想起
早稲田松竹エドワード・ヤン特集、すでに何度も観ているので『エドワード・ヤンの恋愛時代』は今回パスしたけれど、4Kリマスタバージョンが最初に公開されたのが2022年の東京国際映画祭で、私にとっても久しぶりの鑑賞だった。
で、濱口竜介監督の『PASSION』のラストの展開のこと、今ひとつ理解できている気がしなくて、胸の中にずっとあれってどういう意味なんだろうな…と残り続けており、『恋愛時代』のラストの展開を改めて観たら、あ!『PASSION』のラストってこれかも!とブチッと2本の映画が繋がる感覚があった。ウディ・アレン的な都会の群像劇と謳われがちだけれど、扉/エレベーターの開閉を多用したすべてを見せない演出はエルンスト・ルビッチ的でもあって、自分の嗜好の点と点がスッと線で繋がるようだった。
この時の上映、濱口監督がトークで登壇し、エドワード・ヤンを語る時間があり、原題『獨立時代』の意味にも触れているので、どちらの映画も好きな方に是非Youtube観ていただきたいです。動画の中で語られる「東京国際映画祭が京都で開催された年があって、エドワード・ヤンの『獨立時代』が上映された」エピソード、私はその会場にいて、エドワード・ヤンのトークを聴いた。
御法度
夜桜の下を歩くと、2月の終わり早稲田松竹で観た『御法度』、を思い出した。1999年の映画で、大島渚監督の遺作。
今となっては貴重な35mmフィルム上映だけれど、以前は日常的に35mmで観ていたから特に構えず映画が始まったら、あまりの美しさに驚く。喪服の質にうるさいご婦人みたいな表現だけれど、黒の質感が違う。『御法度』公開時は日本にいない時期だったので映画館で観たか記憶にないけれど、松田優作の息子がデビュー!と話題になったことは鮮明に覚えており、初めて見た松田龍平に、この世でこんなに自分好みの見た目の人類がいるのかという気持ちになった。あれから時間が経つが、今でも銀河系で一番好きな外見だと思っている。本能なので理由はない。
オープニングを観ながら映画の詳細を思い出し、衣裳が特徴的だった気がする…と思えばクレジットにワダ・エミと、音楽誰だったっけ…と思えば坂本龍一と映し出され、ずいぶん贅沢な映画なのだった。
10代の頃、市川雷蔵を好きだった時期にみなみ会館の特集に通い詰めていた。雷蔵さんも美しいけれど、当時の大映映画のリアリティを超越したセットにさらに惚れ惚れした。『御法度』開始数分で、あの頃の大映映画…例えば『雪之丞変化』(市川崑監督/1963年)みたいな質感だな、と思えば美術監督が同じ西岡善信。『御法度』、あの頃の大映のような世界観の中央に佇む、銀河系で一番好きな外見の松田龍平。私にとって、この世の春みたいな映画だった。
幕末の京都、新選組に若い謎めいた少年(松田龍平)が入隊することで隊の規律が乱れていく群像劇であり、衆道の物語でもある。これまで衆道の気配がなかった男も、少年のあまりの妖気に惑わされていく。しょうがないよね、松田龍平だもん。思わぬ収穫として、武田真治演じる沖田総司が溌剌とした中に一抹の凶器を漂わせており良い。漆黒の夜道に土方(ビートたけし)と夜桜が映るラストシーンも、これから幾度となく春の夜に思い出すことになりそう。
東京国際映画祭
明日で終わってしまうけれど東京国際映画祭、4枚チケット購入。今年は日本映画比率が高かったような気がするけれど何か事情があったのかな。
コンペティション部門の審査委員長にチャン・ツィイーが選ばれたというニュースを読んでから、会期中にきっと記念上映があるだろうと心待ちにして、真っ先にチケット確保。デビュー作『初恋のきた道』特別上映後、Q&Aに登壇したチャン・ツィイーがこちらです。きゃー!章子怡!!!
中華圏には魅力的な俳優・女優がたくさんいるけれど、ずっとチャン・ツィイーが一番好き。立ち姿や所作の美しい人が好きで、映画でそんな人を発見して経歴を調べるとダンスの素養のある場合が多い。中央戯劇学院という名門演劇学校が北京にあるけれど、チャン・ツィイーはその舞踏科出身、小さい頃から中国の舞踏の世界で名前が知られていたエリート・ダンサー。Youtubeか何かで、解放軍の制服を着て華麗に踊るチャン・ツィイーの映像を観た記憶があるけれど、あれは一体何だったのだろう。もう一度観たいけれどどう検索しても探し出せず、幻だったのかもしれない…。
と、そんなチャン・ツィイーは映画デビュー20周年だそうで『初恋のきた道』の上映後、チャン・イーモウからのビデオレターも上映された。Q&Aの記事はこちら。
https://2019.tiff-jp.net/news/ja/?p=53189
最初に質問した男性は『初恋のきた道』や『グリーン・ディスティニー』のチャン・ツィイーを観て、中国の女性というのはなんとしなやかで生命力に溢れていることか!と感動し、やがて中国の女性と結婚したらしい(!)。チャン・ツィイーはそれを聞いて、それは良いことだわ、中国の女性はきっとあなたをすごく照顾(世話をする、面倒をみる)するでしょう、とニコニコとコメントしていた。私の周囲の中国の夫婦は、どちらかというと旦那さんのほうが奥さんを照顾する傾向にあるけれど、チャン・ツィイーは違うのかな、と興味深かった。
質問の内容が重複して「それはまさにさっき答えたばかりだわ」と言う場面もあったけれど、あなたにもひとつ素敵なエピソードを教えるわ、と質問者ががっかりしないようにフォローするなど、チャン・ツィイーは素敵な人だった。なんだかとても陽のオーラのある人で、幸せそうで何より、もしやこれが「推しが幸せそうで、私も幸せ」というやつかしら。
『初恋のきた道』は、初々しいチャン・ツィイーは確かに可愛いけれど「男性が勝手に妄想する女性の可愛さ」の、よくできた結晶という感じがして、私はあまり好きな映画ではない。映画の経験のないチャン・ツィイーのために工夫したのかセリフが少なく、料理をする、掃除をする、走るといった動きに感情を乗せていく演出が「動くチャン・ツィイー」の魅力に合っていた。あれだけ走って上半身がブレないチャン・ツィイーの鍛えられた体幹を愛でる映画であった。
私が好きなチャン・ツィイーは『2046』と『グランド・マスター』のチャン・ツィイー。ウォン・カーウァイの映画の中で不思議なほどチャン・ツィイーは輝く。この2本はウォン・カーウァイらしい物語の破綻を、チャン・ツィイーの動きの魅力が補填するバランスの危うさもたまらない。チャン・ツィイーのファンでなければ、ただのよくわからない映画、だがそこが良い!特に『グランド・マスター』の駅でのアクションシーン(あの列車はやたら長いが、チャン・ツィイーのアクションを永遠に観られるなら1000両編成の列車が存在しても良い。万里の長城を作った国なら、そんな列車は作れる)、『2046』はマカオに行った時、ロケ地になった安ホテルにも行き、ここでチャン・ツィイーが!と、ひとしきり写真を撮った。完全にファンの行動である。
コンペの審査委員長は最終日、各賞を発表した後、記者会見でコメントするはずなので、今年の東京国際映画祭は最後まで楽しみです。
【本日更新】雲の上で踊る 2018年 冬
本日更新しました。
雲の上で暮らす翠子さんの春夏秋冬と、その季節に観た映画の記憶について。連載「雲の上で踊る」2018年 冬。
翠子さんが冬に観た映画は、私にとって大事な1本で、これまで映画館でしか観る方法がなく、東京でも数年に一度しか上映されなかったから、いつも情報を頑張って得ては、いそいそと映画館に駆けつけていました。
原稿をいただいて、あ、そうか、あの映画DVDになってレンタルも始まったんだ、と知り、永く密かに心の中にあった映画を、雲の上で翠子さんも観て、こうやって感想を読むことができるなんて、21世紀の複製芸術、便利なことよ…と改めて思いました。
春に始まった雲の上からのお手紙も、ぐるっと冬までたどり着き、風景もひとめぐり。あなたの冬の思い出とあわせてお楽しみいただければ幸いです。
PCでarchivesをみると、四季折々の山の写真。
https://cinemastudio28.tokyo/archives
東京上空いらっしゃいませ
新元号が発表された頃、いよいよ平成が終わる、もう思い残すことはないけれど願いを言えるならば『東京上空いらっしゃいませ』を4月のうちに観たいなぁと、そんな願いがどこかに届いたのか4月半ばに目黒シネマで上映されることを知り、すべてを放り投げて観に行った。
指先でタッチするだけで映画がまるごと手の中の小さな画面に届く昨今、バチバチ音の鳴る、映画館でしか観られない映画があるなんて、不便さはロマンですねという種類の事案。
死んだ後に改めて生を体験する物語だからか、去年の手術の全身麻酔でささやかな臨死体験を経た目で観てみると、退院し数日ぶりに外に出た瞬間、街じゅうが困っちゃうぐらい可愛く、浮かれてセブンイレブンで普段食べないかぼちゃプリンを退院祝いに買っちゃうぐらい、この可愛らしい世界よ!という気分になったことを、主人公・ユウの溌剌とした仕草に重ねて思い出した。
去年から、決めることの潔さもスピードもぐっと増したのは、死ぬってこんな感じ、とイメージできた気がしたからから、生きてるうちに決めることなんて何も怖くなくなったからなのだろう。映画の最後、ユウの去り際が清々しくきっぱりとしていることが、これまで少し腑に落ちなかったけれど、あれは「一度死んだから」なんだろうなぁ、と今回はストンと理解した。何事も体験。
何度も観たせいか今回は、話の筋が通らないところが随所にあるなぁ、などあちこち粗も見つけはしたけれど、些少な粗なんぞ秒で吹き飛ばす、暴力的にチャーミングな映画だった。チャーミングの暴風雨。もっとよくできた完璧な映画はたくさんあるのだろうけれど、『東京上空いらっしゃいませ』は間違いなく、私にとって平成で一番チャーミングな映画だった。
東京上空
先週、朝食を作る余裕なく家を出てオフィス地下で調達。デスクで食べようと思ったら普段いない同僚がいて、あれ、早い?って言ったら、こないだ早朝花見したいねって言ってたやつ、これからやりません?って提案され、テラスに出て、ファミリーマートのサンドウィッチとコーヒー総額300円少しとともに堪能した視界がこちらです。
東京が絵みたいで嘘くさい、あの世ってこんなかしら、実は私死んだのかな、ってもぐもぐ考えるにつれ、もう平成に未練なんてないと思っていたけれど、平成のうちにもう一度あの映画観たかったなぁ、でもそんな都合よく映画館にかからないか、って思った映画が明日からかかるとさっき知った。
『東京上空いらっしゃいませ』、目黒シネマで。生きることと死ぬことについての映画です。混むかなぁ。
http://www.okura-movie.co.jp/meguro_cinema/now_showing.html
Studio Galande
昨日更新したCINEMATIC,COSMETIC第1回、ayaさんがネイルを塗って観に行った映画は『メッセージ』。大好きな映画なので原稿をいただいた時は嬉しかったです。私は平日の夜、仕事の後にTOHOシネマズ日本橋で鑑賞。大きめのスクリーンいっぱいに「彼ら」が何かを伝えんとする表語文字が墨絵のようにじわっと広がるのを、満席の観客みんなで固唾を呑んで見守っていた。観終わって外に出ると、日本橋のビル街の風景も、少し違って見えました。
そんな『メッセージ』、また観たいなぁ…と、あれから何度も何度も思い出しているけれど、家で観るのもちょっと違うな、と。いつか再上映の機会を待っている。東京にはたくさん映画館があるのだから、いろいろ事情はありましょうが、毎週金曜の夜にしぶとく『メッセージ』をかけ続けることが名物の映画館がひとつぐらいあってもいいんじゃないかしら。10年経っても20年経っても、ひたすら『メッセージ』がかかっていて、あの映画をその映画館で観ることそのものが映画好きの憧れになるような。
思い出すのは、パリのStudio Galandeという、ノートルダム近くの路地にある小さな映画館。なんと1978年からずっと、『ROCKY HORROR PICTURE SHOW(ロッキー・ホラー・ピクチャー・ショウ)』を定期上映していることで有名。毎週タイムテーブルを教えてくれるメールマガジンに登録し、ずっと解除していないけれど、見るたびに、毎週この映画かかってるな?と不思議に思っていただけで、そんな長い歴史があるとは知らなかった。
http://studiogalande.fr/FR/17/rocky-horror-picture-show-cinema-studio-galande.html
こちらに日本語で詳しく解説されています。
http://www.hitoriparis.com/kanko/galande.html
毎週パリであの映画がかかってると妄想するだけで心が温まる熱いROCKY HORROR PICTURE SHOWファンもいるに違いない。こんな感じで『メーセージ』をかけ続けてくれるなら、ばかうけ似の宇宙船のコスプレでもして馳せ参じたい。
ずいぶん前の夜、Studio Galandeで私が観たのは、偶然かかっていた石井聰亙(現在は石井岳龍)監督の『ユメノ銀河』だった。パリで観るモノクロの妖しい日本の風景、得難い経験だったな。
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