こつまなんきん

 

シネマヴェーラ渋谷、浪花千栄子特集より。酒井辰雄監督「こつまなんきん」1960年、松竹映画。

 

ヴェーラのサイトより。

 

「霊感の強いお市を教祖に、インチキ新興宗教を始めた永之助夫婦。お市の色っぽさに、お布施もどんどん集まり大儲けするが…。財産なくして怒り狂い、教団に火をつける浪花千栄子の狂気の演技が凄い!小粒で美味しい南瓜“こつまなんきん”のような河内女を演じる嵯峨美智子の、はち切れんばかりの若さと美しさをご覧あれ。」

 

フィルムの劣化が激しく、退色でオレンジっぽい色調、傷で縦に雨がざあざあ降るような上映クオリティだったけれど、映画は滅法面白かった。主演の嵯峨美智子は山田五十鈴の実の娘で、顔もよく似ているけれど、母親のような迫力がない分、儚げで女らしい。市川雷蔵の映画によく出ている印象だけれど、主演映画をちゃんと観るのは初めてではないかしら。

 

河内女の男遍歴、流転の人生。嵯峨美智子にちょっかいを出して結婚することになる、あほぼん藤山寛美の母親役が浪花千栄子。何この親子、濃いわ…と絵面の強さに怯むものの、浪花千栄子は夫の言うことに、ええですなあ、ほんまええですなあ、と同調しているだけの従順な妻なのである。

 

何ですかこれは。こんな大人しい女なら、他に女優はたくさんいるではないか。浪花千栄子の無駄遣いである!浪花千栄子の本領発揮を断固要求します!と言いたくなるのを抑えつつ観ていたけれど、やはりキャスティングには意味があった。教団、家庭がめちゃくちゃになり狂気に転じた後の浪花千栄子の爆発力よ…!スクリーンから熱風…!それまでの大人しさは、ただのタメだったのだね。見事に緩急つけた浪花千栄子の使い方に監督、ええやないの…と、ホクホク喝采を送る。

 

しかし浪花千栄子は狂って途中で物語から退場し、寂しいわね…浪花千栄子特集なのに…と残念に思ったけれど、これは嵯峨美智子の映画なのであった。人より少し小賢しく、たっぷり色っぽく生まれついてしまったがゆえの不自由な人生。男と金を手玉にとりながらも、虚しさだけが募っていく。

 

河内女の遍歴といえば、鈴木清順「河内カルメン」というのもあったね、と思い出すと、「こつまなんきん」も「河内カルメン」も原作者が同じ今東光なのだった。人物造形は似ているところがあるものの、「こつまなんきん」の嵯峨美智子のように、ふと私って、女の幸せって、と立ち止まるような性質は、「河内カルメン」の野川由美子は持ち合わせていなかった。

 

考えてみればカルメンは、口にバラをくわえて自転車で川べりを走る衝撃の登場だったし(カルメン=口にバラ、というシンプルな発想)、男の間をひらひらしても、立ち止まりはせず、あっさり次にいく。最後にカルメンが言う「幸せは女だけのもんや。けどそれも男次第です。」ってケロッとしたセリフが大好きなのだけれど、途中まで似ていながら結末はずいぶん違う2人の河内女を並べてみて、ほら眉間に皺を寄せていると、そこから幸せが逃げるっていうでしょう?落ち込んでも何もいいことないわよ、こつまなんきん!って背中をバシンと叩きたくなるような、何やら学びを得た気になったのは、賑やかな道頓堀にヨヨヨと消えていくか細い背中が、あまりに儚げだったからだろうか。