Weekly28/Cine-Piano/兎

 

週末、サイレント映画ピアニスト柳下美恵さんの上映会に伺いました。

 

会場は川崎市アートセンター アルテリオ小劇場。新百合ヶ丘駅から徒歩数分。川崎市に足を踏み入れるの、ずいぶん久しぶり…。こちらのイベント。午後のオトナの部。

https://kawasaki-ac.jp/th/theater/detail.php?id=000481

 

 

 

しっかり傾斜のある座席で、スクリーンも大きく、鑑賞しやすい会場でありがたい。

 

 

最初はアリス・ギイ監督の短編作品集。アリス・ギイはゴーモン社のタイピスト・社長秘書として働くうち、リュミエール兄弟のシネマトグラフ上映を社長と観て、私ならもっと面白いものを撮れる!と主張。かくして世界初の女性監督が誕生!というユニークな経歴の人で、フランス・アメリカで活躍し生涯で撮った映画の数なんと1000本…。数分程度の超短編も多く含まれているそうだけれど、それにしても、なパワフルさ。

 

今回観た中では『ビュット=ショーモン撮影所でフォノセーヌを撮るアリス・ギイ』(1907年/2分)は、この時代の映画で、私は初めて観る「メイキング動画」で、こんな映像が現存しているなんて、と新鮮な驚き。撮影風景の絵画のようなエレガントさも素晴らしく、映画最初期のクラシカルさが好きなのだけれど、時代の風俗や服装がフィクションに反映されるのだから、撮る側の人たちも映画の中身同様にクラシカルなのだよな、と当たり前のことを再確認した。

 

そして『フェミニズムの結果』(1906年/8分)。フェミニズムの活動・主張の結果として、女性が男性的な役割を獲得し、男性が女性の役割を担う様子が描かれており、ちょうど今、NHKドラマ版を観ていることもあって、男女反転した大奥を描くよしながふみ版『大奥』の1900年代・フランス庶民バージョンのような映画で驚いた。権威的に振る舞う女性たちがカフェで談笑し、女性を支える役割の男性が育児や家事にいそしむ描写や、ジャケットとスカートのセットアップ、帽子までは女性の装いとして不自然ではないけれど、そこにネクタイとステッキを加えることで「男性的な役割を獲得した女性」を衣装で表現しているのが興味深い。

 

アリス・ギイ、世界初の女性監督という物珍しさに加えて、その立ち位置を存分に活用した批評性もしっかりあって面白い。なんというか、さすがリュミエールを観て、私ならもっと面白いの作れるけど!ってばんばん行動に移していくような本人のキャラクターがしっかり作品に滲み出ている。

 

後半は待望のエルンスト・ルビッチ『花嫁人形』(1919年)。何度も観ている映画だけれど、演奏つきで観るのは初めて。今回は柳下さんのピアノに加え、フルート、ヴァイオリンも加えたトリオ演奏での上映で、トリオならではの音の厚みや、声も使った(ニワトリの声!)演奏で、ただでさえ楽しい『花嫁人形』が、さらに楽しいものになっていた。

 

『花嫁人形』、ルビッチのドイツ時代のミューズとも言えるオッシ・オスヴァルダが主演で、久しぶりにオッシにスクリーンで再会できた喜びで胸がいっぱいになったけれど、改めてまじまじと観ると、その表情や間合い、なんと素晴らしい喜劇人であることよ。ルビッチとの相性はもちろん、オッシであれば吉本新喜劇であっても、現代のコントであってもすんなり馴染みそうなコメディ基礎体力の高さ。作られてから1世紀以上経つのに、上映中ずっと笑いが溢れていて、笑いにも流行があるけれど、これほど普遍的な笑いもあるのだな。

 

ルビッチとオッシのコンビでは『男になったら』も大好きなので、ルビッチの『男になったら』と、アリス・ギイ『フェミニズムの結果』の併映も観てみたい。男性/女性監督それぞれが描く女性が男性に・男性の役割になったら、の物語、見比べると面白そう。

 


<最近のこと>

 

 

コロナ禍の年始の過ごし方として、なけなしのお正月気分を味わうために楽しみにしていた東京国立博物館での恒例イベント「博物館で初もうで」。今年は会期ギリギリに駆け込みました。

 

https://www.tnm.jp/modules/r_event/index.php?controller=past_dtl&cid=5&id=10799

 

ドヤ顔っぽい表情の伊万里焼の兎を楽しみに行き、実物のドヤ感も可愛かったのだけれど、びっくりしたのはこちらのうさ耳の兜!

 

 

江戸時代・17世紀のもので「左右には兎の耳を模した脇立を付け、背面には?の上端を波形にしています。兎は動きが素早く多産であることから、戦国武将にも好まれました」のキャプションがついていたけれど、戦場でこんな可愛い兜を身に着けた武将を見たら、戦闘意欲が減退して、まぁ…仲良くしようや?って停戦気分になってしまいそう。

 

 

【about】

Mariko
Owner of Cinema Studio 28 Tokyo
・old blog
・memorandom

【archives】

【recent 28 posts】