PATERSON

 

ずいぶん前にギンレイホールで。『ベイビー・ドライバー』の併映は『PATERSON』だった。2本観た後、どんな気分になればいんだろう、という2本立てだったし、私は絶対『PATERSON』→『ベイビー・ドライバー』の順で観たほうが良さそう、という予想は当たった。どちらもいい映画だけれど、順番逆で観るのは辛そう。

 

ニュージャージー州パターソンに暮らすバス運転手のパターソン。毎朝、妻にキスをして始まり、いつも通り仕事に向かい、心に浮かぶ詩をノートに書きとめる。帰宅後は妻と夕食を取り、愛犬と夜の散歩に出かける… 一見代わり映えのない日常をジム・ジャームッシュ監督がユーモラスに映し出した7日間の物語! ジム・ジャームッシュ監督4年ぶりの最新作。

 

パターソン、妻、犬の場面が大半を占める中、パターソンの妻にばかり気をとられた。世の中の人々をパターソンタイプ、妻タイプに強引に二分するなら、確実に自分は妻タイプに該当するから。パターソンタイプの人々に、あの妻のように、そのノート、世の中に出しちゃいなさいよ?もっとおおらかに自己表現して生きるべきよ?って、ぐいぐい言っちゃってるはず。自覚していても、画面でどーんと見せられると、内省的な気分になるもの。この世にはパターソンのような、自分だけのノートに静かに書き留めるような言葉の愛し方があるのだということを、改めて思い知ったのである。

 

私はこうやって人目に触れるところに言葉を書くことは続けられるけれど、どこにも出さない自分だけの感情を静かに誰にも見えない場所に書き留めておくことにはさっぱり向かず、何度かトライしては挫折している。きっと詩も書けない。小津監督の日記のような、誰に会った何を食べたという事実を淡々と記録する種類の日記にも憧れがあって、トライしたけれど無理だった。世界とおおっぴらに自分を共有したい欲望もないけれど、とにかく「自分だけの」ということに向かない。パターソンの妻もそうなんじゃないかなぁ。突拍子もないことばかりどんどん実行に移しているように見えるあの妻も、彼女の中では筋道の通った思考と行動の因果関係があり、その一部始終が丸ごと人目に触れることに衒いがない。わかる、わかるわぁ。

 

興味深いのはタイプの違うふたりでも、一緒に暮らしていけるということで、愛ゆえに、ということなのでしょうが、パターソンが時折、唇の端に苦虫を噛み潰した表情をたたえることが気になりましたね。末永く幸せであってほしい。

 

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Mariko
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