黒蜥蜴

 

週末のこと。日生劇場で「黒蜥蜴」を観劇。演出はデヴィッド・ルヴォー、中谷美紀が黒蜥蜴を演じる。以前、京都で観た中谷さんの一人芝居「猟銃」が素晴らしく、これから彼女のお芝居は必ず観る、と心に決めていた。

 

http://www.umegei.com/kurotokage/

 

乱歩の小説を三島が戯曲化した「黒蜥蜴」。何度か映画化されており、10代の頃、京都・四条大宮にあったスペース・ベンゲットというアングラ度の高い映画館…(「石狩」という居酒屋の2階にあり、まず「石狩」の暖簾をくぐり、「いらっしゃい」などと声をかけられ、あのすみません…映画なんです…と申し訳ない表情を返して傍にあるエレベーターに乗らないと辿り着けない不思議な映画館だった)…で、何かの特集上映で「黒蜥蜴」を観た記憶。映画のことも何も覚えていないけれど、井上梅次が監督だった気がして、調べてみたら大映映画。1962年。京マチ子が黒蜥蜴を演じたようだけれど、どうして何も覚えていないのだろう。そして雨宮を川口浩が演じている…!当時、私の浩センサーはまだ発達していなかった。脚本・新藤兼人だし、再見してみたいものです。

 

さて、今回の舞台「黒蜥蜴」。休憩を挟み堂々3時間。小道具大道具をスムーズに動かしほぼ暗転なしで進行。バンドが傍に控え生演奏で音楽を奏で、照明も、衣裳も、俳優のルックスも身体のフォルムも、すべてが麗しい。そして何より麗しいのが言葉で、脚本は戯曲に忠実なのではなかろうか。戯曲といえども、三島の書き言葉そのもの。リアリティ?自然体?それって果して美しいのかしら?と嘲笑うかのごとく書物の中でしか昨今お目にかからない装飾過剰・絢爛豪華な日本語を、淀みなく発していく中谷美紀。前回の「猟銃」は一人芝居だったし、いったいどうやってあの分量の台詞を覚えるのかしらね。

 

 

3時間、あっという間に時間は過ぎた。未見ながら美輪明宏の印象が強いせいか、小柄で線の細い中谷美紀の黒蜥蜴はグロテスクさに欠けるような気もしたけれど、その分、黒蜥蜴の持つ可憐さ儚さが垣間見えて、美に執着する妖怪的存在というより、ただただ綺麗なものが好き。好きだから矛盾をはらんでいてもしかたがない。恋も綺麗だから素敵。歓びと憎しみは一対のものでしょう。と、不意に出くわしてしまった恋に身悶えるマイペースで可愛らしい女のような黒蜥蜴だった。そんな中谷版黒蜥蜴も、もっと年を重ねるとグロテスクさがどんどん出てくるかもしれず、当たり役として定期的に演じてくれるなら、定点観測のように観続けたい。

 

衣裳がどれも素晴らしく、後半に進むにつれ徐々に衣裳度が増していき、最後は「マレフィセント」のようだったけれど、布の分量が増える前の衣裳、冒頭、緑川夫人に扮する黒蜥蜴のシルバーグレーのドレスや、黒い別珍のドレスがとりわけ素敵。

 

 

日比谷駅から映画館に行く時、日生劇場前をよく歩く。貝殻モチーフのモザイクタイルを踏みながら、いつか中に入ってお芝居を観てみたい、と願っていた。曲線が印象的な内装に、シンプルながら華やかな「黒蜥蜴」の世界はぴったり。

 

建築物としての日生劇場。1963年竣工、村野藤吾設計。

http://www.nissaytheatre.or.jp/hallguide/theater.html

 

 

黒蜥蜴っぽく、黒い妖しい装いで、とクローゼットを眺めたけれど、私の洋服はだいたい黒く妖しいので、たくさんの中から迷うこととなった。新春だし、いち早く手に入れた2018年春夏のmameのワンピースで。刺繍の施されたシルクオーガンジーのカフスは、アンティークのハンカチからの着想だそうで、黒蜥蜴で描かれた時代にもぴったりだったかな。