「木更津キャッツアイ」から「逃げ恥」まで

 

早稲田大学演劇博物館の続き。行ったのには目的があって、関連イベントのトークを聴くため。「木更津キャッツアイ」から「逃げ恥」まで というお題で、脚本家・野木亜紀子さんとプロデューサー・磯山晶さんが登壇されるトークがありました。お二人がこれまで手掛けてきたドラマのシーンを自らピックアップされたものを講堂の大きなスクリーンで観る時間も挟みながら、2時間ほどのたっぷりトーク、大学が主催とはいえ、これで無料って時々お金の意味って本当によくわからないな。

 

こちらのブログに詳細の書き起こしあり(全3回)。素晴らしい、ありがたい。

 

お二人とも、大人数のチームの中で働く女性特有の、四方八方からの無理難題に職人のごとく応えつつ、山ほど細かな意思決定を重ねながらじりじり前に進む日々を送る人だけに漂うような、独特のさっぱり感があって素敵。以前、西川美和監督のトークでも似た印象を持った。

 

私自身は熱心なテレビドラマ好きというわけではないけれど、それでもトークで紹介されたドラマはほとんどリアルタイムで観ていたことに驚き。数分だけ上映されたドラマを、毎週楽しみにテレビの前で待機していた自分も懐かしく思い出し、そして数分だけの上映でも、全体の面白さの記憶を引っ張り出すのにじゅうぶんすぎて、ああ「池袋ウェストゲートパーク」も「木更津キャッツアイ」も、他のドラマも、全部また観たいなぁ。

 

好きだからしょうがないけれど、映画好きであることは、映画にとても時間を割く人生になるということだね、という事実について時折考えるけれど、テレビドラマ好きな人々は、たかだか2時間で終わる映画に比べ、1つのドラマを最初から最後まで観るために、映画よりずっと長い時間を愛するドラマに捧げる人生を送っているのだなぁ。進行の岡室美奈子さんが「このトークのためにこのドラマを見直していたのですが…」と、軽くおっしゃるたびに、ふと思った。映画好きとしては、例えば生涯鑑賞本数が3000本を超えれば、2時間の映画が1時間で観られるようになります…!といった特別な魔法が使えるようになればいいな…と遠い目で妄想することはしょっちゅうある。

 

野木亜紀子さんは映画学校出身で、映画の人々はとかく映画を神聖なものと扱い、テレビドラマを下に見る傾向があるけれど、どちらもそれぞれ違う魅力があると思う、とおっしゃっていて、私も同意。時折、テレビドラマの話をすると、え?映画好きのあなたが、ドラマも観るの?と意外そうな反応があるけれど、日本の俳優はシームレスにどちらにも出演する人が多いので、映画で素敵だったあの人がドラマに出てる…その逆も!と、観る側としては楽しみは倍増し、楽観的合理的な私としては、わざわざ映画館に行ってお金を払ってしか会えない人と、チャンネル合わせるだけで自分の部屋で会えるなんて、なんて便利なの…テレビありがとう…という気持ちしかない。

 

映画館にわざわざ行って暗闇で、という場のアウラは映画の魅力ではあるけれど、お茶の間にもお茶の間のアウラがある。例えば「逃げ恥」の、働く女性が多かれ少なかれ抱えてるだろう呪いの提示と、それを解く最終回の百合ちゃんのセリフ、ああいった描写は映画や周囲の同じような境遇・立場の人々の会話では存在していたけれど、わざわざ映画館に行かずして、あんなポップなテレビドラマで、多くの人が気軽に観る中で、スパッとお茶の間に向かって言ったことに、少なくとも私の中では大きな意味があった。みんな観ていたからみんなと話ができるもの。観ること自体のハードルが低いこと、マスであること、大衆的であることの力強さ。映画を観ることは誰かと一緒だとしてもとても孤独な行為と思うけれど、テレビドラマにはその孤独感が不思議となく、そこが一番楽しいところかもしれない。

 

最後に磯山プロデューサーが、学生へのメッセージを求められ、辛いことも多いけれどテレビドラマは総合芸術のようなもの。興味を持っていただけたらみなさんも是非一緒にドラマを作る人になってもらえれば…。と、宗教の勧誘のようなトーンになって、ご自分でも笑っていらしたけれど、私はちょっと、じーんとした。楽しみにしていたドラマの裏に、こんな方が昼も夜もなく働いていたんだなぁって、目の当たりにできただけでも素晴らしい時間だった。そして「木更津キャツアイ」は、最近観た映画について話をする中、「八月のクリスマス」を観た磯山プロデューサーと、「スナッチ」を観た宮藤官九郎さん、観る映画の傾向がいつも重なることがなく、けれどどちらの映画の要素も盛り込んで「木更津キャツアイ」ができたというエピソードが興味深かった。そんな流れで、あの奇抜な構成のドラマが仕立て上がる職人技。そして視点の違う人々が集まってチームで何かを作ることの良さがあるなぁ、と。

 

紹介された中では「空飛ぶ広報室」のみ観ていなかったので、これから観るつもりです。これからのトークも豪華。争奪戦だろうけれど、予約できるかな…。

 

http://www.waseda.jp/enpaku/ex/

 

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