さらば夏の光

 

日曜午後の映画。ユーロスペースで、毎年この季節に開催される北欧映画の映画祭「トーキョー ノーザンライツ フェスティバル」、1週間と会期が短く、いつも逃してしまうので今回初めて行った。北欧映画だけではなく、毎年1本、北欧に関連する日本映画を上映することにしているらしく、今年は「さらば夏の光」がかかった。1968年、吉田喜重監督。

 

http://tnlf.jp/movie#saraba_natsu

 

日本航空がヨーロッパ10都市ほどに同時就航した年で、その記念映画として撮られた1本。当時、映画の予算は通常4〜5000万円のところ、1000万円の低予算で撮る必要があり、キャストは4名、セリフは全部アフレコで、ロケは1週間。主演は岡田茉莉子。衣装は森英恵のオートクチュールだけれど、脚本が事前に出来上がっていないので、訪問するヨーロッパの街のイメージで仕立ててもらい、ヘアメイクも衣装担当も同行しないため、岡田茉莉子自身がアイロンをかけて準備し、髪結いは東京で習ったのを自分で再現、メイクも自分で。即興的に脚本が出来上がり、毎晩、翌日の撮影分がキャストに渡され、すぐ覚えては撮られ…を繰り返す過酷な日々だったとのこと。

 

文系研究者がパリに渡り、偶然、女と知り合う。女は人妻で、その後ヨーロッパの各地で出会い、ともに時間を過ごしながら、男が探し求めるカテドラルについての会話を交わす。やがて、女は長崎で終戦を迎え、何もかも捨ててヨーロッパに渡ったことが明らかになる。岡田茉莉子がよろめきながらも自立した女を演じる。経済的にはどう自立しているのか不明だけれど、家具のバイヤーという設定なので、それで生活を成立させているのだろうか。吉田喜重作品らしく観念的なセリフ、モノローグが続き、途中しばし意識が飛んだ。吉田喜重と侯孝賢は私にとって睡眠薬のような映画を撮る人で、必ず眠ってしまう。絵画のような構図は他の日本の監督であまりお目にかからないトーンで、ヨーロッパの香りがしたのは、ヨーロッパで撮られたという単純な理由だけではないと思う。観ると必ず眠るし、退屈もするけれど、それでも観てしまう魅力はある。

 

森英恵の衣装をくるくる着替える岡田茉莉子。撮られ方のせいか、一部の衣装のシルエットのせいか、少し身体がずんぐりして見えたけれど、美しい。シュミーズの上にコートだけ羽織って街を歩く、よろめいた末に奇行に走ったかと観ているこちらが緊張する場面もある。

 

吉田喜重&岡田茉莉子夫妻によるトークが上映後にあった。古い日本映画の女優陣、若尾文子、岸恵子、浅丘ルリ子…いろんな人のトークを聞くチャンスがあったけれど、もうじゅうぶん贅沢な時間を味わいせいせいした気分になりつつ、他に誰かお話を聞いてみたい人って、まだいるかしら?と考えた時、岡田茉莉子がいるではないか!と気づき、機会を伺っていた。

 

「さらば夏の光」は50年前の映画。目の前にいた現在の岡田茉莉子は85歳。背筋がすっと伸びて凛として、キリッとした特徴的なフェイスラインもそのまま。美しさとは若さのことではないのだな、と思いました。場内は満席、立ち見も出ていて、半世紀前の映画を観にきてくださってありがとうございました、と言った後に少し涙ぐんでおられた。モンサンミッシェルの場面では、女の薬指のダイヤの指輪がキラリと光っていたけれど、その指輪を別の街で紛失したことに気づき、結局見つからなかったらしい。ラストはイタリアで、街中でタクシーに向かって手をあげる岡田茉莉子のショットで終わるけれど、離れた位置にある望遠カメラで撮られていたため、映画の撮影とは気づかない通行人が多く、イタリア男たちに声をかけられまくり撮影が難航したとか。

 

吉田喜重監督は、自身の映画はテーマ性が強く、フィルモグラフィも3つの時代に区分される。まず松竹の監督時代は青春映画を撮った。次に女性を描く映画を撮った。その後は政治の映画を撮った。「さらば夏の光」は女性を描く映画期に撮ったもので、上の世代の映画監督は男尊女卑思想が強かったけれど、それに対する反発があり、とにかく女性を強く、自立した存在として描こうと思ったとのこと。「さらば夏の光」でも、女は自らの意思で日本を離れ、帰るつもりはない。男と出会い、夫と分かれるが、やがて男とも別れる。男に依存する人生ではなく、男がいないと生きられない女ではない。女はすべてを自分で決めていた。

 

このお話を隣で聞いていらっしゃる岡田茉莉子さんの佇まい、マオカラーのジャケットの監督、岡田茉莉子さんは黒ずくめで、お好きだというヨウジヤマモトかしら、という装い。同い年のお二人は、同志のような結びつきで長い時間を過ごしてきたのかな、と想像した。大女優と監督というより、本郷や御茶ノ水、神保町あたりでデートしてそうな雰囲気なの。

 

 

ずいぶん前、吉田喜重監督のトークは聞いたことがあり、その時に買ったと思われるパンフレット。2008年だったのかな。「エロス+虐殺」がパリで上映された時、ポスターの前で撮られた写真が表紙。上映されたと思わしき映画館LA PAGODEは、ボンマルシェの近くにある、東洋寺院を改装したエキゾチックな映画館。「エロス+虐殺」、LA PAGODEでかかるのが似合う。

 

 

その時にいただいたサイン。岡田茉莉子さんのページの余白に書いていただいたの、今見ると良い記念だった。