Weekly28/和田誠 映画の仕事

 

国立映画アーカイブの展覧会『和田誠 映画の仕事』、主任研究員の岡田秀則さんが「企画の見どころと展示品解説」をしてくださるトークイベントの時間にあわせて伺いました。展示の際、岡田さんのトークがある場合、その日をチェックして伺うことにしています。深い専門性と語り口のわかりやすさ!

 

https://www.nfaj.go.jp/exhibition/makotowada2023/

 

国民的イラストレーター・和田誠さんは少年期からの映画好きで、映画人を描いたり、ポスターを手掛けたり、監督作も。私が思い出深いのは2015年、同じく国立映画アーカイブであった展示『ポスターでみる映画史Part2 ミュージカル映画の世界』に和田さんがご自身のコレクションであるミュージカル映画のオリジナルポスターを多数貸し出され、その貴重なコレクションを近くで観られたことに加え、和田さんのトークがあり、一緒に会場をウロウロしながら、ポスターや映画を時々鼻歌を歌いながら!解説してくださったこと。なんだか吸い寄せられて、みんなが近くに寄ってしまうような魅力的な方でした。いろんな場所で映画にまつわるトークをたくさん聞いたけれど、間違いなく一番楽しく、贅沢な時間だった。とにかく映画が好きで、映画について話をするのが楽しくてしょうがない!と、ウキウキ弾むようなトークで、展示室が多幸感に包まれていた。その4年後に亡くなられたので、貴重な機会に間に合ったという気持ちでいる。

 

https://www.nfaj.go.jp/FC/musical/index.html

 

少年期からの映画鑑賞歴の膨大さは展示されていた鑑賞ノート(タイトル、監督、俳優、観た場所まで書かれている…几帳面!)からも一目瞭然なのに、語り口に批評家然としたところが微塵もなく「映画ファン」であることが絶妙で、どうすればあんなふうに軽やかでいられるのでしょうか。我が憧れの「映画ファン」の大先輩であります。

 

 

場内撮影可だったので、展示の一部を。新宿にあった日活名画座のポスター。作風を確立する前のシンプルな絵。50円とか60円とか、入場料がしっかり書いてあるのが面白かった。

 

 

装丁を手掛けた膨大な映画本が本棚のように並ぶ一角から。イラストを使用せず写真だけを使ったローレン・バコール自伝『私一人』は、原題『Be Myself』を『私一人』と訳したのも和田さんで(かっこいいタイトル!)、デザインはローレン・バコール本人からも称賛されたとか。デザインで引き立つ凛としたローレン・バコール!

 

 

和田さんといえばビリー・ワイルダーの熱心なファンの印象が強い。『ワイルダーならどうする?』はキャメロン・クロウがビリー・ワイルダーに教えを乞う対話本で、めちゃ面白いです。日本語題はワイルダーが行き詰まった時に師匠エルンスト・ルビッチを思い浮かべ「ルビッチならどうする?」って問いかけていたエピソードから、和田さんがつけたのかな? この本、大型本で確か4000円ぐらいするのに、何故か書店用ポスターに1600円と書いてあり、あれ?と思っていたら岡田さんの解説でそこに触れられていました。

 

ビリー・ワイルダーは愛妻家で、映画のセットで奥さんに出会い、片腕が視界に入った瞬間に恋に落ちた…というエピソードが本の中で披露されていたと思うけれど、確かこの本の表紙裏が、その片腕の写真だったような気がします。手元になく、うろ覚えですみません。

 

 

こちらは、私がモンロー好きゆえに撮った1枚。

 

 

アメリカの映画会社のロゴを、和田さんがおそらく映画館でこっそり撮影したと思われる紙焼きの写真。これを撮るの、いかにもデザイナーという感じ。

 

 

直前に再見していたので『怪盗ルビイ』の劇中歌の楽譜(作詞・作曲:和田誠!)、絵コンテも観られて嬉しい。『麻雀放浪記』『怪盗ルビイ』『怖がる人々』と、タイトルを5文字にやがて揃えるようになったのが、いかにもデザイナーらしいと解説があった。そして私はこれら3作しか知らなかったけれどもう1本『真夜中にて』というジャズミュージシャンを描いた映画があると知りました。滅多に上映されないらしいけれど、絶対観たい!真田広之はすべての映画に出ている。

 

 

コレクションしていた映画ポスター、映画フィルムは国立映画アーカイブに寄贈されたとのこと。会場に16mmフィルムのコレクションも展示されていて自宅に映写機もあり、プライベートな上映会に若き村上春樹も客人として招かれたとか。

 

『麻雀放浪記』の監督を打診された時、多数連載を抱えていたから迷ったけれど引受け、連載もひとつも飛ばさず映画も完成させ、撮影中にタブロイドのようなサイズのメイキングを発行して配っていたらしく、本当にマメで、記録魔でもあり、すべてを楽しんでいたのだなあ。とにかく膨大なインプット、膨大なアウトプット、精力的なお仕事っぷりに圧倒される。

 

展示で特に面白かったのが和田さんが妄想好きの映画ファンであった点で、存在しない架空の「アメリカ映画史講座」シリーズ(国立映画アーカイブの前身が主催で、しかし上映は別の会場)を勝手に企画し、当時日本で観る機会のなかった映画群をラインナップした特集上映のポスターが数枚あって、観るだけで楽しかった。映画ファンの極み!

 

私も妄想癖がひどく、絶対にまじわることのなかった国も時代も違う監督と俳優を組み合わせて架空の映画を妄想しているし、なかなか観ることが難しい映画を組み合わせて架空の特集上映を脳内でプログラミングしたりしており、私は脳内にあるだけだけれど、和田さんはデザインやイラストの素晴らしい技術があるから、こんなふうに頭の中を他者に披露できるんだなぁ。そして、初監督とは到底思えない『麻雀放浪記』の堂々たる風格、こんな妄想の積み重ねが、いざ映画を監督する段でおおいに役立ったのだろう。

 

構想はあったものの実現しなかった時代劇などの監督作についても解説で触れられていた。異業種監督としても成功した映画ファンとしては、いろんな作風の映画を撮りたかったようだけれど私は、コケティッシュな女性がのびのびと息をしていられるのは和田さんならではのこと、きっと和製エルンスト・ルビッチになる人だった!と思うと『怪盗ルビイ』みたいな夢のロマコメをもっともっとたくさん観たかったです。

 

『和田誠 映画の仕事』展は3/24まで。

 

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