弥生美術館 長沢節展
りえこさんリクエストにより、弥生美術館で開催中の「生誕100年 長沢節展」へ。すぐ行ける近所だけれど、前回行ったのも、りえこさんリクエストにより谷崎潤一郎と着物の展示だったように思う。きっかけは大事!
http://www.yayoi-yumeji-museum.jp/yayoi/exhibition/now.html
生い立ちから晩年まで絵やファッション・イラストレーションの画風の変遷が解説され、閉校したばかりのセツ・モード・セミナーの写真や、洋服や靴など私物まで丁寧に網羅された充実の展示。もちろん名前は知ったいたけれど、詳しくは知らなかった私にも魅力は伝わってきて、改めて「生誕100年」が信じられない、モダーンでフラットな思考の持ち主。あの時代の男性は…など、ついつい言いたくなるけれど、結局は個人差であるよなぁ、セツ氏は極端な例ではあるけれど。
校舎の屋根裏と地下にあったという秘密基地のような住居用の部屋の写真が興味深く、意外なほど持ち物が少ない人だった。写っていないところにたくさんあるのかもしれないけれど、部屋の中に余白が多く、風通しも良さそう。全方面に好き嫌いがはっきりしていて、こういう人は得てして持ち物が少ない。描く男女のフォルムも、ご自身の体型も、骨の存在を強く感じられるほど肉感のない細身を好んだところも、さぞかし身軽が好みだったのだろう。そうそう、他者の見た目に関して、好き嫌いは誰しも本能的なものとして持っているとして、細身好きな人が必ずしも本人も細身とは限らないけれど、セツ氏は美を自分にも要求する厳しさがあったのだろうか。どの年代の写真を見ても体型の変化は微塵もなく、等しく細身だった。
映画についてのコーナーが楽しく、ネットもない時代に、これからかかる映画のタイトル、時期、映画館、配給会社など情報をびっしり書いたノートが展示されており、おそらく90年代、タイトルの羅列からも映画の好みが伺えた。そして女優や俳優についてのコラムの読み応えのあること…!ドヌーヴはサンローランを着るには小柄だが、そのミスマッチ感も魅力を生む理由だろう。ドミニク・サンダはしっかりした体格でプレタポルテよりオートクチュールが似合うが、自分の好みに照らすともう少し痩せた方が好き…等、監督でも物語でもなく、ひたすら人物のフォルムを追いかけ、自分の好みに対していかに好ましいか、好ましくないかという基準のみで書かれており、なんという偏った映画愛!極私的視点、最高!映画について私が読みたいのはこういう文章!と、大興奮。映画コラムは本にもなっているらしいので、これから徐々に読んでいこうと思う。
身近なところでは、対談連載のイラストを依頼されて描いたという日本の著名人の似顔絵があり、まず目に入ったのが三谷幸喜。今より若い頃とはいえ、私の知る限り、三谷幸喜があんなに痩せていたことはない。似ていなくはないけれど、3割ほど脂肪が削られているのだ。違和感を覚えながら他の人のを観ると、もともと細い小田和正はさほど違和感はないものの、宮﨑駿もつんくも、やはり3割脂肪が削られ、こんなシュッとしてないよ?と異議を唱えたくなる描かれっぷり。岩井俊二に至ってはヴィスコンティ映画の登場人物のようなドラマティックな絵に仕上がっていた。映画コラムといい似顔絵といい、すべてを自分の嗜好にグッと引き寄せる、その握力の強さこそ類い稀であり、その証明として十分たる内容の展示だった。大満足。
グッズも豊富にあり、手紙好きの私はポストカードを購入。いろんなタッチの絵のものがあったけれど、自分が着るならこの洋服がいいな、と思った2種類を選んだのは、自分の嗜好に素直なセツ氏にあてられてのことだろう。短い時間触れただけでこうなのだから、教え子の皆さんへの影響は、さぞかし絶大なのだろうな。