春まつり
毎年必ず行っている国立近代美術館の春まつり企画。曇り空だったけれど、皇居の桜も満開で綺麗。
この企画、常設展料金500円で桜モチーフの美術をたくさん観られるし、千鳥ヶ淵や皇居界隈の花見のついでに立ち寄れてとても良い。国立近代美術館の常設展、東京での500円の最も贅沢な使い途だと思っている。こういうの「博物館学芸員有資格者(=私)がおすすめする気軽に立ち寄れる美術館博物館シリーズ」的にお薦めするべきなのかな。
こちらは「小雨ふる吉野」という菊池芳文による1914年の屏風絵。「小雨ふる」の名の通り、雨の情景で、近くに寄ると桜の白い花びらに胡粉の溜まりができるように描かれており、花びらが雨粒をのせているように見える。吉野は桜の名所として知られる奈良県南部の地名で、母の出身地なので私のルーツでもある。1914年の吉野か…おばあちゃんもこんな桜を観ていたのかなぁ…と一瞬思ったけれど、1914年っておばあちゃん生まれてたのかな。吉野山での花見は山全体に桜が咲き乱れ「野趣あふれる」の表現がこんなに似合う景色って他にある?という気持ちになるけれど、「小雨ふる吉野」はその「野趣あふれる」感がそのまま忠実に描かれており、めちゃくちゃ好きな絵です。
毎年、春まつり企画は「小雨ふる吉野」を観に行っているようなものだけれど、今年は桜モチーフの作品数も少なく、展示場所もあちこちに分散していたので、例年の、四方八方から春が押し寄せる!感が薄れてすこし残念。
いつも常設展示の10室が春まつり企画の会場だったけれど、今年は芹沢銈介の展示に使われていた。この10室、贅沢な空間に配置された椅子と展示の距離感や、入口から壁を隔てて奥に入っていく動線が素晴らしいと思っているので、来年の春まつりはここに戻ることを期待。
https://www.momat.go.jp/extra/2024/springfest/
Weekly28/ピアノ&シネマ2023御礼/金澤文鳥
5月2日、横浜ジャック&ベティにて柳下美恵さんのピアノ&シネマ2023、上映後のトークゲストとして参加させていただきました。
終了後、(私と同じく)一番好きな監督はエルンスト・ルビッチ!という方に声をかけていただいたり(同志よ!)、温かい感想もいただき、貴重な機会をくださった柳下美恵さん、素敵な観客の皆さま、ジャック&ベティスタッフの皆さま、本当にありがとうございました!
上映前、ジャック&ベティの3階(バックヤード、映写室がある)に入らせていただいたのですが、貴重な映画資料が無造作にざくざく置かれていて、歴史ある映画館のかっこよさ満載で、何日でも居られそうな場所でした。
鑑賞したDプログラムを振り返り。
『磁石警察』(1902年)
19世紀にパリで人気を博したサーカス団・ビュイック座の組体操のような動きを撮ったコメディ。映画の誕生(1895年)から数年後のこんな超短編が120年経った現在も、遠い国で大事に上映されていることが素敵。
『キートンの即席百人芸』(1921年)
当時最先端の撮影技術を駆使しバスター・キートンが何役も演じ分け、多彩なキートンがスクリーンに同時存在する。1921年にこれを撮るなんて、気が遠くなるような緻密で複雑な撮影だっただろうと想像すると、メイキングを観たくなる。
バスター・キートンの顔ファン(顔が好き)なので、女性、老人、猿!といろんなキートン・コスプレを楽しめるし、目鼻立ちがくっきりした顔だからこそ何に扮してもキートンらしさが残るのが面白い。女性役を演じるメイクを施したキートン、坂本龍一にそっくりでは…?考えてみれば同じ系統の顔立ちかも。
『花嫁人形』(1919年)
ルビッチ!常に新しい発見がある映画で、トークのためしばらくオッシちゃんのことを考えていたせいか、上映中はオッシちゃん以外のことを考えていた。
・ルビッチは俳優出身で、映画監督になってからも演出は言葉で伝えるのではなく自分で見本を演じてみせたと読んだので、あのキュートな馬の演技もルビッチが演じてみせたのかな。馬たち、ちょっとした脚の曲げ方が表情豊か。
・女嫌いの男性が遺産相続のため結婚の必要に迫られ考えたアイディアが「人形と結婚する」こと。1919年、「女嫌い」はどう表現されるの?とインサートの字幕を読むとmisogynist とあり、こんなケースで使う単語なのか。今ならmisogynist と一括りにせず、表現のバリエーションがありそうだけれど。
・『花嫁人形』はギリシャ神話『ピグマリオン』にヒントを得た創作で、脚本はルビッチ。元ネタがあるにせよ、男女が結婚することが当然の前提として展開する物語が多い時代の映画において、女性が苦手で結婚を強要されてしんどい登場人物なんて斬新で、ルビッチ、つくづくモダーンな人と思う。
・ルビッチ映画についてのレビューに、ゴージャスな映画だが不倫ものは観ていてしんどくなると書かれているものが時々あり、遠い昔につくられたフィクションだとしても観る側の感覚は日々変化しているから、そんな感想を抱くのも自由と思う。そして結婚する/しない、異性と/同性と、三次元とは限らない/二次元かも?などパートナーシップの多様化や、誰かのパートナーシップ形成への他者の介入を良しとしない傾向が進む中、いずれ『花嫁人形』も、女性嫌いな男性に金銭を条件に結婚を強要するなんて個が尊重されていない、観ていてしんどいって感想を抱く人が増えてくるのかもしれない。
・そうなると何かと「そろそろだね」「もうそろそろだよ」と若い女性が婚姻を手配されがちな小津映画なんて大半が観ていてしんどいカテゴリーに入る未来がくるのかな。
・数年前だけれど愛の対象や形は様々で、誰も愛してなくても良い現代なら『花嫁人形』の彼も生きやすいのでは?と思いながら読んだ記事がこちら。
批判もあったが「勇気付けられた」 初音ミクさんとの“本気の挙式”を終えて
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1811/21/news031.html
トーク中に紹介させていただいた、私がルビッチにハマるきっかけになった、ジャン・コクトーが内装を手掛けたパリの映画館 Studio28 の写真を発掘しました。2007年撮影のため、現在は少し変わっているかもしれません。
モンマルトル、メトロ Blancheが最寄り。ジャン・ジュネの映画『アメリ』で有名になった界隈にある。
BAR&JARDIN Accès Libreとあり映画を観なくても、併設のバーと庭には自由に入れる。
エントランス。モノクロ時代のフランス映画で、このエントランスがちらっと映るシーンがあったけれど、思い出せない…。ロメールだったか、ユスターシュだったか。
その日の上映作品紹介。当時、ジェーン・バーキン監督『Boxes』が封切りだった。
エントランス内側にあるジャン・コクトーのサイン。
チケットを買い、上映待ちのロビーの風景。1928年オープンの歴史ある映画館だから、ロビーの壁が写真や資料で映画博物館のよう。
スクリーンは1つだけで、内装はドリーミー!壁と天井が紫、緞帳と椅子が赤、キノコのシャンデリア!私が観た『ウィンダミア夫人の扇』も20年代につくられたもの同士、場の雰囲気に合っていたけれど、非現実的な内装だから『花嫁人形』もすごく似合いそう。
庭は白い天幕のような布がかかっていて、フランスの映画スターがたくさん!
テーブルも俳優の写真のコラージュ。メニューはフィルム缶に貼ってある。当時は映画館とバーをスタッフが兼任していて、声をかけると飲み物を持ってきてくれた。
https://www.cinema-studio28.fr/
【最近のこと】
ジャック&ベティ、川畑あずささんデザインの黄色いポスターがあちこちに貼られていて、パッと目を惹く鮮やかさで素敵でした。
川畑あずささんはCinema Studio 28 Tokyo のデザイン担当。このサイトのすべてのデザインを手掛けていただいています。
あずささんにいただいた金沢土産の金澤文鳥(文鳥パッケージの羊羹)、めちゃくちゃ可愛い。鳥類の親近感でうちのペンギンズも色めきたっている。instagramで#金澤文鳥 で検索すると、金澤文鳥とリアルな文鳥を一緒に撮っている写真がたくさんあって眼福でした。
Weekly28/Cine-Piano/兎
週末、サイレント映画ピアニスト柳下美恵さんの上映会に伺いました。
会場は川崎市アートセンター アルテリオ小劇場。新百合ヶ丘駅から徒歩数分。川崎市に足を踏み入れるの、ずいぶん久しぶり…。こちらのイベント。午後のオトナの部。
https://kawasaki-ac.jp/th/theater/detail.php?id=000481
しっかり傾斜のある座席で、スクリーンも大きく、鑑賞しやすい会場でありがたい。
最初はアリス・ギイ監督の短編作品集。アリス・ギイはゴーモン社のタイピスト・社長秘書として働くうち、リュミエール兄弟のシネマトグラフ上映を社長と観て、私ならもっと面白いものを撮れる!と主張。かくして世界初の女性監督が誕生!というユニークな経歴の人で、フランス・アメリカで活躍し生涯で撮った映画の数なんと1000本…。数分程度の超短編も多く含まれているそうだけれど、それにしても、なパワフルさ。
今回観た中では『ビュット=ショーモン撮影所でフォノセーヌを撮るアリス・ギイ』(1907年/2分)は、この時代の映画で、私は初めて観る「メイキング動画」で、こんな映像が現存しているなんて、と新鮮な驚き。撮影風景の絵画のようなエレガントさも素晴らしく、映画最初期のクラシカルさが好きなのだけれど、時代の風俗や服装がフィクションに反映されるのだから、撮る側の人たちも映画の中身同様にクラシカルなのだよな、と当たり前のことを再確認した。
そして『フェミニズムの結果』(1906年/8分)。フェミニズムの活動・主張の結果として、女性が男性的な役割を獲得し、男性が女性の役割を担う様子が描かれており、ちょうど今、NHKドラマ版を観ていることもあって、男女反転した大奥を描くよしながふみ版『大奥』の1900年代・フランス庶民バージョンのような映画で驚いた。権威的に振る舞う女性たちがカフェで談笑し、女性を支える役割の男性が育児や家事にいそしむ描写や、ジャケットとスカートのセットアップ、帽子までは女性の装いとして不自然ではないけれど、そこにネクタイとステッキを加えることで「男性的な役割を獲得した女性」を衣装で表現しているのが興味深い。
アリス・ギイ、世界初の女性監督という物珍しさに加えて、その立ち位置を存分に活用した批評性もしっかりあって面白い。なんというか、さすがリュミエールを観て、私ならもっと面白いの作れるけど!ってばんばん行動に移していくような本人のキャラクターがしっかり作品に滲み出ている。
後半は待望のエルンスト・ルビッチ『花嫁人形』(1919年)。何度も観ている映画だけれど、演奏つきで観るのは初めて。今回は柳下さんのピアノに加え、フルート、ヴァイオリンも加えたトリオ演奏での上映で、トリオならではの音の厚みや、声も使った(ニワトリの声!)演奏で、ただでさえ楽しい『花嫁人形』が、さらに楽しいものになっていた。
『花嫁人形』、ルビッチのドイツ時代のミューズとも言えるオッシ・オスヴァルダが主演で、久しぶりにオッシにスクリーンで再会できた喜びで胸がいっぱいになったけれど、改めてまじまじと観ると、その表情や間合い、なんと素晴らしい喜劇人であることよ。ルビッチとの相性はもちろん、オッシであれば吉本新喜劇であっても、現代のコントであってもすんなり馴染みそうなコメディ基礎体力の高さ。作られてから1世紀以上経つのに、上映中ずっと笑いが溢れていて、笑いにも流行があるけれど、これほど普遍的な笑いもあるのだな。
ルビッチとオッシのコンビでは『男になったら』も大好きなので、ルビッチの『男になったら』と、アリス・ギイ『フェミニズムの結果』の併映も観てみたい。男性/女性監督それぞれが描く女性が男性に・男性の役割になったら、の物語、見比べると面白そう。
<最近のこと>
コロナ禍の年始の過ごし方として、なけなしのお正月気分を味わうために楽しみにしていた東京国立博物館での恒例イベント「博物館で初もうで」。今年は会期ギリギリに駆け込みました。
https://www.tnm.jp/modules/r_event/index.php?controller=past_dtl&cid=5&id=10799
ドヤ顔っぽい表情の伊万里焼の兎を楽しみに行き、実物のドヤ感も可愛かったのだけれど、びっくりしたのはこちらのうさ耳の兜!
江戸時代・17世紀のもので「左右には兎の耳を模した脇立を付け、背面には𩊱の上端を波形にしています。兎は動きが素早く多産であることから、戦国武将にも好まれました」のキャプションがついていたけれど、戦場でこんな可愛い兜を身に着けた武将を見たら、戦闘意欲が減退して、まぁ…仲良くしようや?って停戦気分になってしまいそう。
Cinema Studio 28 Tokyo 5周年
Cinema Studio 28 Tokyoは、インターネットを漂う、東京にあるらしい、あるかもしれない映画館
12月28日、映画の誕生日に生まれたCinema Studio 28 Tokyoは5周年を迎えました。
何分、未曾有の状況が長く続いており、映画を観ることが難しかったり(緊急事態宣言下の時短営業は会社員には辛かった…)、映画祭に行くために海外まで行った過去が夢のようだったり、そういえばオリンピックもあったな…と遠い目になったり、心情的に映画どころではなかったり、という日々が2021年も続きましたが、何分これだけ長く続くと、この状況と共に生きることにも慣れてきた感もあるので、徐々に元気に再起動したいと考えています。6年目の28も、よろしくお願いいたします。
びっくりするほど時間感覚が曖昧なまま、気がつけば年末。ご無沙汰しております。冬休みに突入したので、diaryで今年観た映画を思い出しながら書いていきたいな、と考えています。是非遊びにきてくださいね。
レトロな写真群は秋、所用で数時間だけ滞在した群馬県高崎市。電気館は1913年開業の映画館。一度閉館した後、再開館したとのこと。この外観で現役って凄い。
この日は『ここに泉あり』(1955年/今井正監督)を上映中だったけれど、案外長い映画で、時間が合わず断念。中に入ってみたかったな〜。
私にとって今年の、数少ない貴重な東京以外の場所の思い出であり、数少ない貴重な映画館の空気の思い出でもあります。
opening of Die Puppe
ルビッチ・タッチ第2週。ドイツ時代のサイレントで、比較的よくかかる3本「男になったら」「牡蠣の王女」「花嫁人形」はどれもオッシ・オズヴァルダという女優が主演。「花嫁人形」のみ、これまで何度も見逃し続けてきて、永遠に縁がないのでは…と、しおしおしていたけれど、今回ようやく縁があった。1919年の映画。
東の牧瀬里穂、西のオッシ・オズヴァルダと並び称したくなるほどの溌剌っぷり、オッシ嬢は狂気を漂わせるほどの弾けっぷりなのだけれど、「花嫁人形」開始数分、ルビッチ本人が登場し、ミニチュアのセットを組み立てていく。最後に男女の人形を家の中に入れ、ズームしてルビッチは画面の外に消え、人形が人間に変化して動き始める…という、なんともキュートで凝ったプロローグ。
ルビッチは俳優出身なので、初期のものは自分が出演しているものもあるけれど、これまで観たことはなかった。初めて観た動くルビッチ。生まれつきの造形の美しさより、立ち居振る舞いや言葉遣いの綺麗な人に惹かれがちで、ルビッチ映画はそんな俳優にたくさん出会えるのも好きな理由。マイダーリン、ハーバート・マーシャルも、モーリス・シュヴァリエも、立ち居振る舞いが流れるようで、かつ作為を感じさせない素晴らしさがあるけれど、単に顔立ちだけ取り出すと、彼らより美しい俳優はたくさんいると思う。
ミニチュアセットを組み立てるルビッチの動きも、優雅で色気もあって見惚れた。27歳のルビッチ、若くて細い…!倒れそうな壁を慌てて立てようとする仕草など茶目っ気もあってハッとする。こんな手つきで作った映画ならば粋で洒脱になりましょう。
帰宅してyoutubeで見つけ、冒頭ばかりリピートして何度も観てしまう。
念願の「花嫁人形」を観たことにより、今回のベスト番組を組み直し。
5/1 「街角 桃色の店」 →「ニノチカ」
5/2 「花嫁人形」→「極楽特急」
スケジュールが限られているなら、私ならこの2日は死守してこの順番で観る…!
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