親密さ
ただ座っているだけでも映画鑑賞は体力消耗するものなので、『親密さ』255分、完走できるか不安だったけれど、杞憂だった。没入している、ということだろうけれど、濱口映画の長さと体感時間の短さの反比例は毎度、不思議。
『親密さ』を観るのは3度目。(これまでが麻酔でリセットされてしまったせいか)初々しい気持ちで、過去最高に集中した。後篇の演劇は劇中劇としてではなく、ひとつの演劇として鑑賞したら、私は面白いと思うかしら。脚本の読み合わせ、手紙を読むこと、「書き言葉を読み上げる」場面がいくつかあるためか『親密さ』を観るたび、とてもそんなことは人前では発せません、本心、本音、本意、そんな禍々しいものなんて、という言葉も案外、書き言葉では綴ることができる。話し言葉の奥ゆかしさにひきかえ、書き言葉の図々しさったら、と思う。
この映画は私の中ではナチュラルに、青春映画に分類される。制服も流れる汗も登場しないけれど。私が観たこれまで映画の中で、最高の青春映画かもしれない。
年に1度行くか行かないかのキネカ大森には、京浜東北線に乗って行く。滅多に乗らないから、途中どの駅に停車するかほとんど把握していない。帰りの電車に乗り、路線図を眺め、田町に停車することを知った。田町駅のホームに停車した車両から、向かいは山手線、確かに、と思った。
『親密さ』を最後まで見届けたことがある人には、私が何を言いたいのかは、わかってもらえると思う。この映画を観た後に、京浜東北線に乗って田町を通過する私は、世界でもっとも幸せな観客だ、と思ったことも。ベルが鳴ってドアが閉まり電車が動くと、交わって離れてゆく電車はどこから撮ったのだろう、と、ふと考えた。「言葉は想像力を運ぶ電車です。日本中どこまでも想像力を運ぶ、 私たちという路線図。」
http://netemosametemo.jp/hamaguchi/
memo
*身辺とてもバタバタしておるので、しばらくdiary更新は不定期です。
待望の『寝ても覚めても』、シネクイントで公開日、舞台挨拶つきで観た。
濱口監督の映画はこれまで、満席の映画館で観ていたとしても、どこかしら一人の部屋で夜中、膝を抱えて光る画面を眺めているような、私と映画だけの秘密めいた関係を保ってきた感覚があったので、主演俳優がバラエティ番組で番宣したり、ジャンル問わずあちこちの媒体に登場して語ったりするのを、これが商業デビューというものか…!と慣れない気持ちで眺めている。
映画は圧倒的だった。朝子というヒロインは賛否両論の存在だろうけれど、私には朝子の思考や行動がよくわかる、同意する。こういうのを世間では「共感」と呼ぶのだろうか。これまで濱口映画に登場した、さまざまな女たちの欠片が朝子に集結しているようだった。観終わった瞬間は、2役を演じた東出くんのことを考えてたけれど、その後はずっと、文字通り寝ても覚めても、朝子のことばかり考えている。
これまでだって常に、濱口映画で女たちはいかに描かれたか、を考えてきたけれど、たくさんのインタビューの中に、これは!と思う言葉があったので記録しておく。
こちらのインタビューの末尾、
http://ecrito.fever.jp/20180903221536
『ハッピーアワー』が顕著だと思いますが、女性の描き方が濱口監督は特徴的であるように感じます。今回の『寝ても覚めても』は観客によっては女性不信になってしまう映画でもあると思うんですが、女性観・女優観を伺ってもよろしいでしょうか。
の問いに対して、
このきっぱりした答え!私の濱口映画への信用の源泉に触れたかもしれない。一生あなたの映画、観ます!と、スクリーンショットして日に何度か眺めている。『寝ても覚めても』については、忘れないようにぽつぽつメモを書き残していくつもり。
このサイトは日本のあちこちの街からアクセスいただており、どんな景色や生活の中で読まれているのかしら、と時々妄想しています。皆さまのご無事を祈っております。台風や地震の被害に遭われた方に、心よりお見舞い申し上げます。
2重螺旋の恋人
有楽町で『2重螺旋の恋人』を観た。
https://nijurasen-koibito.com/
フランソワ・オゾン、器用な監督で何でも撮れそうだけれど、だからこそ私にとって当たり外れが大きい。『しあわせの雨傘』なんて本当につまらなくてオゾンが撮る必要あるのかな?とすら思った。『8人の女たち』より『まぼろし』より初期の『焼け石に水』が一番好きだったかもしれない私には、『2重螺旋の恋人』は久々の当たりだった。
主演マリーヌ・ヴァクトは『17歳』のヒロインだった女優で、なんだか植物のように触れれば散りそうな脆さだった『17歳』から数年、華奢な身体はそのままに、みっしり肉も骨も詰まった動物に化けていた。フランス女優らしく惜しみなく脱ぎ、次は脱がない映画に出ないと、そろそろマリーヌ・ヴァクトが登場して脱ぐだけで、また脱いでるよ(笑)って失笑を買うかもしれない。マリーヌ・ヴァクトの見た目やラフな装いが好きで、時々画像検索して見惚れているけれど、自分の美しさに無頓着な美しい人っていいなぁ。シルクなどのとろみある素材のクタッとしたシャツやブラウスが世界で一番似合う。
双子をキーワードに出生の謎が解き明かされてゆくミステリー。染色体の関係で三毛猫はだいたい雌、雄の三毛猫は極めて珍しいという事実をこの映画で知った。中盤まで真顔で観ていたけれど、実はコメディなのでは?と思い始めてから初期オゾンを彷彿とさせるグロテスクなシーンが散りばめられていることに気づき、俄然楽しくなる。
終盤、強烈な存在感を放つ老婦人に驚き、誰かと思えばジャクリーン・ビセットだったのでさらに驚いた。トリュフォー『アメリカの夜』ヒロインのあの美しい人。老いが重くのしかかったジャクリーン・ビセットを、オゾンが美しく撮ろうとしていないせいか、ジャクリーン・ビセットの登場するシーンだけデヴィッド・リンチ映画のような趣があった。
オーシャンズ8
『オーシャンズ8』は、TOHOシネマズ日比谷で。
http://wwws.warnerbros.co.jp/oceans8/
このところ、女性の描かれ方にモヤモヤすることが多くなってしまい古い映画(特に邦画)から遠ざかっているけれど、では2018年現在、果たしてどんな描かれ方が正解なのか?の最適解、もしかして『オーシャンズ8』では。
タイトルどおり8人の女性が結託しメットガラの夜、カルティエの巨大ダイヤを盗みに行く。出所したサンドラ・ブロックが入所中、練りに練った計画を実行するためメンバーを探して口説きまず7人、やがて8人が集う。バランスよくアジア系、インド系も含まれる点は現代ハリウッドらしい多様性への配慮というところだけれど、集められた女たちが誰も湿っぽい物語を背負っておらず、シンプルに目的達成のため考えうる最高の精鋭が集められただけで、計画に参加する目的が、女だからと虐げられた鬱屈を晴らすためではなく、貧しさから脱出するためのお金目的でもなく、面白い仕事きたね!腕が鳴る!のテンションなのが素晴らしく、そんな女たちだからということか、つまらないマウンティングも発生しない。
ラスト、それぞれの人生に戻った8人が得た大金で何をしたかが短く紹介される。8人のうち、独身であることにモヤモヤしていた1人が、結婚してパリで幸せなハネムーンを過ごす描写があったのがとりわけ良かった。女の幸せのバリエーションとして「結婚して幸せに暮らす」が「身軽に一人旅に出る」「趣味の店を開く」「新たなキャリアにチャレンジする」などなどと並列にあって、誰もが当たり前に肯定されていた。何かを得たら何かを失わなきゃ、なんてこともないし、何も我慢することもないし、欲しいものをのびのびと手に入れ、欲しいものは人それぞれ。
メットガラのキラキラも楽しいけれど、自らのブランドのコレクションが酷評され、目のまわりを流れたマスカラで真っ黒にしたヘレナ・ボナム・カーターがヌテラ瓶抱えてメソメソしながら舐める一瞬のシーンで、この映画の面白さを確信。男前すぎるケイト・ブランシェット、リアーナのbefore/afterに見惚れるのはもちろん、ハリウッドでの自分の評判を逆手に取ったアン・ハサウェイの開き直りと満開の美しさも天晴れ。これ、男の人が観るとどんな気分になるんだろ?と一瞬思ったけれど、ま、どうでもいいか。
ロケ地
めいめい好きな食べ物を狙う空腹ペンギンズ。定形外送料が高くなったので、最近はクロネコヤマトの宅急便コンパクトで送ることが多い。小箱にギュッと隙間なく詰める作業が楽しいけれど、切手を組み合わせてベタベタ貼る機会が減って寂しいな。
ペンギン切手、たっくさん買い溜めしたので、切手ファイルの中で大量のペンギンが出動を待っている。
『ペンギン・ハイウェイ』、アニメの場合もロケ地と呼べばいいのか不明だけれど、奈良県生駒市界隈が描かれているらしい。
https://masamunenet.com/archives/916
原作の森見登美彦さんが生駒出身だからかな。ペンギンに加え奈良とくると、もはや私のための映画では…ありがとう…。
アオヤマくんが想いを寄せる「お姉さん」、来世があるとしたら、あの「お姉さん」に転生し、ペンギンの大群を自在に操りたい。号令かけるシーンは、映画至上屈指のペンギン名場面。
ペンギン・ハイウェイ
『ペンギン・ハイウェイ』は公開初日、TOHOシネマズ上野で。
小さな頃にあまり観なかったせいかアニメとの距離感は縮まる気配がないけれど、これからの私にとって、夏といえば?→『ペンギン・ハイウェイ』!と自動的に連想しそうなアニメとの出会いだった。酷暑の今年、どんどん暑くなる日本の夏にうんざりしながら、幼かった頃の夏…今より気温も数度低く、永遠に終わらなさそうな長い夏休みがあり、母が作って冷やした大量のみつ豆、お祭り、夏草の匂い…を思い出し、大人になった私は、もうあんな夏を過ごすことはないのだろう、とふと考えたことを思い出した。そんな映画だった。
そしてペンギン!これまで観たあらゆる映画の中で、最も大量のペンギンがスクリーンに溢れる。
お姉さんが投げたコーラの缶がペンギン化する実験!実験自体がもう魅力的、ボテッと地面に落ちたペンギンの姿が可愛い。私もコーラ缶投げてペンギンを生産したい。
あと、こういう普通の民家の庭を横切るペンギンの描写、私がしょっちゅうしている「もし日常にペンギンがいたら…」妄想の完全アニメ化って感じで、夢みたい!
そんなこんなで、ふぁぁぁぁぁ…ペンギン…たくさん…(うっとり)と、ペンギン熱にうかされた私に、友達が「映画どうだった?」と聞いたので、「もうもうペンギン大行進、ペンギン大集会、ペンギン大洪水、ペンギン大運動会映画で最高!」と答えたら、「……。」と困惑の表情をされたので、気をとりなおしてペンギンを頭の隅に追いやり、
「ペンギン以外の感想としては、上野の科学博物館で熱心にメモをとったり、夏休み子ども科学電話相談に電話をかけて理知的な口調で質問するような男の子・アオヤマくんが主人公で、アオヤマくんが想いを寄せるお姉さんがこの世の謎、わからなさ、憧れ、を一身に背負ったような存在で、しかも蒼井優ちゃんの声で絶品で、ひと夏の冒険の流れでこの世のふしぎに触れ、触れてしまったが故のほろ苦さも同時に味わい、夏の終わりにちょっとだけ大人びたアオヤマくんの姿に、小さい頃の夏ってこんなだったな…と遠い目になったところに宇多田ヒカルの主題歌が流れてエモの極み!エモの洪水!ペンギン大洪水!って映画」
と説明すると、急に態度が変わり「それはエモい!」と興味を持ったようだったので、最初からそう説明すべきだったのかもしれない。
NHKの宇多田ヒカルに密着した番組で、ちょうど主題歌「Good Night」が生まれる瞬間が映っており、「これは少年が年上の女性に恋したことを、大人になってから思い出している歌」と説明しながらレコーディングしていた。歌詞、ギリギリまで言葉が絞られているのに、『ペンギン・ハイウェイ』の世界がまるごと入っており、暗闇で最後の一行を聴き終わると映画は見事に着地した。鮮やかな技だった。
Cinema memo : KANO
今年はお盆も仕事をしていたけれど、長らくお盆は休んでいた習慣の蓄積が「なるべく休みたい」の無意識を形成し、打ち合わせが入らなかった隙に午後から休みをもらって、ランチがてらビアホールでビールを飲んだ、の図。
甲子園決勝はリアルタイムで観られなかったけれど、今年は本当に楽しかったなぁ。些細なことまでニュースになった金足農業のエピソードを読むと、私の夏のノスタルジアも喚起された。高校の先生だった母は数年単位で県内のあちこちの学校を異動し、農業高校で働いていた時期の夏休み登校担当日(のような日。授業や行事はないけれど教師が持ち回りで登校し学校の実務をする日)、他に誰もいないから私も母の職場についていき、ビニールハウスの点検に付き合ったり、草むしりを手伝ったり、広いプールで浮かんだり。幼かった私に農業高校の校内はアミューズメントパークみたいだった。
農業高校が決勝に進むのは1931年、日本統治下だった台湾から出場した嘉義農林(嘉農)以来ということで、未見だった『KANO』は今こそ観るべきと思い出した。公開時の熱に煽られて映画館で観ることは確かに楽しいけれど、興味を持った時こそ映画を観る最適のタイミングで、複製芸術だからそれが可能、ということをこんな時に実感します。
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