フェイシズ

 

早稲田松竹、愛は取り返しがつかない特集で観た、ジョン・カサヴェテス「フェイシズ」。

 

結婚後14年が過ぎ、夫婦関係が破綻しかけたリチャードとマリア。リチャードは、高級娼婦のジェニーの家で友人と共に大騒ぎをした翌朝、突然マリアに別れを告げる。その晩リチャードはジェニーの家に再び出かけてしまう。一方マリアは、友人たちと出かけたディスコで知り合った若者チェットを家に連れ帰り…。

 

「フェイシズ」、これこそが映画と私が信じているもので満ちており、観終わってしばらく言葉が出ない。何度観てもそう思う。若さ溢れる観客だった頃は、ただクールさに痺れていただけで、年齢を重ねるごとに、どの登場人物のことも他人事とは思えない。

 

特に、離婚を切り出された妻が慣れないディスコに女友達と出かけ、若者を拾ってみんなで家に連れて帰ってくる長いシーン。野放図な若さを前に、クリスマスのご馳走を囲むような女たちの目つき。期待して出かけたはずなのに、いざそれが眼前にあると躊躇する、人生の中間まで漕ぎ出してしまって行きも戻りもできない女たち。長年夫と連れ添って、もうトキメキなんて私の人生には訪れないと諦めきった小太りの女が、息子ほど年の離れた青年に思いつめたようにせがむキス。痛々しいけれど、彼女のこと、私はもう笑えなくなってしまった。

 

妻を演じるリン・カーリンはアルトマンの秘書だった人で、女優としての活動を私は「フェイシズ」以外に知らないけれど、この一本だけで永遠に心の助演女優賞に、カサヴェテス夫妻の自宅で撮られたラストの階段シーンは、オールタイムベストラストシーンにノミネートし続けるであろう。あの夫婦、きっと別れないのだろうな。

 

http://www.wasedashochiku.co.jp/lineup/nowshowing.html

 

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