ジブリと暗算
週に何度か通りかかる近所に珠算学校があり、ノスタルジックな気分になる。
今年の夏はペンギンのアニメを観るつもりだけれど、夏休みといえば!親に連れられてアニメ!という習慣は皆無だった。私の映画好きは父親の影響によるものだけれど、幼子(私)がいるからといってアニメを見せることもなく、自分の観たい映画を観るマイペースな男であった。50〜60年代のハリウッド・クラシックがメイン。時折サイレント映画が混じる。隣でぼんやり観ていて、子供にもわかりやすくて好きだったのはチャップリンや西部劇。チャップリン『独裁者』は小学校に入学する前のお気に入りで、何度も観て筋書きは覚え、演説シーンを真似していた…やだよそんな子供…。
小学生になると兄の要望により近所の珠算学校に通うことになり、意外な計算能力の高さがなぜか開花し、先生からスカウトされ、珠算学校を代表して県大会に挑むことになった。夏休み、珠算学校に強化選手が集められ、何日もひたすらそろばんを弾く。そろばん以外には暗算など、各種目まんべんなく鍛える。
しかし遊びたい盛りの小学生を薄暗い珠算学校に閉じ込めることを、さすがに先生も不憫に思ったのか、教室にテレビとビデオデッキを持ち込み、映画を見せてくれる日があった。ある年は『風の谷のナウシカ』で、ある年は『天空の城ラピュタ』だった。先生が所有していたのがその2本だったのかもしれない。両親は私をアニメに連れていく人々ではなかったので、数少ないアニメ体験は珠算特訓のサービスとしてもたらされた。労務の提供と、その報酬としてのジブリ。
今でもジブリ映画が公開されたり、テレビ放映されるたび、そして今年の夏のアニメが話題になるたび、反射的にあの薄暗い珠算学校を思い出す。広い珠算学校に少ない強化選手が集められるから、一部だけしか電気を点けてなくて薄暗かった。
東京を歩いていて珠算学校を稀に発見するけれど、この時代に珠算を学ぶのはどんな子なんだろう。OK, googleって呼びかけたら、手を動かさなくても教えてくれるんでしょう?県大会の結果は珠算総合、暗算ともに県2位だった。何年かに渡って出場したけれど、常に2位。やるからには1番になりたい負けん気の強い私としては、ややほろ苦い。あんざんで右脳をトレーニング!とポスターにはあるけれど、あんざんで鍛えられるのは左脳のような気がする、というのが経験者からのコメントです。