血を吸うカメラ

 

土曜、エルメスで観た「血を吸うカメラ」、原題はPeeping Tomで「覗き魔」の意味らしい。1960年のイギリス映画、マイケル・パウエル監督。

 

メゾンエルメス、サイトでの紹介はこちら受付でいただける美しいリーフレットで、いつも楽しみにしているアレクサンドル・ティケニス氏のテキストもwebで読めるようになっている!あらすじは以下。

 

圧倒的な恐怖の前で、人はどんな顔を見せるのか--。映画の撮影助手をしているマーク・ルイスは、一見、どこにでもいる平凡な青年。そんな彼が、恐るべき犯罪を次々と計画し実行していく。マークの亡き父は、人間の「恐怖」についての研究に生涯を捧げた学者で、幼いマークはその実験材料だった。やがて青年となったマークは、女性の断末魔の、恐怖におののく表情に途方もなく惹かれるようになり……。
時代に先んじて猟奇殺人犯の心理を描いた本作は、アルフレッド・ヒッチコック監督の『サイコ』と並び称されるサイコ・ホラーの金字塔。巨匠マイケル・パウエルの問題作にして傑作である。

 

古い映画ながら、視覚刺激の連続で見飽きなかった。物語はトラウマものと括ってしまうと味気ないけれど、幼少期に親から植え付けられた恐怖が、大人になった青年の身の上でも再現され、愛する人に出会ったがゆえに、自らの歪な欲望と、愛ゆえに生じた希望の間で葛藤する。あらすじにあるとおり、主人公の血を吸うカメラの餌食になり、恐怖におののく女の表情が度々登場し、マイケル・パウエル監督といえば最近「黒水仙」をDVDで観たばかりだったので、監督自身が気のふれた女の表情や叫び声を撮ることに欲望があって、主人公は監督自身の欲望のデフォルメなのではないか、と邪推した。

 

ファッショナブルな映画でもあるけれど、女たちの装いの華やかさより、主人公の端正な着こなしや後生大事に抱えるカメラを包んだ使い込んだ革の鞄を目で追った。そしてインテリア!主人公の部屋は狭い生活スペースとその奥にある秘密の広い部屋で構成されており、広い部屋は彼が撮った映像を現像、上映する場所。現像に使う薬品の入った瓶がずらりと棚に並び、スクリーン、フィルム映写機、そして名前の入ったディレクターズ・チェア!映画好きにとって夢のような部屋なのに、スクリーンで上映されるのが殺人映像というのが切ない。

 

カタカタと映写音に包まれ、撮った映像を確認する主人公を、スクリーンで眺める観客である私の二重構造、確かに彼は歪んだ覗き魔であるけれど、私もまた彼の欲望を時空を隔てた場所で興味深く眺める覗き魔。

 

この映画は、1960年のイギリスでは受け入れられず、マイケル・パウエル監督の権威は地に落ち、やがて映画界から追放されるに至ったのだとか。早すぎたということか。101分を存分に楽しんだ私は、失意のマイケルの肩に手を置き、大変やったな、私は好きやったで。と伝えたくなった。

 


 

過去の上映アーカイブ、アレクサンドル・ティケニス氏の文章つきでwebに揃ってるの発見。嬉しい!

http://www.maisonhermes.jp/ginza/le-studio/archives/

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