心残り
秋、新宿武蔵野館で『きみの鳥はうたえる』を観た時、すでに函館行きの手配を済ませていたので、ガイドブックを読むような気分で、彼らがどこで食事してどこで遊んでいるのか、店の名前をチェックしたりした。冒頭、佐知子が「いつもどのへんで飲んでるの?」と尋ねるセリフがあり、「僕」が「杉の子とか…」と答えたのを聞き逃さなかった。
その後、『きみの鳥はうたえる』を函館シネマアイリスで観たという札幌在住の友人に会ったので、おすすめの場所を聞いてみたら、即座に「杉の子」と教えてくれたので、これはもう行かねばならぬの筆頭!とgoogle mapにしっかり星をつけ楽しみにしていたのだが、
宿からも徒歩圏内で、どんな雪道でもたどり着ける…と向かってみたらなんと!冬季休業中だった。2/5から再開と書かれており、ちょうど2/5は朝、函館から札幌に移動する日だった。なんというタイミングのすれ違い。
旅行中、いかに効率よく行きたいところをを制覇するかを考えるの、わりと得意なほうだけれど、必ずこういった心残りが生まれもして、だからまた旅に出るんだなぁ。東京に戻ってすぐ、次は夏の函館に行かなければと思ったのは、「杉の子」に行ってみたいから。「海炭市叙景」の名前のついたカクテルを飲む予定。
http://www5d.biglobe.ne.jp/~suginoko/
シネマアイリス
函館のシネマアイリス、市電を降りて少し歩いたところにあるけれど、これかな?と近づいてみたら裏口だった。しかし見覚えがあると思ったら『きみの鳥はうたえる』で静雄(染谷将太)がこのあたりに佇んでいる場面があったのだった。
東京に戻ってから読んだ三宅唱監督のこちらのインタビュー、函館の街を思い出しながら読むと臨場感があって面白く、
http://inandout-hakodate.com/cn4/miyake_one.html
特に後編の「で、街の風景もなるべく嘘をつかないってことは考えてて。看板をよけたり、隠したりせずに、今の函館を撮ろうと思って。それこそ、アイリスの裏の通りの奥にキャバクラの看板が映ってるんですけど、ああいうのもそのまま撮ろうぜ、って。」のくだり、私も映画館は見つけたけれどどこからどうやって入るんだろう…って心細くなった頃に目に飛び込んできたのが、そのキャバクラの看板だった、という種類の頷きがあった。
日日是好日
函館ではシネマアイリスで映画を観た。こちらも時間が合う、という理由だけで『日日是好日』を選択。樹木希林主演、お茶のお稽古のお話。
https://www.nichinichimovie.jp/
たちまち過ぎていく大学生活、二十歳の典子(黒木華)は自分が「本当にやりたいこと」を見つけられずにいた。ある日、タダモノではないと噂の“武田のおばさん”(樹木希林)の正体が「お茶」の先生だったと聞かされる。そこで「お茶」を習ってはどうかと勧める母に気のない返事をしていた典子だが、その話を聞いてすっかり乗り気になったいとこの美智子(多部未華子)に誘われるまま、なんとなく茶道教室へ通い始めることに。そこで二人を待ち受けていたのは、今まで見たことも聞いたこともない、おかしな「決まりごと」だらけの世界だった――。
お正月、京都・出町座で映画を観た時も、上映スケジュールをチェックするとこの映画が1日に何回も上映されていたから、東京では10月に公開されたこの映画、息の長い上映が続いているらしい。予告編をあちこちで観たけれど、なかなか観る気にならなかったのは、予告編からどんな映画かだいたい推測できてしまったからかもしれない。実際観終わってみると、確かに推測していたとおりの筋書きではあるのだけれど、いい映画を観たなぁ〜と胸いっぱいで映画館を出る、不思議と退屈しない時間だった。
茶道のお稽古って外からはどんなことを習うのかわからない、お茶を点てていただくだけなのでは…?という素人の疑問に、映画は丁寧に答えてくれる。以前、京都でお能を習っていたことがあり、「謡」と「仕舞」に区分されたお稽古のうち、私が習っていたのは能楽の演目のクライマックス部分だけを地謡の謡いだけで演じる「仕舞」のほうだけだったけれど、舞扇の持ち方開き方、すり足で歩く方法や歩数、腕を上げる角度、目線の送り方、すべて型が決まっており、型を習得するために果てしない年月を要し、演者の個性はその後にプラスされるものという種類のお稽古で、茶道もこれに近いのだろうな、と映画を観て思った。当時先生(能楽師)からお能のお稽古をしている人は茶道の上達も早いから、あなたも興味があればお茶を習ってみると良いのでは、と言われたことも思い出した。確かに茶碗の持ち方ひとつとっても、指の揃え方や肘を張る角度など、なるほど少し似ている、と腑に落ちる。茶道に詳しい人からすると、まるで見当違いの意見かもしれませんが。
と、たいへんニッチな楽しみ方をしたけれど、映画そのものはもはや本人のキャラか役柄か境目が曖昧な樹木希林の円熟の演技と、ひとりの女性の若さから成熟までを段階的に演じわける黒木華が素晴らしい。
箱館元町珈琲店
函館。『きみの鳥はうたえる』は1回鑑賞したのみだからか、函館を歩きながらも、この場所はあの場面の!とリンクすることは少なかった。シネマアイリスに映画を観に行くと、ロケ地マップがあったので一部いただき、紹介されていた箱館元町珈琲店へ。
佐知子が一人で本を読むシーンで登場したっけ?と考えていたけれど、ラスト近く、佐知子と「僕」のシーンらしい。珈琲もチーズケーキも美味しかった。
ロケ地巡り、こちらのサイトが親切で詳しい!今、知りました。
https://haloviim.amebaownd.com/posts/3015151
函館を再訪する前に映画の記憶を更新したいから、近くの映画館にまたかかるか、配信などされると嬉しいな。柄本佑さんも映画賞を多く受賞されていることだし。
到着した初日は驚くほどの強風で、夜景のため山頂に向かうロープウェイが運休になるほどだった。歩き方を習得しないまま歩き始めると2度派手に転び、2度目は踏み固められてアイスバーンのようになった硬い路面に仰向けに倒れ後頭部を強打したので、漫画だと目から星が出るのが似合う一コマだし、ここでこのまま死ぬかもしれないと一瞬考えた。翌日は風も止み、ペンギン歩きも習得したので、箱館元町珈琲店に向かう坂道も余裕。
GP女優賞
昨日更新したGolden Penguin Award 2018、
https://cinemastudio28.tokyo/goldenpenguinaward_2018
私のGolden Penguinは『寝ても覚めても』に捧げたけれど、ではヒロイン・朝子が女優賞かとそうでもない。自分に似ているから同族嫌悪のような気持ちも多少はある。Golden Penguin Award 2018 女優賞部門があるならば、『きみの鳥はうたえる』の佐知子に捧げたい。
男性ふたり、「僕」も静雄も、ふたりを演じた俳優も素晴らしかったけれど、『きみの鳥はうたえる』は私にとって、なによりも佐知子を演じた石橋静河の映画だった。日々連絡をとりあって絶対に忘れないと心に刻んだはずだったのに、今となっては連絡先も失くした、友達であれ恋人であれ、誰にでもいるはずのそんな存在の化身が佐知子だった。
踊る佐知子も歌う佐知子も魅力的だったけれど、タイトルの見えない分厚い本をひとり喫茶店で読み耽る佐知子がとりわけ素敵だった。本が好きだから書店員になったのかな、と背景を想像させるシーンだったけれど、佐知子が本について語る場面はなかったと思う。
初めて行った真冬の函館を歩きながら、この街の夏はあっという間に終わるんだろうな、と思った。長い冬を佐知子はどんなふうに誰と過ごしてきたんだろう。『きみの鳥をうたえる』を観ている間、「僕」でも静雄でもない誰かの視点から、私は佐知子を好きだった。目が離せなかった。
冬の北海道
土曜から冬休みを取得し、真冬の北海道へ。
去年9月の地震後、札幌に住む友達にお見舞いを送ったら、気をつかっていただいてお返しに札幌のお菓子がどしどし届き、美味しくいただきながら久々に北海道…行きたいな…と思っていたところ、「ふっこう割」のキャンペーンが始まり北海道行きが破格値。予約して行ってみることに。
「ふっこう割」は、去年9月の震災後、打撃を受けた北海道の観光需要を回復させるために国、北海道、民間業者が連携してサポートする割引制度。詳しくはこちら。
これを利用して函館2泊後、スーパー北斗で移動し、雪まつり初日の札幌で1泊。『きみの鳥はうたえる』を観て以来、函館に行ってみたかったのでタイミング良し。函館ではシネマアイリス、札幌ではシアターキノでそれぞれ映画も鑑賞。
『きみの鳥はうたえる』は函館が舞台。
いろいろ書きたいけれど、たまった家事と仕事に今週は追われそうなので、ひとまずこれにて。写真はスーパー北斗の車窓からの風景。乗車時間は長いけれど、窓の外がスペクタクル!だからまったく退屈せず、見惚れているうちに札幌に着いた。
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