女神の見えざる手
GW、早稲田松竹で『ドリーム』の併映は『女神の見えざる手』。原題は『Miss Sloane』だったと思うと、こちらの邦題はなかなか成功しているように思う。ポスターなどビジュアルだけでは正直、惹かれる要素は少ないものの、どこかの映画館で予告篇を観たら面白そうな映画!と俄然興味が湧いたので、Miss Sloaneは静止画より動画のほうが魅力的に見えるタイプの女性なのかも。
ジェシカ・チャスティン、『ゼロ・ダーク・サーティー』といい、仕事するのに男も女もあるかい!的役柄に今、世界一ハマる女優では。『プラダを着た悪魔』のような可愛子ちゃんのお仕事ものじゃなくて、もっとシリアスで周囲に曲者ばかり従えるタイプの職業の。サンローランのスーツと11cmハイヒールで完璧に武装して働き方改革なんてどこ吹く風とばかりに昼も夜も削って働くのがまた似合う。
ジェシカ・チャスティンだけで観る理由としてじゅうぶんだけれど、観終わってみると、脚本家って誰なんだろうってリサーチしたくなる感じ。ジョナサン・ペレラ?知らないし、wikiにも出てこないと思えば、この映画が初脚本なのだとか!サイトのProduction noteが興味深く、
もともとイギリスの弁護士だったジョナサン・ペレラが、初めて描いた映画の脚本。それが『女神の見えざる手』である。弁護士を辞め、韓国の小学校で英語を教えていたペレラは、映画学校などには通わず、手に入った脚本を片っ端から読んだという。「120ページの脚本であれば、前半60ページを読みどう物語を終わらせるべきか自分で考えて続きを書く。そして夜中に後半の60ページを読んで比較する。そうやって勉強した」と彼は振り返る。
ペレラが『女神の見えざる手』の着想を得たのは、BBCのニュースで、不正行為で逮捕された男性ロビイストのインタビューだった。「ロビイストの仕事は政治と諜報活動が合わさったものだ。彼らがどうやって影響力を行使するのか。合法ぎりぎりのラインで、どんなストーリーが生まれるのかに興味があふれた」とペレラ。
書き上げた脚本はフィルムネーション・エンターテインメントに送られ、同社の共同社長、ベン・ブラウニングを驚嘆させる。「スリラー、ドラマ、政治の要素があり、強烈なヒロインを通して政治の知られざる舞台裏をスピーディに描いている。脚本が届いてから1年で映画が完成した。私が知る限り、こんな例はハリウッドで初めてだ」とブラウニングが語るように、脚本家のサクセス・ストーリーが実現したのだ。
前半だけ読んで後半を自分で書く、こんな脚本の勉強方法があるのか…!ジョナサン・ペレラが考案して黙々と実行したのだろうか。こんな努力ができるだけで、すでに才能あったとも言える。ロビイストという耳慣れない職業について、映画の冒頭では説明されすぎず、ミス・スローンの特殊な性格を強調するばかりで、ロビイストという職業を理解しないと物語を追いかけられないはずなのに大丈夫だろうかと一瞬不安になったけれど、展開に引き込まれているうちにロビイストについても、ミス・スローンがその中でも手段を選ばない強引さがあるにせよ、とりわけ有能という点についても、すっかり理解できていた。ジョナサン・ペレラ!
最後の法廷シーンが圧巻で、ミス・スローンにとって隠しておきたい私生活の秘密を共有すべき相手が登場した時の、遅かれ早かれ暴かれることだから、という肝の据わったセリフが好きだった。ロビイスト活動の一環として仕込んだことが思わぬ顛末を招く反面、信じられないはずの人物が案外信じられたり、ミス・スローンの能力をもってしてコントロールできること、できないこと、それらがミス・スローンにもたらす明暗。あぁ、面白かったな。ジョナサン・ペレラ(立ち上がって拍手)!
興奮してGW中に会った人々に、映画とジョナサン・ペレラの脚本学習方法を暑苦しく語った私であった。