それから
秋ドラマ『獣になれない私たち』の松田龍平(最高!)を観ているうちに、無性に『陽炎座』『それから』あたりの、飄々とした高等遊民の松田勇作映画を観たくなった。これらの映画は集中力が必要で、自宅で観られる気がしない。どこかでかからないかな…と念を送っていたら国立映画アーカイブでの上映を知った。
https://www.nfaj.go.jp/exhibition/kurosawa201812/#section1-2
漱石原作、三角関係の物語。ずいぶん前に一度観た時は綺麗な映画だな、と思ったぐらいだったけれど、年を重ね、人生のままならなさへの実感も相応に降り積もった現在観ると、ずいぶん胸に迫るものがあった。ここぞ、という局面で誰もが勇気を振り絞れるわけでもないし、想いはそうそう届かないし、人ってだいたいすれ違う。松田優作の高等遊民ぶり、生きるのが下手な小林薫、そして藤谷美和子….!!壊れそうな美しさを湛えた藤谷美和子を記録しただけで『それから』は偉大。
文芸映画ながら、謎の前衛不条理シーンが唐突に挿入されるのがいかにも80年代の映画、という感じ。男たちは東大の同窓生という設定だから、昔話に本郷界隈の地理が登場するけれど、「不忍池から谷中方面に歩いていく時、橋の上で…」というセリフがあり、現在その界隈には橋はないので、かつて流れていた藍染川(現在は埋め立てられ、通称へび道という、蛇行する通りにになっている)に橋が架かっていたのかな?と推測したけれど、古地図でも見てみないとわからない。
松田優作は松田龍平よりゴツゴツして骨太だけれど、立ち姿やふとした角度、ハッとするほど似ている。松田龍平がこんな役を演じてくれたら、きっと私はあっけなく悶え死ぬ、と妄想しながら最後までうっとりと観た。