宴のあと

 

青山ブックセンター本店の文庫の棚に、昔から変わらない装幀で三島が並んでいるのを発見し、懐かしくなった。その時は他の本を買い、やっぱり気になって後で図書館から借りた未読の『宴のあと』。政治絡みの物語のせいか、三島を熱心に読んでいた中学生の頃はパスしたのだった。その頃、法律の授業でプライバシーの侵害裁判については学んだ。

 

久しぶりの三島の、面白さに唖然としながら一気に読了。土曜、PTAの映画『ファントム・スレッド』を観て思ったことは、『宴のあと』に似ているなぁ、と。

 

『宴のあと』、都知事選に出馬する夫とその妻の物語で、理想主義に燃えながら大衆の心を掴むことには長けていない夫と、現実をしっかり捉え動き回っていないと死ぬ種類の生物である妻。妻は料亭経営者で選挙資金もどかんと準備し豪快に立ち回る。あきらかに政治家に向いているのは妻なんである。『ファントム・スレッド』の自らの静謐な美の世界を頑なに保たんとする仕立屋の夫と、難攻不落の相手を前にしても自らの愛の作法を曲げようとしない妻。映画と小説、癖の強い者ばかりの二組の夫婦の物語に、週末は熱狂し、ぐったりもした。

 

http://www.shinchosha.co.jp/book/105016/

 

『宴のあと』は映画的描写の連続する小説で、当然映画化も検討されながら、裁判の影響で流れたらしい。監督は成瀬巳喜男、主演は森雅之、山本富士子が予定されていたらしいけれど、私の中ではイメージが違って、いかにも増村保造&若尾文子コンビが本領発揮しそうな物語だと思った。読む大映映画。夫役は山村聰っぽいイメージかな。若尾文子、私生活でも後に夫が都知事選に立候補することだし。

 

各章のタイトルも見事で、様々な「宴のあと」が登場し、最後は「宴の前」で終わる。とりわけ美しいのは第十六章「洋蘭・オレンジ・寝台」、こういう関連のない名詞が並ぶタイトルに弱い。ロケ撮影された映画のように東京のあちこちが描写され、上野精養軒、資生堂パーラー、銀座千疋屋など、現存する老舗が登場するのも楽しい。

 

それにしても、三島は恐るべき観察者で、絶対にこんな人と食事したくないわ。何から何まで観察されて、小説のネタにされそう。

 

 

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