春江水暖
Golden Penguin Award 2019に私が選んだ『春江水暖』は中国映画で、杭州郊外にある富陽という街が舞台。行ったことはないけれど、水辺にいかにも中国らしい寺があって綺麗な街だった。なんてことはない、中国に山ほどある、風光明媚な地方都市なのだろうけれど、綺麗な街だ!と思っている人が撮っている映画だった。
『パラサイト』でオスカーを撮ったポン・ジュノ監督の、この人はすごい「人たらし」なんだろうな!と各所への気遣いと映画愛に溢れたエモーショナルなスピーチが素晴らしく、とりわけスコセッシの言葉を引用した “The most personal is the most creative”、しみじみと良かった。『春江水暖』のグー・シャオガン監督に感じた、自分に集中してる!の印象も、まさにそれだった。監督の両親が富陽で営んでいたレストランが再開発の波に飲まれて閉店することになったエピソードを映画にすることを着想し、結果として『春江水暖』になったらしい。中国の「百度」で調べたところによると、意外にも大学での専攻は服飾設計(コスチュームデザイン)だったそうで、山水画や漢詩など伝統要素を現代に落とし込む衒いのない手さばきは、少し服飾の人っぽいなと思った。
映画についてほとんど情報がないけれど、フィルメックスのサイトに上映後のQ&Aも掲載されています。154分観終わった最後に「第1部完」って字幕が出て、会場が軽くどよめいていた。監督は穏やかな印象だけれど、時おり肝の据わった感も漂わせる人で、撮れるかわからない続きをさらっと匂わせるあたりも、静かに大胆。
https://filmex.jp/2019/program/competition/fc7
フィルメックスの市山ディレクターの熱意で東京の観客がこの映画に出会えたとのことで、市山ディレクター直々に字幕も担当されており、中国語→日本語の認識で観ていると、微かに翻訳が謎な箇所があり、??と思っていたら、Q&Aの場で見る限り、市山ディレクターは中国語を解していらっしゃらない様子だったので、中国語→英語字幕→日本語字幕と言語を跨ぐうちに、??の箇所が生まれたのかな、と思った。配給が決まったと小耳に挟んだけれど、『春江水暖』のタイトルのまま公開されるか不明なので、逃さないように情報を得ておきたい。
『春江水暖』は漢詩(蘇東坡「恵崇春江晩景」)の一部。春江水暖鴨先知。春の到来を、長江の水が暖かくなったことで、鴨が先に知る。
Golden Penguin Award 2019
https://cinemastudio28.tokyo/goldenpenguinaward_2019
写真は本日の不忍池。光が白くて、スワンボートは春がもう近いって私より知ってるはず。