TIFF2018/愛がなんだ

 

ぼやぼやしているうちに、次の週末にはフィルメックスが始まる。またたくさんの映画を観る前に東京国際映画祭で観た映画について簡単にメモ。

 

コンペティションで観た今泉力哉監督『愛がなんだ』。監督、主演の岸井ゆきのさん、若葉竜也さんの舞台挨拶、上映後に監督のティーチインつき。『愛がなんだ』を観た後、岸井ゆきのさん(実年齢26歳)についてぼんやり考えていたら、朝ドラ『まんぷく』でタカちゃん(14歳)役として登場したので、それが仕事と言えばそうなのだけれど、俳優という職業の変幻自在ぶりに妙な感慨が生まれる。

 

https://2018.tiff-jp.net/ja/lineup/film/31CMP09

 

『愛がなんだ』は角田光代の同名小説の映画化。

 

主人公は28歳のOLテルコ。彼女は、想いを寄せているマモルに自分の時間のすべてを捧げてしまう。しかし、マモルはテルコのことが好きではない。完全なる一方通行の恋。 周りが見えなくなるほど、マモルへの想いが膨れ上がっていくテルコ。全力すぎる片思いの末に、テルコが下した思いがけない“決断”とは…。

 

 

 

今泉力哉監督の映画は『サッドティー』を偶然観て以来、気になってなんとなく追いかけているけれど、登場人物が多数登場し、誰もが誰かを好きだけれど、矢印は交わることがなく相関図がいたずらに複雑になってゆく…という物語を撮る人という印象で、ただ成り行きを追うのが楽しかっただけだったのが、『愛がなんだ』は果たしてこれは、これまで通りクスクス笑って観終えただけで良いのか、まさしく「愛がなんだ」の物語なんじゃないか、とぐるぐる考えてしまう。見応えがあった。

 

テルコの度の過ぎた行動を伴う重度の片思いの物語ではあるけれど、物語が進むうちに相手は別にマモルじゃなくても良いんじゃないか、と見えてくる。あなたじゃなくちゃダメなの、ではなくて、「私、そして愛」について具体的行動を交えながら考察したい時に、目の前にマモルがいて、まるで相手にされないわけではないから、考察が終わらない。テルコ自身が、みずからの愛についての考察の到達点を「片思いが成就して両思いに」なることでも「心と頭だけでなく、肉体関係に移行する」ことでも「関係を結んだ末に、それが終わる」ことにも置いていないから、いつまでも終わらない。関係に決着がつくのをテルコ自身が回避しているようふしもあり、マモルの存在を用いたテルコの愛についての考察が終わるのは、テルコが「気が済んだ、もうじゅうぶん」と判断した時なのでは。と、考えると、献身的なようでいて、ずいぶんエゴイスティックな女である。

 

そして自分にざぶざぶと愛が向けられている時は、気が大きくなって尊大な態度をとりがちな人物でも、自分が誰かに愛を向ける時は尻尾をぶんぶん振る従順な犬になってしまうという、ありふれた事実がしっかり映っていて興奮した。

 

テルコ(岸井ゆきの)とマモル(成田凌)の関係を観察するだけで多分に面白いのに、江口のりこが登場してから物語が加速度的に膨らんでゆくさまが見事。初めて観た若葉竜也という俳優さんも素晴らしかった。劇場公開は来年とのことです。

 

 

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