Weekly28/祇園会館/1月
あっという間に1月も終わるので、滑り込みで記録を書いてます。
2023年、劇場初めは映画館ではなく、お笑いの寄席で。東京に戻る前に寄ったよしもと祇園花月。八坂神社の斜め向かいあたりにある古い建物・祇園会館の中にあり、学生時代、ここが名画座だった頃によく通っていた。2本立てで出入り自由の緩い運営だった。
時は流れて、ものすごく久しぶりに祇園会館の中に入ったのだけれど、これがもう….何ひとつ昔と変わっておらず、変わらなさに薄ら怖さすら感じた。不思議な柄の緞帳も客席のシートも、今どき和式のトイレすら、何も変わっていない。
時空が歪むとはこのこと。去年の秋、東京国際映画祭で久しぶりに上映されたツァイ・ミンリャンの『楽日』を観たのだけれど、あの映画の中の映画館に迷いこんだようだった。祇園会館は座席数も多い、巨大なホールであることも『楽日』そのものなんである。
『楽日』
https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3504WFC14
翠子さんのこの回を読んで、また観たいと思っていた
https://cinemastudio28.tokyo/kumonouede_001
お正月らしく人気の芸人ばかり出てくる寄席で、笑いながらもずっとぞわぞわした。そういえば有楽町の有楽座も、映画館だったのが現在はよしもと有楽町シアターとしてお笑いの劇場になった。よしもと祇園花月も、よしもと有楽町シアターも、内装を何ひとつ触らず(=お金をかけず)陣地拡大するかのように劇場を増やしていくのは、さすが吉本興業の抜け目なさだけれど、どちらの劇場も出演する芸人さんたちが「客席の笑いが舞台に聞こえづらい」「会場が重い」と、やりづらさを口にするのをよく聞く。
これって劇場の構造がそもそも映画用(祇園会館は祇園踊りの会場でもあるので、踊りの発表用でもある)…つまり客席の反応次第で演目・出し物が可変する可能性が低い/ない見世物向きの劇場であって、映画のような複製芸術にはぴったりだけれど、お笑いのような客席とのやりとりによって漫才のネタが変化したり調整したりするような見世物には向いてない、ということなのかな。
在りし日(映画館時代)の祇園会館についてはこちら。映画上映は2012年3月で終了。
http://www.cinema-st.com/classic/c014.html
<最近のこと>
実に3年ぶりに帰省。初詣は春日大社。敷地は広いけれど境内は広くなく、コロナ禍の入場規制でなかなかの時間待った。
鹿たちも元気で何よりです!心なしか子鹿ちゃんがたくさんいたように思うけれど、観光客が減ってのんびり過ごした結果、たくさん子鹿が生まれた、などかしら。
Weekly28/草の響き/WHO ARE WE展
ギンレイホール閉館・移転のニュースを読み、あの立地と内装が好きだったので寂しいな、今なら岩波ホールの跡地が開いてるよ…と思った。ここ数年、ギンレイホールで観た映画を振り返ってみると『菊とギロチン』がとりわけ良かった。映画館じゃないと受け止められない長さとエネルギーの映画だった。調べてみると2019年3月のことで、併映は『寝ても覚めても』だった。もはや太古の昔に感じるけれど俳優・東出昌大が世間的にも熱い時期だった。
どんなスキャンダルでも好きな俳優であれば受け入れるかと言えばそうでもなくて、快/不快の基準は人の数だけあって、私の場合、結局は好意と失意のバランスだと思う。他人に対して、こんな人だと信じていたのに!という期待が極めて薄いから、今でも東出昌大は好きな俳優で、新作の報せが届くと公開を楽しみに待つ。
『草の響き』は2021年秋に公開され、映画館で見逃した。配信で観られたので、心身の調子のよい時を選んで観た。
心に変調をきたした男が、東京での編集者生活を引き払い、妻とともに地元・函館に戻ってくる。自律神経失調症と診断され、運動療法として毎日のランニングを始める。少し良くなってまた悪化してを繰り返し治療が長引くうち、妻との関係にも変化が…という静かな物語だった。
妻や両親の発言が、職場であれば即NGになりそうな当たりの強さでひやひやしたけれど、周囲がそうあってほしかった男の姿と病を抱えた現実とのギャップに、治療を支えながらの日常が長引くにつれ、周囲も次第に疲弊していったのだろうと想像した。
体格のいい東出昌大が函館の景色の中をただ走るだけで、じゅうぶんに映画が成立していた。自分をうまくコントロールできないやるせなさもどかしさの表情のバリエーションが無限にある男だった。妻役の奈緒の重みが最後に突然染みてきたのだけれど、序盤から仕草や視線で細やかな表現を積み上げてきたことの、あまりの自然さゆえに気づいていなかっただけだった。
コロナ前に函館に行き、その時は『きみの鳥はうたえる』のロケ地巡りの旅だったけれど、坂のある港町ほど映画の舞台に最適な土地はない、と確信した。冬の夕方に歩きながら、私の視界の大部分は無彩色で、カラフルなネオンが少量混じるだけで北国の情緒を感じてしまうな、と撮った写真です。
『きみの鳥はうたえる』や、この『草の響き』を制作した函館市民映画館シネマアイリスにももちろん行き、映画を観た。
<最近のこと>
国立科学博物館で開催中のWHO ARE WE展へ。会期終了間際に滑り込んだつもりだったけれど、好評により10月10日まで延長された。
https://www.kahaku.go.jp/event/2022/08whoarewe/
哺乳類の剥製と、引き出しが仕込まれた木製の什器が並ぶ展示室内。まず剥製を心ゆくまで眺め、引き出しを開けると、その動物の生態や特徴の説明が現れる。引き出しを眺め、知識やトリビアを獲得した状態でふたたび剥製を眺めると、新たな視点が立ち上がってくる、という展示デザインも仕掛けも凝ったつくり。
さまざまな哺乳類の剥製がずらりと並ぶのを眺めた後、近くの引き出しを開けると、ミニチュアサイズのそれぞれの動物の名前と擬音語で表現された角の形状の解説が。
キュートなオグロプレーリードッグ。引き出しを開けると、巣の断面図の解説。巣の内部はトイレはトイレ、食料庫は食料庫と用途に応じた部屋に分かれており、動線も考え抜かれた機能的な住居だった。
私は骨/骨格標本好きなので、『からだのなかの彫刻』とタイトルをつけられた骨のエリアは入念に観た。
『からだのなかの彫刻』、これほど私の骨フェティシズムを端的に表現した言葉があるだろうか。「機能の塊であるはずの骨。静かに並べると見えてくる美。」と添えてあって、どなたか存じ上げませんが、この言葉を書いた人…骨を愛でながら私とお酒を飲みませんか…?
リスの肩甲骨なんて、もちろん初めて見たけれど、1920年代のルビッチ映画の女たちが纏うイヤリングのような可憐さ。
骨エリアは他に小さめのサルの骨をプラモデルのパーツみたいに全部、平面に並べた引き出しがあった。いつまでも見ていたい美しさで、私は名前を知らないけれど、きっとその骨にも名前があるであろう短い接続パーツ的な小骨に魅了された。写真を撮るか一瞬考え、やめた。過去に経験した「火葬場で骨を拾う」という行為がフラッシュバックして撮影、人道的にどうなんだろうと思ったから。リスの肩甲骨では生じなかった感情なので、サルの骨格全体だったからかもしれない。
他にも開くと、説明要員として小型の剥製が入っている引き出しがあり、文字や模型での説明の引き出しに比べると、あ!生き物!という気持ちが不意に生じてドキドキした。
WHO ARE WEと問われているのは、ヒトも哺乳類の仲間だからで、他の哺乳類にも様々な収集癖はあったとしても、こんなふうに仲間の屍を集め、臓器を取り除き、綿と針金で姿を再現し、並べ、比較し研究したり展示したりするのはきっとヒトだけだ…と想像すると、ずいぶん大上段に構えた尊大な生き物であることよ、という気持ちが芽生えつつも次の瞬間、
カモノハシ、めっちゃ可愛いやん!!!
という興奮も抑えられず、この展示を見なければ生涯味わえなかったかもしれない各種各様の気持ちを味わう機会だった。
美術手帖の記事。写真多数。会場ならではの体験として、照明も音楽も良い。
https://bijutsutecho.com/magazine/news/report/25906
三澤デザイン研究室が展示デザインを手掛けている。インスタグラムに写真多数。
https://www.instagram.com/misawadesigninstitute/
いずれ書籍化されるかもしれないし、 Vol.01哺乳類だからシリーズ化されるのかもしれないけれど、あの場が期間限定なのはあまりにももったいないから、常設にしてほしい。
Weekly28/リコリス・ピザ/襖の張替え
日比谷で。ポール・トーマス・アンダーソン(以下PTA)『リコリス・ピザ』を観る。
コロナ禍に入ってから観る映画を選ぶことに慎重になった。暗そうな映画は自分がとりわけ元気な時にしか無理だし、人がたくさん亡くなったり、パニックになったりするのも辛い。ここのところは衝撃的な事件のニュースばかり追っていたので更に慎重になっていたわりに、PTAの新作ということ以外何も知らずに観てしまったけれど、結果として、最高に大正解だった。
しかし、しんどい人はこれを観ると良いと誰かに薦めるのも躊躇う。やや年齢差のある男女の、ボーイ・ミーツ・ガール青春ものなのだが、それに期待して観ると、クセの強さに戸惑われそうだし、音楽が最高!という触れ込みで観たとしても、クセの強さに戸惑われそう。
観終わった後に初めて予告編を観たけれど、この予告編、クセの強さを丁寧に取り除き、ピュアで爽やかでロマンティックな部分だけ抽出しており、確信犯?って笑ってしまった。
PTAの作風に慣れている自分ですら、ショーン・ペン&トム・ウェイツが登場して去り、入れ替わりでブラッドリー・クーパーが出てきたあたりは、私はいったい何を観ているのだろう、と呆然と眺めるしかなかった。明らかに最初から惹かれ合っているふたりがようやく素直になるまで、驚くほどの遠回り、驚くほどの冗長さだけれど、映画よ終わらないで、この変な時間が永遠に続きますように、と願ってしまう、謎めいたチャーミングさがあった。
自分と人間の好みが一致する人、つまりキャスティングセンスを信頼している監督、東の筆頭・黒沢清、西の筆頭・PTAなのだけれど、『リコリス・ピザ』も例外ではなく、主演のふたり(クーパー・ホフマンが、フィリップ・シーモア・ホフマンの息子さん!という事実も、観終わった後に知った。言われてみればそうなのだが、どうして観ている間に気づかなかったのだろう。DNAの強さ!)はもちろんのこと、終盤に登場する俳優…あれ、この人どこから観た…どこかで観てすごく好きだった人だ…と思い出せないままエンドロールに差し掛かり、ベニー・サフディの名前が出た時、きゃああああ!と叫びそうに。ベニー・サフディはジョシュ・サフディとのサフディ兄弟として監督作があり、どれも最高。PTA映画でベニー・サフディを観られるなんて、そことそこ繋がってたの!!と歓喜の感情が芽生えた。
キャスティングの話で言えば、ここ10年ほどの間に観た映画の中で、どう考えてもベストなキャスティングだったな、と思っているのはPTA『ザ・マスター』のフィリップ・シーモア・ホフマン、ホアキン・フェニックス、エイミー・アダムスなのだけれど、新興宗教の教祖と妻、教祖の魅力ゆえに近づくがやがて疑問を抱くようになる男、という物語なので、今まさに再見すべきでは、と考えたりしている。
ともあれPTA『リコリス・ピザ』、観ている間ずっと浮世の暗さから逃避していられる、ありがたい映画だった。こんな映画を他にもうまく選べたらいいな。
<最近のこと>
選挙の日。早朝から選挙に行き、自転車に乗って友人宅に移動。東大襖クラブという東京大学に存在する襖の張替えサークルによる張替え作業を見守った。
思い返せば3年前。引っ越した私は新居の障子を張替える必要があり「文京区 障子 張替え」の検索でヒットして襖クラブの存在を知り、早速アポをとった。東大は近所だし、張替え作業ってよく知らない人と自宅で長時間一緒に過ごす必要がある、と考えると緊張するけれど、東大生が来てくれるなら、それだけで楽しそうだと思って。当日は女性部員の方が障子紙と道具一式を持って来て、途中食事を一緒に食べ、綺麗に張替えが完了した。襖クラブの歴史は長く戦後、学費を払えない学生が技術を身につけながら生活費を稼ぐ目的で始まり、そのため依頼者は学生に食事を提供するルールがある。
素敵な学生さんが来てくれて学業や襖クラブの話を聞いたりしながらの張替えが楽しかったので、また会えるといいなと思ったものの、また会えるとしたら自宅の障子や襖が破れた時のみ、そうそう機会があるものではない….よよよ….と考えていたところ、友人との会話の中で、ウチの襖がボロボロなんだよね〜とポロッと言ったのを聞き逃さず、いいクラブ知ってますぜ(揉み手)!!!と紹介し、事前の現場調査・襖紙選びを経て、張替えとなった。私がお世話になった部員さんが今も在籍していてリーダー的役割を担ってくれて、襖の枚数から人数が必要、ということで総勢4名で張替え。
友人宅は都心オブ都心にありながら、築70年以上の一軒家。おそらく戦後、その一帯に同じ規格の小さな家がたくさん建てられたうちの数少ない生き残りで、小さな家2つを1つに合体させるリフォームをしている。そんな背景があるから家の中に階段が2つある不思議な構造。友人は建築家なので模型があちこちにあり、この家の模型もあった。飼っている猫が襖をボロボロにしたそうで、その現場と犯人。犯猫。キミか!キミがやったんか!
襖は障子より格段に張替え作業の工程数が多く、外枠を外す→引手など部品を外す→古い襖を剥がす→傷んだ木の部分を補修→下地になる薄紙を張る→襖紙を張る→部品を戻す→外枠を打ち付ける、加えて今回は猫対策として一部の襖の下部に透明な保護シートを張る工程が追加される。古い襖を剥がしてみたら時々ドラマに遭遇することがあるそうで、この日、友人宅の襖を剥がしてみたら…「キツイ」ってカタカナで書いてあったらしい。長い歴史のあるこの家で、最後に襖を張り替えたのがいつ誰だったかわからないぐらい古いらしく、いつ誰が書いたんでしょうね。作業、キツかったのかな。
朝9時から4人がかりで始まった作業が、張替え枚数が多いこともあり、終わったのは21時頃。私は襖クラブと依頼者を繋ぐだけの役割だから、邪魔にならない場所にいて、友人宅の亀に話しかけ、猫にちょっかい出して不機嫌な顔をされ、夜になったら選挙特番を観るなどしていた。
綺麗になったよの図。これまでボロボロだったから通り抜けできていたのに、何やら様子が変わって戸惑う猫さま。
コロナ禍ということもあり現在は依頼者宅の食器を使うような食事の提供は原則なしだそうで、友人が近所の美味しいカレーをテイクアウトしてきてくれて皆で食べながら襖クラブ活動の話を聞いたり、作業を眺めたり、終わった後に打ち上げ的にハーゲンダッツを食べたりしたの、夏の良い思い出になりました。
張替え市場の相場がわからないけれど、私が障子の張替え代を支払った時は「大丈夫?労働、搾取されてない?」って思わず聞いたぐらいリーズナブルと感じたので、首都圏で張替えを検討されている方がいればオススメです。
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