ホワイト・バレット

 

東京での映画初めは、改装工事でしばらく閉館し、リニューアルした新宿武蔵野館。ロビーがとても綺麗になっていた。以前の雑然としたロビーも、新宿らしくて嫌いじゃなかったけれど。

 

香港の大御所ジョニー・トー監督「ホワイト・バレット」(原題:三人行)は、監督自身のプロダクションの設立20周年記念作品。いつものルイス・クーに加え、中国を代表する女優ヴィッキー・チャオも出演しており、華やか。あらすじはこちら(武蔵野館hp)。最後まで読むと「明けましてジョニーとう!」…。

 

ヴィッキー・チャオ演じる女医の勤める、病院の脳外科エリアが舞台。冒頭は女医とその周辺から始まる。俳優たちの動きがカクカクし、セリフと口の動きが下手なアフレコのように合っていない。ジョニー・トーは独特な演出の人なので、これはどういう演出なのだろう…と不思議に眺めていたら、非常灯が灯り、スタッフの人が謝罪をして、改めて最初からリスタートとなった。1.5倍速で再生する映写ハプニング。新年早々、レアな場に立ち会ったものだわ。今年はレアなことがたくさん起こる気がする…!

 

気をとりなおして。女医、ルイス・クー演じる刑事、ウォレス・チョン演じる若きマフィアの3人それぞれの職業倫理(というものが女医以外にあるかは別として)、3人が3人とも崖っぷちに追い込まれ、プライドを賭けた攻防を繰り広げる。マフィアの頭に撃ち込まれた銃弾を巡り時間との戦いも相まって。

 

東京での上映は武蔵野館だけ、時間は朝からか夜遅くからか、東京のジョニー・トーファンは厳しめの二択を迫られている!夜に弱い私は朝を選択したけれど、朝から観るのにまったく相応しくない映画だった。

 

開頭手術のシーンが何度かあり、血みどろの銃撃戦もゾンビもさほど怖くないけれど、内臓がグリグリされるような手術シーンを観るのは苦手なので、その度に薄目で凌いだ。そろそろ終わるかな…と目を開けると、メスやハサミの刃先が鋭利で美しく、ジョニー・トーは何でもスタイリッシュに撮る人だなぁ、と妙なところでうっとり。開けられた頭の内側から手術する医師たちを撮る、他ではお目にかからないショットも幾つか。時折差し込まれるルイス・クーのドジな部下、ラム・シュー(お腹がますます出ており、不健康そうな太り方をしていた)のシーンといい、お笑い成分が4割ぐらい含まれているのも、お正月らしくて良い。

 

何百人もスタッフを動員して撮ったという歌謡曲が流れる中のスローモーションの銃撃戦は、もしソフト化されたら何度も何度も観たい。ジョニー・トーの映画はいつも脚本らしい脚本はないと聞くけれど、あの場面、あいつがあいつを撃って、あいつの身体が飛んで…って精緻に矢印書いて段取って撮ったのかしら。

 

銃撃戦で流れる歌の歌詞といい、「三人行(=三人行めば必ず我が師あり、という論語からの引用)」というタイトルといい、崖っぷちに立たされた3人が自らの利益と倫理を貫こうとするあたりも、ほろ苦さの残るラストも、ジョニー・トーの様式美が今回も楽しかった!というだけではない深みを含みながら、教訓めいたセリフが一言もないのが素晴らしい。多くを含みながらも88分と短いのも粋。ジョニー・トーもルビッチの如く、省略の美学の人だなぁ、と名人芸に惚れ惚れ。

 

姿は現さないながら、電話の向こうから聞こえるルイス・クーの上司役の声はジョニー・トー本人らしく、エンドロールにしっかり名前が載っているのが可愛らしかった。いや、可愛らしいとか、そういう人ではないけれども。

 

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Mariko
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