郵便あれこれ
ここのところ、手紙を何通も書いた。残念ながら、手紙を添えて宅急便を送るというケースばかりで、切手を貼ることはなかった。手紙の楽しみの何割かは、切手を選んで貼ることにあると思う。最近、定形外さらに規格外の郵便料金がしれっと大幅値上がりし、重さ厚さのあるものは、宅急便の方が安いというケースも増えたように思う。切手を貼る機会が減って寂しい。ペンギン切手、貼りたくてウズウズしているのに。
郵便好きなので、映画を観ていて郵便局が登場すると、仕組み、切手、やりとり等、隅々までチェックする。最近だとアニエス・ヴァルダ「幸福」に印象的な郵便局シーンがあった。「幸福」は家族の物語でも、不倫の物語でもあり、家庭を持つ男の不倫相手が郵便局で働いている。ウキウキと郵便局にやってきた男が、電報用の用紙に、P T T P T TとリズミカルにP T Tを繰り返し書き、それは窓口にいる女へのラブレターで、P T Tから始まる単語を羅列した言葉遊び。アニエス・ヴァルダらしい凝った仕掛けで、よくこんなの思いついたね!と膝を打つP T Tを駆使した愛の言葉が綴られる。滑らかに単語を配置していく男は、郵便局に向かいながら、頭の中でいろんな単語をニヤニヤこねくりまわしたんだろうな…。
郵便局、電報、惹かれ合う男女…の設定で同時に思い出したのは、小津の「浮草」。旅芸人の一座にいる若尾文子が訪れた町で、郵便局で働く川口浩と出会う。浩に最も似合う職業は「たいして仕事はしていない御曹司」で決まりだけれど、郵便好き補正がかかって、素朴な郵便局員の浩もなかなか。電報用紙を受け取った若尾文子が「ソコマデキテクダサイ」と書き、浩に渡し、「宛名は?」と聞かれて「あんたや」って関西弁で…!これ、ベストオブ郵便局シーンじゃないだろうか。さらにベストオブあんたやシーンでもある。あんたや…あんたや…(練習)。
気をとりなおして。郵便好きな私は、日本郵便のサイトも定期的に覗き、切手の発行スケジュールを手帳にメモしたり、その他知らない郵便知識の修得に努めている。とりわけ好きなのが「お手紙文例集(レターなび)」!特に「プライベート」のカテゴリー、読み応えある。
http://www.post.japanpost.jp/navi/private/i-priv-a.html
「縁談・恋愛(往診、返信)文例一覧」なんてドラマの宝庫です。例えば「見合いの相手からの結婚の申し込み断り」。
お手紙拝見しました。あなたが私を思ってくださる気持ちとてもうれしいです。私のようなものをそこまで思ってくださって、本当にありがとうございます。
でも、ごめんなさい。あなたが思ってくださるようには、私はあなたのことを思えないのです。とても心の優しいすばらしい方だと思います。けれど、今は仕事がおもしろく、まだあなたとの結婚はどうしても考えられないのです。おそらくこの気持ちは、この先ずっとおつき合いを続けたとしても変わらないと思います。
私がもっと早い段階で結論を出していればよかったのかもしれません。許してください。もうお会いしないほうがいいと思います。
今まで本当にありがとう、そしてごめんなさい。
なんて汎用性の高い文例なの。あらゆるケースに適応できそう。このページ、日本のどこかで誰かが検索して探し出し、当該シチュエーションに至った時、この文例は参考にされているのだろうか。
あと、「忠告・助言 文例一覧」もなかなか味わい深い。
http://www.post.japanpost.jp/navi/private/i-priv-p.html
「妻に苦労をかける夫へ(夫に苦労をかける妻へ)」の文例。
○○にどうしても言いたいことがあってペンをとりました。
これまで○○はビジネスマンとしてよく頑張っていると、いつも感心してきました。弟ながら、お手本にしなくてはと思ってきたほどです。
ところが、聞くところによると最近は毎晩酒を飲んでの午前様だそうではありませんか。**さんはさんざん悩んだ末、思い余って私に相談されたのです。あなたはまぎれもなく**さんの夫で、●●くんのお父さんなのです。自分の立場をしっかり自覚して、大切な家族を泣かせるようなことを慎むべきではないでしょうか。
差し出がましいとは思いますが、あなたたち夫婦のことが心配なのです。何か悩みがあるなら相談にのりますから、いつでも連絡してください。
妻から夫に、夫から妻に直談判の手紙かと思えば、おそらく妻から相談された義弟が、夫(兄)に苦言を呈すというややこしい設定。21世紀、こんなのが「手紙で」「弟から」届いた日には、内容証明並みに恐ろしいかも。
はっ!こんなに長い日記を書くつもりはなかったのに、郵便のこととなると。そして現実逃避甚だしい。異国に行くたびに、その国の郵便局に行き、郵便局のサイトもチェックするけれど、こんな文例集は日本郵便のサイトでしか発見しておらず、日本郵便の個性と呼ばずして何と呼びましょう。こんなドラマティックな文面を考え、サイトにアップしている人がどこかにいるという事実だけで、郵便愛は深まる一方だし、同時に狂気もちょっと感じます。