私の恋人
上田岳弘『私の恋人』読了。手にとったきっかけは、青山ブックセンター本店に平積みだったからというシンプルな理由だけれど、そんなきっかけがあって良かった。
あらすじは、
一人目は恐るべき正確さで世界の未来図を洞窟の壁に刻んだクロマニョン人。二人目は大戦中、収容所で絶命したユダヤ人。いずれも理想の女性を胸に描きつつ34年で終えた生を引き継いで、平成日本を生きる三人目の私、井上由祐は35歳を過ぎた今、美貌のキャロライン・ホプキンスに出会う。この女が愛おしい私の恋人なのだろうか。10万年の時空を超えて動き出す空前の恋物語。三島賞受賞作。
あらすじを読んでもどんな小説なのかわからなさすぎるけれど、読了してみると、あらすじはこうとしか書けないよなぁ、と思う。
http://www.shinchosha.co.jp/book/121261/
クロマニョン人、ユダヤ人、日本人のそれぞれの「私」の中に、過去を生きた「私」が存在しているのが面白くもややこしく、時制があちこち移動する。強制収容所での2人目の「私」を描写したかと思えば、次の段落では歌舞伎町のHUBのハッピーアワーで飲む3人目の「私」が描写される、その落差に振り回されることも徐々に気持ち良くなってくる。壮大な物語が叙情を排除した淡々とした筆致で綴られるのに、読了して本を閉じて残った気持ちを観察してみると、エモーションとしか呼べない何か。私好みだった。
映画化するなら監督はドゥニ・ヴィルヌーヴの妄想は最後まで変わらなかったけれど、クリストファー・ノーランもいい。日本人監督は思い浮かばず。高橋一生の愛読書らしく、主役を演じて「あれは私が一人目のクロマニョン人だった頃のことだ」とか言いたいと語ったそうだけれど、確かに主人公に年齢も雰囲気もぴったりだと思う。
今日から平野啓一郎『ある男』(文學界2018年6月号に掲載)を読み始めた。これまで読んだことのない作家を読みたい気分。長らく読書の時間がとれないことが悩みだったけれど、SNSとしっかり距離を置いてみたら読書に集中できるようになったかわりに、しょっちゅう携帯を携帯せず家を出てしまう新たな問題が生じている。