聖なる鹿殺し

 

早稲田松竹、2本立てのもう1本はヨルゴス・ランティモス監督『聖なる鹿殺し』。こちらのほうがお目当てで、ソフィア・コッポラ映画も併映なら好都合、というモチベーションで出かけたのだった。

 

ヨルゴス・ランティモス監督はギリシャの監督で、前作『ロブスター』が大傑作だった。『ロブスター』も豪華キャスト映画だったけれど、『聖なる鹿殺し』も負けず劣らず。どちらもコリン・ファレルが出ていて、監督のお気に入りなのかしらね。そしてソフィア・コッポラ『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』との2本立て、どちらもコリン・ファレル、ニコール・キッドマン主演。ひっぱりだこ!働き者!サスペンス要素、ホラー要素のある映画にニコール・キッドマンの冷たい美貌が似合う。どんな設定や不穏な効果音より、あなたの整った顔立ちが何より怖い、と思わせるものがある。

 

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心臓外科医スティーブンは、美しい妻と健康な二人の子供に恵まれ郊外の豪邸に暮らしていた。スティーブンには、もう一人、時どき会っている少年マーティンがいた。マーティンの父はすでに亡くなっており、スティーブンは彼に腕時計をプレゼントしたりと何かと気にかけてやっていた。しかし、マーティンを家に招き入れ、家族に紹介したときから、奇妙なことが起こり始める。子供たちは突然歩けなくなり、這って移動するようになる。家族に一体何が起こったのか?そして、スティーブンはついに容赦ない究極の選択を迫られる…。

 

マーティンを演じるバリー・コーガンは『ダンケルク』にも出演していた。一度観たら忘れられない風貌で、『聖なる鹿殺し』は観終わった後、バリー・コーガンの演技にすっかり心を奪われている。あと10分で家を出なきゃいけないんだ、って何度も言いながらスパゲッティわしわし食べるあの姿…。

 

冒頭、夫婦の寝室での妻(ニコール・キッドマン)の手慣れた雰囲気の全身麻酔プレイ待機姿勢に、わ、これは!と沸き立ったけれど、周りに誰も笑ってる人がおらず。あのシーンが冒頭にあったせいか、これはコメディなのだろうな、ドス黒いけれど!そして場内、誰も笑ってないので笑えない…辛い…というトーンで最後まで観た。家族が次々と不思議な病気を患っていくけれど、そんなことが可能か否かはさておき、マーティンによる巧みな催眠に一家でかかり、パチンと指を鳴らして催眠を解けばいいんだ!って誰かが気づけば良いものを、誰も気づかないから大真面目で展開していく物語、のように思えた。『ロブスター』同様、傍観者には滑稽にも思える設定に、大真面目に取り組む人々をクスクス観察しているうちに、何か深淵なるものに触れたかもしれない、気のせいかもしれないけれど、と思わせる映画。

 

どこを切り取ってもそのまま映画のポスターになりそうな構成美。病院のエレベーターで倒れこむ少年を真上から俯瞰で撮った後、ネオン輝く都会をバイクで疾走する若者のショットが続いた時、私は今とても美しいものを観ている!という映画的興奮におおいに満たされた。

 

 

 

 

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