東京上空いらっしゃいませ

 

新元号が発表された頃、いよいよ平成が終わる、もう思い残すことはないけれど願いを言えるならば『東京上空いらっしゃいませ』を4月のうちに観たいなぁと、そんな願いがどこかに届いたのか4月半ばに目黒シネマで上映されることを知り、すべてを放り投げて観に行った。

 

指先でタッチするだけで映画がまるごと手の中の小さな画面に届く昨今、バチバチ音の鳴る、映画館でしか観られない映画があるなんて、不便さはロマンですねという種類の事案。

 

死んだ後に改めて生を体験する物語だからか、去年の手術の全身麻酔でささやかな臨死体験を経た目で観てみると、退院し数日ぶりに外に出た瞬間、街じゅうが困っちゃうぐらい可愛く、浮かれてセブンイレブンで普段食べないかぼちゃプリンを退院祝いに買っちゃうぐらい、この可愛らしい世界よ!という気分になったことを、主人公・ユウの溌剌とした仕草に重ねて思い出した。

 

去年から、決めることの潔さもスピードもぐっと増したのは、死ぬってこんな感じ、とイメージできた気がしたからから、生きてるうちに決めることなんて何も怖くなくなったからなのだろう。映画の最後、ユウの去り際が清々しくきっぱりとしていることが、これまで少し腑に落ちなかったけれど、あれは「一度死んだから」なんだろうなぁ、と今回はストンと理解した。何事も体験。

 

何度も観たせいか今回は、話の筋が通らないところが随所にあるなぁ、などあちこち粗も見つけはしたけれど、些少な粗なんぞ秒で吹き飛ばす、暴力的にチャーミングな映画だった。チャーミングの暴風雨。もっとよくできた完璧な映画はたくさんあるのだろうけれど、『東京上空いらっしゃいませ』は間違いなく、私にとって平成で一番チャーミングな映画だった。

 

 

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Mariko
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