。