第三回
鯉と風
池に映る昼下がりの太陽が、鯉の作り出す波紋で揺らいでいる。反射した日光は、空中にすっと伸びた蓮の葉裏に無数の金色の波線を描き、その輝きは葉表からもくっきりと見える。葉上の模様は大小・緩急変幻自在、鯉の気まぐれで絶えず動いている。
停泊中の船のように浮かんでいる睡蓮の葉上には、朝露の残りか、500円玉ほどの大きさの水玉が表面張力の限りを尽くして佇み、太陽の光を受けて輝いている。鯉が葉をつつくと、滑らかな球面をぷるぷるさせて耐え、光をあちこちに投げかけながら、揺れが収まるのを待っている。
風が吹き、蓮の茎がたわみ、鯉に代わってさざ波が金線と水玉を揺らす。
映画の周辺:映画の終わり
映画館では、エンドクレジットが始まるとすぐ館内に照明がつき、観客が退出を始める。そして出入口一番近くの席から、清掃係のユニホームを着た人がゴミ袋を手に立ち上がる。清掃係の人は、エンドクレジットの音楽を何度耳にするのだろう。