正しい日 間違えた日
先週、早稲田松竹で。
ホン・サンス特集『クレアのカメラ』と『正しい日 間違えた日』を。
http://www.wasedashochiku.co.jp/lineup/2018/hongsangsoo.html
『正しい日 間違えた日』は、東京国際映画祭でずいぶん前に観て以来。夏の公開時、この映画だけ見逃した。映画祭では確か、『今は正しくあの時は間違い』のタイトルで上映されていた。偶然出会った男女が、ほんの少しの言葉や感情の掛け違いで異なる結末に至るシミュレーションゲームのような2部構成。前半は「あの時は正しく、今は間違い」、後半は「今は正しく、あの時は間違い」とハングルでタイトルが挿入される。映画祭のタイトルだと、後半の筋書きを正解のように肯定しまうから、敢えて中立的な『正しい日 間違えた日』のタイトルがロードショーでは採用されたのかな、と想像した。
キム・ミニとホン・サンスの出会いの映画でもあるらしい。その後、何本も続く2人の映画の中でどのキム・ミニもそれぞれ違ってどれも素晴らしいけれど、『正しい日 間違えた日』の、特に前半部分のキム・ミニは最強なんである。膝上丈のカジュアルなニットワンピースにタイツにスニーカー、モッズコート、化粧っ気のない顔に無造作な髪。手ぶら。何ひとつ作りこんだ要素はなく、極上の素材そのままで、なんだかわけのわからない、後光の射すような魅力を放っている。そんなキム・ミニと一緒に飲んでいる気分を味わえてしまう寿司店のカウンターの場面の擬似恋愛っぽさ。触れなば落ちん、の距離にいるのに、同時に永遠に手に入らなさそうな、関係や感情に決定的な名前を与えてしまう前の、ふわふわと刹那的な恋っぽい何か、の化身としてキム・ミニが映っていた。
と、キム・ミニにすっかりやられてしまうけれど、相手役のチョン・ジェヨン氏の酔っ払い演技も真に迫って見応えがあった。けれど先日、東京フィルメックスでホン・サンス映画常連の俳優が登壇し、「ホン・サンスの映画といえばお酒を飲むシーンですが、あれは、実際に飲んでいます」と語っていたのを思い出し、チョン・ジェヨン氏の見事な酔っ払い演技も、ただ本当に酔っ払っていたのかもしれない、と想像すると楽しい気分になった。
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