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先日、曇り空の神保町。久々にランチョンでお昼を食べた。ビールを飲まなくてもかなり美味しい洋食店と思う。飲むけど。通し営業で中途半端な時間でも何かしら食べられるのが、映画や寄席の前後に立ち寄りやすくて好きです。
国立映画アーカイブの高峰秀子特集で『衝動殺人 息子よ』(1978年/木下恵介監督)を予定どおり観た。『虎に翼』といい、最近は法律の話ばかり観ている。感想は別に書くとしてこの時代の映画を観て思うことに、俳優のセリフまわしが現代より、センテンスの冒頭というか、話しはじめにアクセントが強く、語尾が消えがちな気がする。これは当時の録音技術によるもので、録音技術の向上により、日常会話に近いナチュラルな発話でも機材が声を精緻に拾えるようになったのかな…と推測したのだけれど、実際どうなのでしょう。
Cinema memo: 高峰秀子特集
もらったチラシ。国立映画アーカイブの高峰秀子特集。もうすぐ。
この特集に限らず、生誕100年の今年はいろんなイベントがあるみたい。
https://www.takamine-hideko.jp/
『衝動殺人 息子よ』(1979年/木下恵介監督)、この機会に是非と思っている。この映画で加藤剛が演じる中谷という役(犯罪学を研究する大学教授で犯罪被害者遺族支援に奔走する)は友人のお父さんがモデルで、ずっと前にその話を聞いたのに観る機会を逸し続けていた。
https://www.nfaj.go.jp/exhibition/hideko_takamine202402/#section1-2
ムンク展
1/20で終了になる美術展が多く、心が慌ただしい。スケジュールの隙間を確認しながら、映画の予定をバチバチ決めていくのも判断力を要するけれど、美術展は開館時間と混雑度とのせめぎ合いで、映画とは別の要確認要素がある。
東京都美術館、ムンク展へ。
入場は30分待ちだったけれど、無事に入ってみるとさほど混雑も気にならず、案外ゆったり鑑賞できた。展示構成のシンプルさ、作品のサイズ、展示室の規模によるものだろうか。
なんとなく「叫び」の画風から神経質で気難しい人なのでは、と思っていたけれど、50代を超えたあたりで田舎の土地を手に入れ隠遁生活に入るものの、それまでの人生で出会った人たちを描いた絵を家のあちこちに大切に飾るなんて、なんだか可愛らしい人だな、と思った。創作生活のために孤独であるべし、と生涯独身だったそうで、ムンクのことを好きだった女性たちは大変だっただろうけれど(実際、事件も発生)、数年に一度アトリエを訪ねてのんびり話すような距離感の友達でいるぶんには、面白い人だったのでは…と勝手な妄想。
「叫び」は名作を観られた達成度はあったけれど、好きだったのは、北欧の夏の海辺を描いた作品群。
「夏の夜、人魚」
https://munch2018.jp/gallery/#&gid=1&pid=10
my bestは「二人、孤独な人たち」
https://munch2018.jp/gallery/#&gid=1&pid=19
ふたりなのに孤独、男女の間には距離があって、けれど同じ方向を見ている、その背中を描く。
私の北欧イメージは一度だけ行ったフィンランドの夏、ベルイマン(スウェーデン)の映画群、ムンク(ノルウェー)でつくられており、それぞれの国はよく知ると違いがあるのでしょうが、寒く涼しい場所の色数の少ない景色と人々、どれもどこか共通項があるように思う。いつか真冬の北欧、オスロのムンク美術館に行ってみたい。
*ベルイマンにまつわるエピソードで好きなのは、『ある結婚の風景』、私は再編集された映画版を観たけれど、もともとはスウェーデンの国営放送で放映されたテレビドラマで、視聴率が非常に高く、放映時間には街から人が消え、放映後に離婚率が上昇したらしいというもの。夫婦ドロドロ修羅場作品なので、あれをこぞって熱心に観るスウェーデンの人々って…と思った。
Studio Galande
昨日更新したCINEMATIC,COSMETIC第1回、ayaさんがネイルを塗って観に行った映画は『メッセージ』。大好きな映画なので原稿をいただいた時は嬉しかったです。私は平日の夜、仕事の後にTOHOシネマズ日本橋で鑑賞。大きめのスクリーンいっぱいに「彼ら」が何かを伝えんとする表語文字が墨絵のようにじわっと広がるのを、満席の観客みんなで固唾を呑んで見守っていた。観終わって外に出ると、日本橋のビル街の風景も、少し違って見えました。
そんな『メッセージ』、また観たいなぁ…と、あれから何度も何度も思い出しているけれど、家で観るのもちょっと違うな、と。いつか再上映の機会を待っている。東京にはたくさん映画館があるのだから、いろいろ事情はありましょうが、毎週金曜の夜にしぶとく『メッセージ』をかけ続けることが名物の映画館がひとつぐらいあってもいいんじゃないかしら。10年経っても20年経っても、ひたすら『メッセージ』がかかっていて、あの映画をその映画館で観ることそのものが映画好きの憧れになるような。
思い出すのは、パリのStudio Galandeという、ノートルダム近くの路地にある小さな映画館。なんと1978年からずっと、『ROCKY HORROR PICTURE SHOW(ロッキー・ホラー・ピクチャー・ショウ)』を定期上映していることで有名。毎週タイムテーブルを教えてくれるメールマガジンに登録し、ずっと解除していないけれど、見るたびに、毎週この映画かかってるな?と不思議に思っていただけで、そんな長い歴史があるとは知らなかった。
http://studiogalande.fr/FR/17/rocky-horror-picture-show-cinema-studio-galande.html
こちらに日本語で詳しく解説されています。
http://www.hitoriparis.com/kanko/galande.html
毎週パリであの映画がかかってると妄想するだけで心が温まる熱いROCKY HORROR PICTURE SHOWファンもいるに違いない。こんな感じで『メーセージ』をかけ続けてくれるなら、ばかうけ似の宇宙船のコスプレでもして馳せ参じたい。
ずいぶん前の夜、Studio Galandeで私が観たのは、偶然かかっていた石井聰亙(現在は石井岳龍)監督の『ユメノ銀河』だった。パリで観るモノクロの妖しい日本の風景、得難い経験だったな。
曽根崎心中など
1月2日。初詣は東京に戻ってから近所の神社にちゃんと行くけれど、大阪に行ったついでに露天神社(お初天神)へ初めて行ってみた。近松『曽根崎心中』ゆかりの場所。
混んでおり列に並んでいる間に、wikiで『曽根崎心中』のあらすじをざっと読んだ。恋仲の男女がおり、男が別の女と結婚させられようとしたところ→男は断固拒否→破談にし受け取った結納金も返すべく継母から取り返す→しかし金に困った友が登場、男は金を貸す→友に裏切られる→立ち行かなくなった男は恋仲の女を誘い、ここ露天神社で心中。あらすじを頭に入れたところでぐるりと見渡すと…あちこちに「恋人の聖地」「縁結び」の言葉が溢れる境内に違和感しか覚えない。一途な純愛かもしれないけれど、いや、男、だいぶ不運だし、最後はふたりとも死ぬし。どこに憧れたり崇めたりする要素があるの。死んで花実が咲くものか!というお話すぎて、恋愛成就祈願とか縁結びの御守りとかご利益あるわけないやろ、と白けたついでに何でも商売に結びつけんとする大阪の商魂たくましさに面白い気分になった。
誰か映画化してるかな、と調べてみれば梶芽衣子、宇崎竜童主演にはピンとこなかったけれど、監督が増村保造と知ってちょっと観たくなった。1978年の映画。
その後、難波に移動し、久しぶりに花月のお正月興行へ。記憶の中のなんばグランド花月はもっと煤けた場所だったのに、ずいぶんつるんとピカピカして、と思ったら、2017年に全面改装したらしい。
吉本興業の歴史を伝える展示もあった。吉本せいさんの名刺。
こちらは慰問袋に詰められ戦地に届けられた漫才台本。『エンタツ國策漫才熱演集』。國策漫才、ってどんな内容ですか。大阪を中心にかつて多数あった演芸場の地図もあり、その数に圧倒される。東京に最初にできたのが神保町の寄席を買収してつくった「神田花月」だったらしく、神保町シアターに行くたびに、こんなところに吉本の劇場が?と不思議に思っていたけれど(建物の半分が吉本の劇場、半分が映画館)、そもそも縁のある場所だったんだなぁ。あの場所が「神田花月」の跡地かどうかは知らないけれど。
年の瀬が近づくとM-1のスケジュールを調べ、午後の敗者復活戦から決勝までずっとテレビの前から動かず観る自分の熱心っぷりに、関西でテレビをつけるとごく自然にいつも芸人さんが喋っており、漫才や新喜劇も頻繁に目に触れる(今でもそうなのかな?)ものだけれど、東京はそうじゃない…という現実を、私はずいぶん心寂しく思ってるのだな、と毎度M-1の季節になるとしみじみ思う。お正月興行はいつも豪華で、この日はこんなタイムスケジュール。ミキ!和牛!(いろんな意味で話題の)とろサーモン!と色めきたっていたけれど、終わってみるとフットボールアワーが一番面白かった、と意見が満場一致。
観客の年齢層がほんとうに老若男女均等に混じり合っていたので、あんなにいろんな観客を満遍なく笑わせるのは至難の業だし、誰かが笑えば誰かが傷つくようなネタや自虐で笑いをとるのも微妙となると、現代のお笑いってデリケートで難しい。今年は映画の隙間にお笑いのライブにも行きたいものです。それから新喜劇は完全に世代交代が進んでおり戸惑ったけれど、朧げながらそれぞれのキャラが掴めてくると、あいかわらずこの世でもっとも平和な笑いの世界がそこにあった。
白夜
ブレッソン『白夜』35mmフィルムでの日本最終上映とのこと、いそいそとユーロスペースへ。
http://www.eurospace.co.jp/works/detail.php?w_id=000305
長らく日本で公開されていなかった『白夜』、留学先のパリでこの映画を観て忘れられなかった方が、配給会社を立ち上げて公開にこぎつけてくださったロマンティックなエピソードに痺れながら観たのは2012年。あれから6年経って、映画が始まるとすぐにバチバチとフィルム特有の音が鳴り、次に「字幕:寺尾次郎」とお名前が映され、6年の月日、あっけないようで案外長いのだった。
夜のセーヌ河を渡る船で演奏される印象的な音楽以外にも随所に音楽が溢れ、私の記憶の中の『白夜』はストイックな物語だったけれど、久しぶりに目にするそれは、伸びやかな音楽に溢れた、ずいぶん若い映画だった。ジャックとマルトの4つの夜も、ひりひりした気持ちで観ていたけれど、今観ると、どんな結末になろうとも、まるごと可愛らしい、小動物の戯れのように思われた。
最近ようやくヴィスコンティ版『白夜』を観て、美しい映画ではあったけれど、主演のマストロヤンニの若い頃の映画、という以上の印象は持たなかった。ブレッソン版を断然指支持するのは、主演の2人を他の映画で見かけたことがないからかもしれない。彼/彼女がジャック/マルトのまま、『白夜』に閉じ込められたまま記憶に残り続ける、という種類の贅沢。
ブルーレイが出たことは知りながら、手を出す気には今のところなっていない。ユーロスペースで観た時間ごと真空パックにして時折、引き出しから引っ張り出しては、ああ、また観たいなぁって焦がれるのが似合う映画だと思う。配給してくださった方も、長くそんな気持ちだったのかな。
ユーロスペースで、12/5(水)まで。
映画の中の好きな部屋
暑さのせいか、この夏の休日の日中は外出せず、部屋を片付けている。国内外で引越しが多かったので、なるべく最小限の物だけ持つことにしているせいか、「壁一面の本棚」とか「香水瓶の並ぶ鏡台」とか、素敵だとは思うけれど、見ているだけでじゅうぶんで、それは私の生活ではないな、と思う。
広い空間に家具がポツポツ余白をもって配置されていて、床面がかなり見えている部屋が好きで、今、私が住んでいる部屋もそんな感じ。映画の中の好きな部屋について考えてみて、真っ先に思いつくのは、カサヴェテス『オープニング・ナイト』で、ジーナ・ローランズが暮らす部屋。この部屋の間取りを知りたい。
広いリビングルーム、傍に小部屋がいくつかある。小部屋をベッドルームにするかと思えばそうではなく、リビングの隅にマットレスだけのベッドがある。リビングルームはがらーんとしているけれど、小部屋はちょっと乱雑で、そのアンバランスさが、ジーナ・ローランズ演じる女優の情緒不安定をそのまま表現しているみたい。
インテリアが好みというわけではないけれど、『フェイシズ』のあの階段のある家(カサヴェテスの自宅)など、カサヴェテスの映画は、ちょっとの期間だけ住んでみたい、興味深い室内が登場することが多い。
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