Weekly28/私は彼女をよく知っていた/寄席

 

年明け、所用で柳下美恵さんに連絡したら国立映画アーカイブでのチネマ・リトロバート映画祭でこの映画を観るけれど、よろしければご一緒しませんかと返事がきて、詳細を読むと1965年のイタリア映画『私は彼女をよく知っていた』だった。

 

去年の夏、イタリア人の友人・フランチェスコがCinema Radio 28に出てくれた時、「おすすめのイタリア映画を1本だけラジオを聴いている皆さんに薦めるとしたら何の映画?」という質問をしたら、答えが『私は彼女をよく知っていた』だった。日本で紹介されることが少なく、観られる手段もなく、なかば諦めて頭の片隅に置いていた。誘われたらたまたま探していた映画だった、こんな偶然があるものですね。

 

 

↑ この回の 36:20前後から『私は彼女をよく知っていた』の話をしています。

 

https://www.nfaj.go.jp/exhibition/cinema_ritrovato202312/#ex-79041

*国立映画アーカイブのサイトより抜粋

戦後イタリアの奇跡的な経済成長ブーム下における刹那的で享楽的な日常を描いた「ブームのコメディ」(1958-1964)の典型とも言える傑作。ネオレアリズモの先駆的作品『郵便配達は二度ベルを鳴らす』(1943、ルキノ・ヴィスコンティ)などで脚本を手がけたピエトランジェリが、トスカーナの貧しい村からローマへ出てきて、ショービジネスの世界で破滅していく女性の姿を描く。2015 年にクライテリオン、FCB、ティタヌスが三者共同でオリジナルネガをもとにデジタル修復を行った。

1965(伊/仏/独:ウルトラ・フィルム/レ・フィルム・デュ・シエクル/ロキシー・フィルム)(監・原・脚)アントニオ・ピエトランジェリ(原・脚)ルッジェーロ・マッカリ、エットーレ・スコラ(撮)アルマンド・ナヌッツィ(美)マウリツィオ・キアーリ(音)ピエロ・ピッチオーニ(出)ステファニア・サンドレッリ、ニーノ・マンフレディ、ウーゴ・トニャッツィ、ロバート・ホフマン、ジャン=クロード・ブリアリ

 

「マルチェロ・マストロヤンニやソフィア・ローレンのような世界的スターではないけれど、当時のイタリアの有名俳優が総出演している」とフランチェスコは言っていた。

 

あらすじどおり、有名になりたい若い女性がショービズの世界に足を踏み入れ破滅していく物語で、フェリーニ『甘い生活』のような中身はないが華やかさだけはある狂宴のシーンが多い。そして2024年1月現在タイムリーなことに、スターに取り入り仕事を得るために、落ち目のコメディ俳優が若い女性(主人公)を献上する、話題の「上納システム」が描かれる場面があり、息を詰めて凝視した。お前この場で客を笑わせてみろよと指示されたコメディ俳優が、電車の走行音をガタンゴトンと全身を使って鳴らす場面があまりに長く満身創痍なので、「破滅していく」あらすじならば、満身創痍すぎたコメディ俳優がその場で倒れ亡くなり、若い女性が容疑者扱いされる流れかな?と推測したけれど違った。心配になるぐらい必死の芸だった。

 

主人公は成功のため身体を差し出すことを躊躇しないが、いまいち戦略に欠けるのと、若い美人は他にも山ほどいるといういことか、スターになる兆しも、ちやほやした扱いを受けることもない。一人の女性の顛末を描くが、固有の名前を持たず、どこにでもいそうな匿名のモブキャラ的存在に思えてくる。鑑賞して数日経過した今、演じたステファニア・サンドレッリの魅力は記憶にあるが、ヒロインの名前が何だったか思い出せない事実に『私は彼女をよく知っていた』という秀逸なタイトルが皮肉としてじわじわ効いてくる。彼女の名前は思い出せないが、「彼女のような属性の人物」が何を考えどう行動し、どう消費され、やがて蝕まれていくか私も、誰もがよく知っている。

 

そんな彼女が魅力的に見えるのが、有名になるには役立たなさそうな男たち…試合に負けたボクサーや、車整備のツナギを着た労働者…と一緒にいる時で、背伸びする必要がないからか屈託のない表情をしており、本当に可愛い。あのナチュラルな可愛さそのままで誰かに見つけられればいいのに、誰かに見つけられるためには、どこにでもいそうな着飾った女にならなければならず破滅に至る、そんな物語だった。

 

フランチェスコによると、イタリア国内で名作として捉えられている映画で、このような物語を名作として評価するイタリアに興味を抱いた。物語はシニカルながら、コミカルな演出が随所にある。手放しに面白い!と思える場面と「笑える場面として描かれてるっぽいが何が面白いのかわからない…国民性の違い…?」と考えてしまう場面の比率が、私がフランチェスコと話していて、手放しに面白い!の時と「彼は面白い話をしているっぽいが、言葉の意味を理解したところで…何が面白いの…?」と考える時の比率と同じだった。世界共通の古びない笑いもあるが、時代の笑いも、土地の笑いもあるし、笑いのツボの個人差もある。笑いの難しさよ。

 


<最近のこと>

 

『私は彼女をよく知っていた』後の講演に興味があったけれど、寄席のチケットを買っていたので神保町に移動。同じ建物に入り左側が神保町シアター、右側が神保町よしもと漫才劇場で、時と場合によってどちらにも用がある。入口に小津特集と令和ロマンのポスターが並ぶ2024年お正月。

 

関西人なので…?新年は寄席に行きたい。最推しはニューヨークで、単独ライブを年一度の楽しみにしています。神保町所属での推しはシンクロニシティという男女コンビ。この日はシンクロニシティと、2023年M-1敗者復活戦で一番面白かったエ゙バースのライブだった。どちらも生で見るのは初めてで、実力も個性も強いけれど真逆のキャラのコンビでめちゃくちゃ面白かったです。今年のM-1に期待。吉本興業が揺れているけれど、M-1が無事開催されますように。

 

書店や喫茶店、レストラン、映画館もお笑いの劇場もあって、さらに近所だし、神保町っていい街。

 

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