女王陛下のお気に入り

 

2月某日、『女王陛下のお気に入り』をシャンテで。ミッドタウン日比谷ができたとはいえ、相変わらずシャンテが好きだな。

 

http://www.foxmovies-jp.com/Joouheika/

 

ヨルゴス・ランティモス監督の新作を心待ちにしていたものの、オスカー10部門ノミネートなどずいぶんメジャー感ある華々しいニュースばかり耳に届き、耳を疑った。ヨルゴス・ランティモスが?それは私の知っているヨルゴス・ランティモスではないのではなかろうか。過去の作品もオスカーに絡んだことがあるとはいえ、私にとってのヨルゴス・ランティモス映画といえば、屋根裏部屋で膝を抱えて発禁本を愉しむような、薄暗い背徳感とセットだったのだから。そんな大手を振って表通りを闊歩するような賞賛なんて、そんなそんな。

 

しかし蓋を開けてみると、なんのことはない、ヨルゴス・ランティモス映画だった。ヨルゴス・ランティモスは世界に一人だ。痛風を患い、多くの子供を産んでは失い、うさぎに囲まれ、何でも手に入るのに何も手に入れていない情緒不安定で可愛らしい女王陛下。彼女の寵愛は裏の権力を手に入れることとイコールのように思えるから、ふたりの小賢しい女が頑張るけれど、女王陛下はシンプルなようでシンプルな女ではないから、ふたりに翻弄されながらも、おもちゃのように手玉にとって暇つぶしする。ふたりの女がそれぞれの方法で愛を示すけれど、女王陛下の底なし沼の孤独は、どんな愛の方法にも満足しない。

 

女たちがキリキリと宮廷政治を争う傍で、男たちは奇妙な化粧で顔を汚し、裸でキャッキャッと果物をぶつけあう趣味の悪い遊びに興じている、まったく男の立派さが描かれないところがヨルゴス・ランティモスらしい。女たちの衣装も、ソフィア・コッポラ的マカロンカラーでもなく、甘さのない無彩色で、時代考証など無視してデニム生地など使われていたのもモダーンで見事。

 

3人の女たちが抜群。最後まで女王陛下を嫌いになることがなかったのは、オリヴィア・コールマン本人の可愛らしさによるところだろうか。レイチェル・ワイズは相変わらず美しいけれど、ヨルゴス・ランティモス映画においては己の美しさに無頓着な女として登場するのも面白い。

 

私の前の列に、シャンテの観客層らしいといえばらしいことに、文化村が似合うような妙齢の上品なマダム3人組がいらして、「英国アカデミー賞でもたくさん賞をとったらしいの」「英国版大奥らしいわよ」「衣装が豪華で…」などCMなどで仕入れたと思われる映画にまつわる断片をキャッキャッと上映前におしゃべりされていたので、この方々にはヨルゴス・ランティモス映画への免疫はあるのだろうか…と軽く心配になったところ、上映後はエンドロールも終わらぬうちに速やかにだだだっと退場された。ヨルゴス・ランティモス洗礼。私ならヨルゴス・ランティモス映画に上品なお友達は誘わない。宣伝文句は何ひとつ間違っていないけれど、ヨルゴス・ランティモスの特徴は何も伝わっていない。映画の宣伝は難しい。

 

 

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Mariko
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