楽しみにしている映画の公開日前日、
数ヶ月前に劇場で見た予告編のことを思い出しながら、ネイルの色を選ぶ。
最新の予告編を改めて見たりはしない、
監督やキャストでアタリをつけて、
一年以上前から見に行くことを決めている映画、というのが年に数本ある。
何年もかけて買い集めたネイルポリッシュは彩度も透明度も金色の深さも選び放題で、
まだ見ていない映画のイメージの断片に合う色を見つける。
エイミー・アダムスの主演するArrival(邦題『メッセージ』)には宇宙船が出てきて、
たぶんグレーだったような気がする。
Arrivalのアメリカでの公開は2016年11月、日本公開は翌年5月末と半年以上かかった。
宇宙船がグレーっぽかったこと以外、何も知らないで映画館に行きたい。
予想や想像よりも、ずっとずっとすごいことが映画館で起きるのを、私は待っているのだから。
持っているグレーやシルバーのネイルから、
ブルーグレーに細かいシルバーラメのessie S1004(go with the flowy)、
濃いグレーのNAIL HOLIC GY008、
ラメの大きいシルバーREVLON 001を選ぶ。
ベースコートはJESSICA、トップコートはSeche Vite。
素晴らしい映画を初めて見る、という体験はどうしても一回しかできなくて、
まだ知らない何か、のためにできることは何もない。
爪に色を塗りながら、少しだけ集中して、
どこかの誰かが作ってくれた素晴らしい作品を受け取る準備をする。
まだ見ていない映画は、私がどれくらい好きになるのかまだわからない映画。
そのことにわくわくする。
楽しみにしていたものが、映画館を出る時にどんなに期待はずれでもかまわない。
ピカピカの可愛い色の綺麗な爪で、お茶やお酒を飲みに行く。
Arrivalは見たことのないものがたくさん詰まった映画だった。
あの始まりの重低音、不思議な宇宙人、映画で体感する別な時間の流れ。
SFでしか味わうことのできない人生の物語や、
ある種の愛や奥行きをもっと深めるために、
パンフレットや原作小説を買いに行く。
爪はグレーに塗られていて、わくわくしながら眠ったあの期待を、
映画が超えていった喜びを味わう。
最高の映画に出会うのは私にとっては宝物を見つけるような出来事で、
今まで出会ったたくさんの宝物を心の中に置いて、
時折取り出して眺め直したりしながら暮らしている。
Cinema info
Arrival
(邦題:メッセージ)
2016 / ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督
Text&Photo
aya
グラフィックデザイナー