奈良らしい映画
昨日更新したayaさんゲストのCinema Radio 28で、「京都らしい映画を選ぶなら何か」とayaさんから逆質問があり「奈良出身で京都は長く学校に通っただけですが」の前置きで、映画を1本選ぶ会話があった。
「関西 古都」の共通項があっても、それぞれの出身者にはそれぞれの街について言い分、違いが山ほど….京都と奈良の比較で『翔んで埼玉』が撮れるほどあるので、補足として「奈良出身の私にとって奈良らしい映画」を考えてみました。
『ひと夏のファンタジア』(2014年、チャン・ゴンジェ監督)。主演のキム・セビョクはこの後『はちどり』やホン・サンス作品に出演。
https://hitonatsunofantasia.com/
奈良県五條市を舞台に日本人と韓国人が出会う物語。私は五條出身ではないけれど古い家屋が連なる街並みに奈良らしさあり、ユーロスペースで観て「奈良なんて何もないところなのに、映画に映ればちゃんと映画の舞台っぽくなるんだなぁ。何もないのに…」と思ったけれど深い歴史、世界遺産、寺社仏閣、仏像、古墳、埴輪、街並み…たくさんあるのに「何もないところで…」って思ってるのが奈良出身者の感覚かも。
この映画では弘法大師にまつわる伝説のある井戸がどーんと、特に祀り上げられるわけでもなく登場する場面があって、それも奈良らしい。私の出身の界隈は万葉集や日本書紀の世界でもあり、点在する「緑が集合するこんもりした何か」はだいたい古墳、歴史や神話っぽい言い伝えのある何かがゴロゴロそのへんに特別感なく転がっており、ああいうの「野良史跡」と言うのかな。私がいま名付けました。
こう「何もないが歴史はある!」ところ出身だと、時間感覚が独特に育つ傾向にあるなと我ながら思う。奈良に災害が少ないのは大仏様のおかげだと真剣に思っているし、コロナの時期は昔の人はこういう時に大仏建立したんだな、と納得した。「古都」という言葉は「古いこと」が文字に含まれているから京都や鎌倉が「古都」を名乗っていると、現代に比べると相対的に古いけれど、は?京都や鎌倉程度の歴史で?100年~400年早いんじゃ?と思ってますね!これが「古都マウント」って気持ちですか。私がいま名付けました。
ayaさんからの「京都らしい1本」は学生時代、長く過ごした私にとっての京都の映画を選びました。東京生まれ東京育ちのayaさんの選ぶ東京らしい映画についてもお話しいただいています。是非どうぞ!
写真:通っていた小学校がある界隈で、江戸時代の建物群が残っている。
Weekly28/窓ぎわのトットちゃん/大河ドラマ
2024年、新年を祝う言葉を発するのも躊躇う年明けになりましたが、皆さまご無事でしょうか。
映画初めは地元・奈良のシネコンでアニメ『窓ぎわのトットちゃん』。
このタイミングで映画に!?と公開されても現実感が湧かず、そのうち観るかもとのんびり構えていたら家族から誘いがあり一緒に鑑賞。
観られてめちゃくちゃ良かったです。あえて絵本のような独特の作画にすることで、小さい子供に観てもらいたい狙いがあったのかな。トモエ学園でのトットちゃんの日々、小児麻痺のやすあきちゃんとの出会いと別れ、やがて戦争に突入。原作を丁寧になぞりながら、想像力たくましいトットちゃんらしいのMGMミュージカルのような場面やホラー映画のような悪夢の場面が事実を装飾していく。
パパは音楽家、ママは洋裁上手な専業主婦、洋館に住み朝食はパン卵サラダ、お友達のやすあきちゃんは田園調布に住んでいる1940年代前半、東京西側で文化的な生活をおくる小さなトットちゃんに戦争の影が忍び寄り、やがた引き返せない大きな渦に巻き込まれていく流れが、それまでの景色に微かに加えられる変化によってセリフも説明もなく静かに描写される。
2022年の年の暮れの『徹子の部屋』で、「来年はどんな年になるかしら?」の問いかけに、ゲストのタモリさんが「新しい戦前になるんじゃないですかね」と答えたこと、1年経ってみて的確な予言だったと思っている。戦争を知る世代が少なくなる中、アニメ化された『窓ぎわのトットちゃん』は美しくやがて虚しい反戦映画で、その虚しさに暗闇で泣いた。
<最近のこと>
今年の大河ドラマ『光る君へ』、紫式部に吉高由里子、藤原道長に柄本佑がキャスティングされ楽しみにしている。以前『鎌倉殿の十三人』の予習復習としてマンガ版『吾妻鏡』を読み、理解に役立ったので歴史マンガを今回も探した。『源氏物語』のマンガはいくつもあれど、紫式部の人生を紹介するマンガは少なく、一番新しい集英社の一冊を購入。
他のキャストを知らなかったので第1話冒頭から安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)が登場して興奮。かなり前、京都で晴明神社の前を通りかかり、参拝し魔除けシールを購入。その頃なぜか自転車に乗って怪我することが多かったので、当時乗っていたプジョーの自転車にビシッと貼った。…すると…!なんということでしょう!あんなに生傷絶えぬ自転車生活だったのに!ピタッと怪我や負傷がなくなった….!!…嘘やと思ってるやろ?私は絶対、陰陽師の魔除けパワーやと思ってるよ!
ま、単に注意深く自転車に乗ることを心がけるようになっただけかも?短いながらユースケ・サンタマリアの存在感もさすがだったので俄然、大河が楽しみです。
Weekly28/祇園会館/1月
あっという間に1月も終わるので、滑り込みで記録を書いてます。
2023年、劇場初めは映画館ではなく、お笑いの寄席で。東京に戻る前に寄ったよしもと祇園花月。八坂神社の斜め向かいあたりにある古い建物・祇園会館の中にあり、学生時代、ここが名画座だった頃によく通っていた。2本立てで出入り自由の緩い運営だった。
時は流れて、ものすごく久しぶりに祇園会館の中に入ったのだけれど、これがもう….何ひとつ昔と変わっておらず、変わらなさに薄ら怖さすら感じた。不思議な柄の緞帳も客席のシートも、今どき和式のトイレすら、何も変わっていない。
時空が歪むとはこのこと。去年の秋、東京国際映画祭で久しぶりに上映されたツァイ・ミンリャンの『楽日』を観たのだけれど、あの映画の中の映画館に迷いこんだようだった。祇園会館は座席数も多い、巨大なホールであることも『楽日』そのものなんである。
『楽日』
https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3504WFC14
翠子さんのこの回を読んで、また観たいと思っていた
https://cinemastudio28.tokyo/kumonouede_001
お正月らしく人気の芸人ばかり出てくる寄席で、笑いながらもずっとぞわぞわした。そういえば有楽町の有楽座も、映画館だったのが現在はよしもと有楽町シアターとしてお笑いの劇場になった。よしもと祇園花月も、よしもと有楽町シアターも、内装を何ひとつ触らず(=お金をかけず)陣地拡大するかのように劇場を増やしていくのは、さすが吉本興業の抜け目なさだけれど、どちらの劇場も出演する芸人さんたちが「客席の笑いが舞台に聞こえづらい」「会場が重い」と、やりづらさを口にするのをよく聞く。
これって劇場の構造がそもそも映画用(祇園会館は祇園踊りの会場でもあるので、踊りの発表用でもある)…つまり客席の反応次第で演目・出し物が可変する可能性が低い/ない見世物向きの劇場であって、映画のような複製芸術にはぴったりだけれど、お笑いのような客席とのやりとりによって漫才のネタが変化したり調整したりするような見世物には向いてない、ということなのかな。
在りし日(映画館時代)の祇園会館についてはこちら。映画上映は2012年3月で終了。
http://www.cinema-st.com/classic/c014.html
<最近のこと>
実に3年ぶりに帰省。初詣は春日大社。敷地は広いけれど境内は広くなく、コロナ禍の入場規制でなかなかの時間待った。
鹿たちも元気で何よりです!心なしか子鹿ちゃんがたくさんいたように思うけれど、観光客が減ってのんびり過ごした結果、たくさん子鹿が生まれた、などかしら。
真っ赤な星
テアトル新宿で。『真っ赤な星』は11月、完成披露上映会で鑑賞。この映画は、タイトルが決まる前からずいぶん長く存在を知って楽しみにしていた。
井樫彩監督の名前は、なら国際映画祭で偶然観た『溶ける』で知った。靴を脱いで上がってパイプ椅子に座るような公民館スタイルの上映で観たのだけれど、『溶ける』に圧倒され、これ撮ったのってどんな人なんだろう?って思っていたら、恥ずかしそうに監督が登場し、しかしニコニコしているだけで映画についても自分についてもほとんど何も喋らず、何も喋らなかったことで、ますます興味が沸いた。最終日、授賞式で『溶ける』は賞を獲ったけれど、やっぱり監督はほとんど喋らなかった。誰もが自分のことを喋りすぎる21世紀に、興味だけ掻き立てて去って行った人だった。
名前を覚えて、新作は必ず観よう!と心に誓い、その新作が『真っ赤な星』。
耳障りの良い言葉を選べば緑豊かな、選ばなければ何もない、と形容されそうな地方の街に暮らすふたりの女性の物語。今時そんな悲惨な現実はあるのだろうか…と訝しくも、きっとあるのだろうな、と同時に思わせる、周りの誰もが彼女たちに優しくない場所で、八方塞がりの日々を送る。徐々に気が重くなってくる物語だったけれど、辛くなる直前にすっと差し込まれる空や星、見晴らしのいい高台からの景色、朝焼け…彼女たちがいる景色があまりに鮮やかに切り取られていて、地獄のように思える地上も、俯瞰で見れば天国みたいな、綺麗なところだなぁ、と観終わって時間が経過すると、とても美しい映画を観たと思えたから不思議。『溶ける』を観た時にも確か、そんなことを思った。
台詞や音楽に頼らず、沈黙を恐れず、映画という表現と観客をスパッと信じてそうな、肝の据わりっぷり。井樫彩監督、現在22歳。映画を撮った時はもっと若かったはずで、年齢と表現の成熟にどれぐらい相関があるのかはわからないけれど、信じられなくて、監督いくつだっけ?人生何回目よ?ってプロフィールを二度見したくなる感じ。
完成披露だったので上映前に挨拶があり、ふわふわ動く真っ赤な星の風船と戯れて、やっぱり殆ど何も喋らなかった監督は右端の女性です。公開前後、いくつかのwebにインタビューが公開されているのをちらっと見かけたけれど、映画だけを観て、どういう人なんだろうな…?って考えているほうが楽しい気がして、ほとんど読んでいない。
2年前の夏、ある書店であったイベントに参加することになり、映画にまつわるアイテムを出品したところ、ほとんどお買い上げいただき、いくばくかの利益を得ることとなったのですが、そのお金は映画のために使うべきでは?と考え、使わずにキープしていたところ、井樫彩監督が新作を撮る、クラウドファウンディングで支援を募っているとの情報を得て、微々たる金額ながら、参加してみることにしました。
クラウドファウンディングのリターンとして『真っ赤な星』のサイトにも、映画のエンドロールにも、Special ThanksとしてCinema Studio 28 Tokyoの名前を載せていただいています。
東京での公開はもうすぐ終わる?ようですが来年以降、あちこちの街で公開が決まっているようなので、ご興味の方、新しい監督の映画を観てみたいというみなさま、是非に。
数あるクラウドファウンディングの中から、井樫彩監督の映画を選んだのは、『溶ける』を観たのが、なら国際映画祭だったからという理由があると思います。『溶ける』は地方に暮らす女子高生の物語。自分の居る場所がつまらなくて息が詰まって、どこかに行きたくてしょうがない。観終わった後、ぼぅっとして外に出てコーヒーを買い、池のほとりのベンチで飲んで顔を上げると、興福寺の五重塔が見えて、絵葉書そのものの、嘘みたいに整った視界だった。奈良は私の地元で、あの子のように、つまらなくて息が詰まって、どこかに行きたくてしょうがなかったけれど、こんな景色、他にどこにあるのかしら、世界中探したって奈良にしかないのにね、と可笑しな気分になったところで『溶ける』が一気に身体に染みてしまって、だから井樫彩監督は、私にとって特別な監督なのです。
秋の奈良
残暑厳しき折、遠くに送るため、銀座にかりんとうを買いに。たちばな。東京3大かりんとうとは、湯島の花月、浅草の小桜、銀座のたちばな、このうち支店もオンラインショッピングもできないのは銀座たちばなだけ、らしい。
今時、その場所でしか買えないものほどロマンティックなものはない。
なら国際映画祭の情報が徐々に更新されてきているけれど、今年は行けない予定。審査委員長はムンジウ。楽天トラベルと連携して映画鑑賞券つきの宿泊予約もできるようだし、河瀬監督の作風や人柄は好き嫌いが分かれるでしょうが、欲しいものばりばり手中におさめる種類のバイタリティに圧倒される。
前回グランプリ(ゴールデンSHIKA賞)を獲ったイランの女性監督は天理市で映画を撮り、オープニングで上映されるそうで、詳細が出たのでチェックしてみると、主演は加藤雅也さん(奈良出身)、そして今をときめく石橋静河さんも出るようなので興味が湧いてきた。東京でも公開されるかな。
『二階堂家物語』、詳細はこちら。
ロケ地
めいめい好きな食べ物を狙う空腹ペンギンズ。定形外送料が高くなったので、最近はクロネコヤマトの宅急便コンパクトで送ることが多い。小箱にギュッと隙間なく詰める作業が楽しいけれど、切手を組み合わせてベタベタ貼る機会が減って寂しいな。
ペンギン切手、たっくさん買い溜めしたので、切手ファイルの中で大量のペンギンが出動を待っている。
『ペンギン・ハイウェイ』、アニメの場合もロケ地と呼べばいいのか不明だけれど、奈良県生駒市界隈が描かれているらしい。
https://masamunenet.com/archives/916
原作の森見登美彦さんが生駒出身だからかな。ペンギンに加え奈良とくると、もはや私のための映画では…ありがとう…。
アオヤマくんが想いを寄せる「お姉さん」、来世があるとしたら、あの「お姉さん」に転生し、ペンギンの大群を自在に操りたい。号令かけるシーンは、映画至上屈指のペンギン名場面。
ナヒード
2016年なら国際映画祭コンペティションでグランプリを獲った『ナヒード』について何も書いていなかったので、薄れゆく記憶の底から断片をさらってメモ。
イラン映画、どれを観ても粒ぞろいに面白く、文化のギャップも日本暮らしの私には目新しく、アスガル・ファルハーディーを筆頭に複雑に絡まった伏線がパズルのピースを埋めるように回収されてゆく見事な脚本、イラン映画というだけで鑑賞後の満足度はある程度は保証されている…という安心感。
けれど、何年か追いかけるうちに、やがてその質の高さに食傷気味になってきた。結婚前、自由恋愛は許されても、肉体関係を持つことは許されていない女性たち。詳しくないけれど、私が映画の中で出会った女性たちはすべからくそうだった。婚約中に他の男性と歩くだけで禁忌に触れるおそれがあり、気に病んだ女性が自殺する結末に至った時は、何がいけなかったのか理解できず、ひとしきり調べてみたこともあった。
イラン映画を観た後にモヤモヤした後味が残り始めたのは、そんな女性たちの選択肢の多くはない生き方が、物語を駆動させるための道具として便利に使われているように思えたからかもしれない。箱の中の美しい小鳥を緻密に観察はしても解放はしてくれない映画たち。
『ナヒード』が印象に残っているのは、あちこちにぶつかって傷をつくる女性の姿を、揺れる気持ちを揺れるままに描写し、巧く物語に回収しなかったからかもしれない。男だ女だという主語で語るものではないかもしれないけれど、女性監督が撮ったイラン映画を観たのは初めてだったはずで、私にはずいぶん新鮮だった。
『ナヒード』
http://nara-iff.jp/2016/films/internationalcompetition/niff4952.html
9月に開催される第5回なら国際映画祭で、『ナヒード』のアイダ・パナハンデ監督が奈良で撮った映画が上映されるようです。天理市で撮影。
http://nara-iff.jp/narative/narative-2018.html
【about】
Mariko
Owner of Cinema Studio 28 Tokyo
・old blog
・memorandom
【search】
【archives】
【recent 28 posts】
- 1900s (3)
- 1910s (5)
- 1920s (10)
- 1930s (26)
- 1940s (18)
- 1950s (23)
- 1960s (58)
- 1970s (14)
- 1980s (40)
- 1990s (46)
- 2000s (37)
- 2010s (240)
- 2020s (28)
- Art (30)
- Beijing (6)
- Best Movies (5)
- Book (47)
- Cinema (2)
- Cinema award (15)
- Cinema book (58)
- Cinema event (99)
- Cinema goods (15)
- Cinema history (2)
- Cinema memo (127)
- Cinema Radio 28 (8)
- Cinema Studio 28 Tokyo (89)
- Cinema tote (1)
- Cinema Tote Project (1)
- Cinema trip (43)
- cinemaortokjyo (2)
- cinemaortokyo (100)
- Drama (3)
- Fashion (40)
- Food (65)
- France (15)
- Golden Penguiin Award (9)
- Hakodate (6)
- Hokkaido (3)
- HongKong (3)
- iPhone diary (1)
- journa (1)
- Journal (248)
- Kamakura (1)
- Kobe (1)
- Kyoto (18)
- Macau (2)
- memorandom (4)
- Movie theater (210)
- Music (43)
- Nara (15)
- Netflix (3)
- Osaka (2)
- Paris (13)
- Penguin (15)
- Sapporo (3)
- Taiwan (47)
- TIFF (24)
- Tokyo (358)
- Tokyo Filmex (14)
- Weekly28 (10)
- Yakushima (3)
- Yamagata (11)
- YIDFF (6)
- Yokohama (5)
- Youtube (1)