読むホラー

 

今週の電車読書。新刊『ドレス』が、とっても私好みだったので、過去作も読むべく手を出した藤野可織『爪と目』。日常と地続きのひんやりしたホラー。読むホラー。ちょっと黒沢清っぽい。と思えば、映画『ダゲレオタイプの女』公開時に藤野可織がコメントを寄せていたりして(こちら)、痒いところに手が届いたような、腑に落ちた感があった。

 

主人公が淡々としていて、なんだか他人事と思えない。

 

『あなたには、男性が自分に向けるほんのほのかな性的関心も、鋭敏に感知する才能があった。しかもそれを、取りこぼさずに拾い集める才能もあった。植木にたかる羽虫を一匹一匹指先で潰すようなものだった。あなたは手に入らないものを強く求めることはせず、手に入るものを淡々と、ただ、手に入るままに得ては手放した。決して面倒くさがらず、また決して無駄な暴走をすることもなかった。それがあなたの恋愛だった。』

 

『生活は、あなたにとっては平穏だった。ほとんど時間の感覚を失うくらいだった。好かれたり嫌われたりすることは、どんな人間であっても当然起こることなので、そういったことがらはいくら起こっても、平穏を乱すものとは見なさないのだった。あなたは、この生活が永遠に続くかのように感じていた。』

 

『失ってもたいして痛手ではないものを残酷に奪われることを想像するのは、なんとなく楽しいものだ。』

 

人でなしみたいだけれど、なんだか他人事とは思えない箇所に付箋を貼って読み進めると、付箋ばかりになり、自分の黒い妄想が言語化される薄ら気持ち良さがちょっと恐ろしい。過去作をもっと漁りたいけれど、他の本を間に挟んで心の平衡を保とうと思う。短篇が多い作家さんのようなので、黒沢清映画を観たいけれど、観る時間はないという時にも良いかもしれない。

 

文庫のカバー装画、町田久美さんという、かつて個展のたびにギャラリーに通っていた好きな画家さんのもので、好きなもの同士が手を繋いだピタッと感、沼に落ちる3秒前か。