Rules 

・2025年に観た映画のうち「最も印象に残っている映画」を1本選び、紹介してください。

・⾯⽩かった映画、良かった映画だけではなく「意味不明だったけれど、気がつけばあの映画のことばかり考えていた」「不愉快だったけれど、不思議と引っかかるものがあった」、 もしかすると、そんな映画も「印象に残っている映画」かもしれません。

・2025年に観た映画であれば、新作/旧作を問いません。

・映画館に限らずDVD、Netflix等の配信、⾶⾏機の中やテレビ放映で観た映画も対象です。

・映画タイトル、観た場所、そして2025年に撮った映画にまつわる写真を1枚添付し、説明してください。

Writers

柳下美恵(ピアニスト) 
翠子(翠文庫)
維倉みづき(moonbow cinema主宰)
小栗誠史(会社員・広報担当) 
aya (グラフィックデザイナー)
辻本マリコ (Cinema Studio 28 Tokyo主宰)

柳下美恵

ピアニスト

Mie Yanashita’s Golden Penguin goes to…

女性の休日
2024)

監督:パメラ・ホーガン
観た場所:川崎市アートセンター/神奈川/日本

ようやく仕事がひと段落した12月。26日にアイスランド映画を観に行きました。この日は上映後に放課後シアターがあり20人くらいが三階のフリースペースでお茶を飲みながら感想を言い合いました。
チケットを買うのがギリギリになってしまい、窓口に行って席を選んだらほとんど埋まっていてびっくり……高校生も数人来ていました。

素晴らしかった。アニメーションも可愛いし、美人コンテストを美豚コンテストに変えたり、問題意識を持った女性たちがヒステリックにならず楽しそうに皮肉を込めて行うイタズラ。

50年前のアイスランド、90%の女性が仕事を休んだという前代未聞のイベント。成功させるにはいろいろと苦労があったと思いますが、映画はその時の記録映像とイベントを作っていた女性たち(後に初代大統領や初代最高裁判所長官などに就任)の現在のインタビューを交えての70分。

当たり前に過ごしているけれど、冷静に考えると社会は男性が作っている。何も考えなければそんなものと思ってしまうけれど、俯瞰して見ると世の中はかなり歪んでいる。そんなことを改めて考えさせられた映画でした。

川崎市アートセンターは最近とっても雰囲気がいいのでおすすめです。持ち込み持ち帰り自由な本棚「お持ち帰り文庫」があったり、金曜日は焼きいも「大野屋」のキッチンカーが映画館の前に来ていて、脇にテーブルと椅子があって定番や旬の焼きいもが大きさも選べて食べられます。

翠子

翠文庫

Midoriko’s Golden Penguin goes to…

ウィキッド ふたりの魔女
2024)

監督:ジョン・M・チュウ
観た場所:エディハド航空機内にて

はじめて創作した物語は、“おてんば”な子どもの魔女が主人公だった。
はじめて友だちに紹介した物語は、『魔女の宅急便』だった。ひとり熱く滔々と長時間語ってしまった。まとまりのない話を最後まで聞いてくれたクラスメイトたちには感謝しかない。ちなみに、映画化される前のことである。

私がこれまで出会った魔女たちは、みんなひとりぼっちで、淋しそうで、私はずっと魔女と友だちになりたかった。もしくは、魔女になりたかった。魔女に夢中だった時期があった。魔女は何も悪くないのにと思っていた。

「悪い魔女が死んだ!」
ああ、なんて最高なの!!一面に咲き誇るチューリップ、胸の高鳴りを歌に、踊りにのせる。

歓びに溢れる中ひとりだけどこか哀しげなグリンダ。学園時代のグリンダはわかりやすく嫌な女だけれど、欲望全開なだけで可愛くて憎めない。意地悪をしたつもりが、エルファバは好意と受け取ったところからのあの歌と踊りは何度観ても泣ける。西の魔女は心優しい魔女じゃないか。

美術、衣装、踊り、、、画面に映るものすべてが素敵で、ずっと高揚していた。これがミュージカルというものか。わたし、好きだわミュージカル。もっと観たいわ、ミュージカル。

トストス、トストス。
可愛すぎたグリンダが、有名なアーティストだと知ったのは帰国してからの話。
春に髪を50センチくらい切った。
トストスまではまだ遠い。
Dancing Through Life、そう生きていきたい。

ポルトガル、リスボンにある闘牛場(Campo Pequeno カンポ・ペケーノ)の地下にあった映画館、Cinema City Campo Pequeno。映画も闘牛も観なかったけど。次にリスボンに行ったら絶対に行こうと決めいている屋外映画館がある。『魔女の宅急便』の街に似ている街がポルトガルにあるけど、あら、この映画館の名前も『魔女の宅急便』に出てくるわ。

維倉みづき

moonbow cinema主宰

Mizuki’s Golden Penguin goes to…

RETURN TO REASON
2023)

監督:マン・レイ/音楽:SQURL(ジム・ジャームッシュ&カーター・ローガン)
観た場所:ヒューマントラストシネマ有楽町/東京/日本

約100年前にマン・レイが制作した4本の短編サイレント映画に、SQURLが音楽を付けた作品。SQURLと言えば、映画『パターソン』の音楽も手掛けたジム・ジャームッシュ(監督/脚本)とカーター・ローガン(製作)のユニット。映画館の暗闇で、低音と、波紋のような高音に全身が包まれ、銀幕に映るマン・レイの繰り出す映像の摩訶不思議さを増したり中和したり。70分の鑑賞後は、まるで夢から覚めて、自分の思考回路がよく分からなくてちょっと混乱しつつ、何でも出来るかもしれない胸の高鳴りが入り混じった、微睡みの深夜のようだった。

映画館のポスター。「TO」の置き方が、だまし絵のよう。

小栗誠史

 
会社員・広報担当

Mr. Oguri’s Golden Penguin goes to…

お葬式
1984)

監督:伊丹十三
観た場所:TOHOシネマズ日比谷/東京/日本

2025年は伊丹十三の映画全10作品が4K化され、10週連続でロードーショーが行われた。上映後に宮本信子さんと塚原あゆ子さんのトークが行われるというので、『お葬式』を観に行った。

上映時間ギリギリになっても次々と劇場に入ってくる客たち。さらに本編が始まっても客足は止まらなかった。終映までの間、扉は30分にひと組くらいの間隔で開いては閉じ、閉じては開いた。扉のすぐ側の席だったのだが、そんな状況もまた伊丹映画のようであった。上映後、場内が明るくなるのと同時に拍手が沸き起こった。

トークでは『お葬式』制作のきっかけとなったエピソードが紹介された。宮本さんがお父さんのお葬式を行った時、火葬場の煙突から立ちのぼる煙を皆で眺めていると、「小津さんの映画みたいだ」と伊丹さんが呟いたのだと。それは映画の中でも描かれた、最も美しいシーンのひとつ。家に帰り、買ったままにしていた伊丹十三の『「お葬式」日記』を開くと、当然それも書かれていた。しかしカットされたシーンのなんと多いことか。

『お葬式』の舞台は故人の自宅だったが、現在では自宅葬が行われるのは5%ほどなのだとか。映画を観ながら思い出したのは、祖父母の葬儀のこと。父方も母方も自宅葬だった。だからか映画に描かれた風景にはどこか見覚えがあった。参列者は皆、泣いたかと思えば笑い、笑っていたかと思えば泣き、そしてまた笑った。きっと、いいお葬式だったのだ。

伊丹十三4K映画祭では、全作品のチラシを再現して綴じた冊子が入場者に配布されていた。これまで『お葬式』を観ずにいたのは、この日のためだったのかもしれない。

aya

グラフィックデザイナー

aya’s Golden Penguin goes to…

ヤンヤン 夏の想い出 4Kレストア版
2000)

監督:エドワード・ヤン
観た場所:ル・シネマ渋谷宮下/東京/日本

私はエドワード・ヤン監督の映画をリアルタイムで見るのには間に合わなくて、ヤンヤンが映画館でかかっていた2000年には、人生で初めての単舘映画『ヴァージン・スーサイズ』を見ていただけだった。

2025年5月に劇場で『カップルズ』を見て、前半の女性へのきつさが後半で男性に反転する展開に驚いた。劇場で見ていなかったら、途中でやめていたと思う。

年末にル・シネマで初めて見た『ヤンヤン 夏の想い出』は『カップルズ』にあった痛々しさやストリートの空気とは違う作品で、作品の間隔としては2作品の間に4・5年しか経っていないのに、老成や成熟があった。

映画の中では人がわめいたり、怒ったり、酔っ払ったりするのに、全体のトーンは常に端正で、イッセー尾形が演じる大田は不思議な浮遊感があり、画面に映る東京はノスタルジックで美しかった。

小さい男の子と10代の姉、中年の夫婦とその弟夫婦、映画の中ではほとんど眠っている祖母の映画は、可愛い男の子を中心にした楽しい映画ではなく、諦めを受け入れながら人生の後半に向かう大人の話であり、20年分の感傷がよぎっていても熱くなく、冷たくもない。

監督が登場人物のどの人に共感を寄せていたのか分からないけれど、ヤンヤンが書いた言葉の美しさ、人の背中を見つめる視線があること、世界の暴力性と同時に、全てを内包するあの場所の光。
映画館で見ないと全部を受け止められない作品に出会う幸福を感じた。

『リンダリンダリンダ』公開20周年 4Kの舞台挨拶で、大好きなぺ・ドゥナさんに会えて感激しました。

辻本マリコ

Cinema Studio 28 Tokyo主宰

Mariko’s Golden Penguin goes to…

劇場版 チェンソーマン レゼ篇
2025)

監督:吉原達矢
観た場所:TOHOシネマズ上野/東京/日本

私の2025年は韓国映画のようにドラマティックな起伏のある日々だった。そんな日々は映画で観るだけで十分で、渦中にいると消耗が酷かった。仕事帰り、東京の中心を走るバスに乗る時間だけがリラックスタイムで、音楽を聴きながら頭をからっぽにする20分で回復していた。

そんなある日流れてきた『JANE DOE』が初秋の夜の東京にあまりにも似合って胸に迫ってしまった。この歌が最後に流れるならば、映画館に行かなければならない。チェンソーマンを何も知らなくても。

『レゼ篇』はボーイ・ミーツ・ガールだった。複雑さを抱え絶望の淵を生きる少女と対照的に、少年は飄々と軽く見えるけれど、彼にも複雑な背景はある。どこまで見渡しても地獄みたいな世界をシンプルに渡っていく少年は、少女にはずいぶん眩しく見えただろう。

2025年の私の現実はフィクションを超えるドラマティックさがあり、もうどんな映画を観ても楽しめない、不感症の気分になっていたけれど、『レゼ篇』はアニメーションだからか、ふたりのおかげか、久しぶりにフィクションに浸れた悦びがあった。至高のラスト10分を経て暗転し『JANE DOE』が場内に流れ始めると、あちこちから啜り泣きが聞こえてきた。私も泣いた。自分の内側から何かが涙の形で流れて出ていった。

出張先のシンガポールで。The Projectorという映画館が好みに合いそうで、サイトで上映情報をチェックしたけれど直前になっても何も更新されず。とりあえず行ってみよ!とメトロを乗り継ぎ到着すると…営業しておらず、漂う廃墟っぽさ。帰国して程なく、閉館のニュースを読んだ。映画館が終わりゆく瞬間に、図らずして立ち会ってしまうなんてレアな経験だったかも。内装が可愛くて、やっぱりここで何か観てみたかったな。