夏の想い出

今朝、ドアを開けて外に出ると、空気が秋だった。家に帰ると、注文していた「ヤンヤン 夏の想い出」のパンフレットが届いており、オフィシャルに夏は終わったらしい。信じられないけれどこの映画、ロードショーでは見逃している。映画館に行く時間がどうしてもとれない時期だった。
監督のQ&Aはあるものの、驚くほど読むところが少なく、けれど写真が美しい。あの映画なら、どのショットを使っても美しいパンフレットになるだろう。

台北でなぜか古い西洋料理屋に入り、なぜかカレーを食べた。食後のコーヒーに西瓜が一切れ添えられていたのが、今年の夏の想い出。
台北電影節

朝起きたら、え?なんだか外が明るい…もしや?とバルコニーに出たら、台北、晴れてた!台北雨女の私のためにホテルの人々が祈ってくれたおかげ…ありがとうありがとう。晴れてると、違う街のように見える。
そして、

近くにあるこのビル、屋上に3階建ての家が建っていて興味深い。ジョニー・トーって自分のプロダクションのビルの屋上にセット建てる(そして銃撃戦でボロボロにする)って聞いたことあるけれど、こんな感じなのかしらん。

今回の滞在のメインイベント、台北電影節。映画祭にもちろん興味はあるけれど、それより中山堂に入って映画を観てみたかった。普段は様々な催しに使われているらしい中山堂、映画祭以外で映画がかかることってあるのかな?

滞在期間で観られる中で、台北で撮られた台湾人監督の映画を観られたらいいな…と思い、「千禧曼波」を選択。侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の2001年の映画で邦題は「ミレミアム・マンボ」。新しい映画を観る方がいいかな?と思ったけれど、中山堂でかかる映画、新しいものばかりでなくて、明日は賈樟柯(ジャ・ジャンクー)の「三峡好人(邦題は「長江哀歌」だったかしら)」がかかるし、日本の「薔薇の葬列」がかかったり、ハネケの映画も古いものだったり、なので気にせずに「千禧曼波」を観ることにした。侯孝賢の映画を観ると必ず眠ってしまうので、「千禧曼波」も何度もトライして最後まで辿り着けない。「千禧曼波」、今回ようやく最後まで観ることに成功!
「千禧曼波」の次の次にかかるのが、「この世界の片隅に」なのだけれど、ゲストが来ると発表されていたからか、この1回だけの上映だからか、早々にチケットが売り切れていた。
「千禧曼波」、映画人が登壇と書いてあったので、侯孝賢来るかな?と思っていたら、来なくて、音楽担当の林強だった。今回の映画祭では林強の特集が組まれているので、その一環らしい。
中山堂で映画を観ることが主目的だったので、私の台北電影節は1本で終了。中山堂の中に入れて、映画を観られて本当に嬉しい。これ以上の詳細は、28の記事にすると思います、たぶん!
1935/2046

北京の映画博物館で見つけた、1935年の中国映画のパネル。大きめのドットのチャイナドレス。日本で観られる中国映画なんて本当に少なく、クラシック映画なんて観る機会がないので、どのパネルも面白かった。
「メットガラ」を観ていると、王家衛の落ち着いた的確なアドバイス、さすが中国上下5000年の歴史の裏付けを感じさせる金言の宝庫…と思うと同時に、「花様年華」のファッション界への影響の強さを思い知る。柳が風にたなびくようなマギー・チャンの美しさに異論はないけれど、みんなもうとっくに忘れてそうな続編?「2046」、私は好きだった。物語が破綻気味なのは王家衛映画の常だから特段驚かず、SF要素もある映像の美しさにうっとりした。そしてチャン・ツィイー!
「2046」のチャン・ツィイー、好みはありましょうが「花様年華」のマギー・チャンとはまた違う系統の中華圏の女の美しさをこれでもかと見せつけ、体幹のしっかりした自己肯定感の高そうな体つきのせいか、王家衛映画常連の女優たちと比べても世代がいくつか若いせいか、ごうごうと新風を吹き込んでいて素晴らしかった。
メタリックなチャイナドレスに、たっぷり塗ったマスカラ、シャラシャラ揺れる煌めくイヤリング…。ま、チャン・ツィイーが好きなだけなのだけれど。他の映画はamazonビデオに揃っているのに、「2046」がないのは、ジャニーズの堅牢な壁という理由でしょうか。
待ち伏せ

私の帰宅を郵便受けで待ち伏せしていらした山口小夜子さま。お送りいただきありがとうございます。
反射的に「ピストルオペラ」を思い出し、あの映画、シネクイントだっけ、舞台挨拶に行ったけれど、山口小夜子さんは登壇していらしたかしら。鈴木清順監督と美術の木村威夫さんこそマイ・アイドルとばかりに、そちらばかり注視していたので、山口小夜子さんについては記憶にない。さすがに目撃していたら覚えているだろうから、不在だったのでは。
「ムーンライト」と「ジャッキー」が公開され、みぞみぞする週末。天邪鬼を発揮し、明日は古い映画を観に行く予定。
運動神経

鈴木清順監督の訃報、寝て起きてもピンとこないまま、Los Angeles支部・りえこさんからいただいた「TIME AND PLACE ARE NONSENSE」(by Tom Vick)というアメリカの鈴木清順研究書をぱらぱら眺めると、図版が多くて楽しい。
最後の方に差し掛かると、チャン・ツイイーの写真が出てきて、「オペレッタ狸御殿」のヒロインだったね、と久しぶりに思い出した。監督の遺作になったから、最後のヒロインでもある。この映画、前売りを買ってウキウキしていたのに東京生活が忙しすぎて上映劇場を調べる余裕すらなく見逃し、流れ流れ辿り着いたパリで開催されたレトロスペクティブでようやく観た。あの1度しか観ていないからほとんど忘れてしまっているけれど、チャン・ツイイーの素敵さだけは覚えている。チャン・ツイイーのファンなので、清順映画で、まさかの着物姿のツイイーが観られるとは、創作和食なのか創作中華なのかもはやわからないけれど、とにかく美味しくいただきました!という食後感。
チャン・ツイイーはもともと舞踏の人だから、体幹がビシッとしており、私にとってツイイー映画を観る楽しみは、体幹がビシッとした女の動きの美しさを堪能することにある。どういう経緯でキャスティングされたのか知らないけれど、クラシカルな狸御殿を現代に復活させるというのに(大映映画でいくつも狸御殿映画があって、もはや日本映画の1ジャンルだと思う)、日本の女優ではなく、わざわざチャン・ツイイーを選ぶなんて…監督!私と好みが同じですね!と駆け寄って手を取りたい気分(迷惑)。
ないものねだり、ということなのだろうけれど、運動神経の良さそうな女優が好き。最近だと断然、広瀬すずちゃん。考えてみれば、清順監督のヒロイン、「河内カルメン」の野川由美子も、「ピストルオペラ」の江角マキコも、その他その他ほとんど運動神経良さそうな、動きにもたつきがない女ばかり。江戸っ子らしく、小股の切れ上がった女が好きだったのかな。
…と、妄想は止まらないし、やっぱり監督が亡くなったのはピンとこない。生きてるうちから、主食:霞って感じだったもの。
5 Best movies 2016 / Part4

Best movies 2016、4本目はジョニー・トー監督「スリ」、2008年、香港映画。
記憶はいつだって身勝手で、良かったことだけを保存する傾向のある人は、過去を砂糖でくるみ、包んだ手を開くとベタつきが残る。ノスタルジーの取扱いは難しい。「スリ」は、取扱いに成功した稀な1本。
返還後、想像以上に香港の街の変化は早く、幼少の頃から親しんだ懐かしい建物も徐々に取り壊されゆく中、好きだった香港の街を記録するために、「スリ」を撮ったと特典インタビューで監督は語っていた。
籠にとらわれた鳥を逃す物語。大陸からやってきた、マフィアのボスの情婦。ハイヒールであちこちを行き来しながら、4人のスリ集団をそそのかし、彼女の解放をめぐって、雨の広東道でスリとマフィアが対峙する。
身体性が奪われつつあるのは犯罪の世界でも同じようで、相手の体と密着して犯行に及ぶ、スリという行為自体も、やがて旧時代のものになっていく。大陸の発展が急速に進む中、かつて大陸から自由な香港に夢を抱いてやってきた人々の存在も、過去のものになる。籠にとらわれた鳥こと美しい情婦だけが、広東語ではなく普通話を話していた。大陸からやってきたのだ。
ここまでだとジョニー・トーお得意のクールな男の世界だけれど、特筆すべき点は、ほとんどミュージカルのように音楽に彩られていること。セリフが歌、というわけではないけれど、「スリ」はジョニー・トーが大好きだという「シェルブールの雨傘」へのオマージュでもある。なんと…!ジョニー・トー、いかつい風貌のくせして、ロマンティック…!
冒頭から、年季の入ったアパートの部屋にいるサイモン・ヤムが歌って踊りはしないものの、ステップを踏むようなリズムで物語が始まる。全篇の音楽は、フランスの作曲家による東洋趣味、西洋流解釈の東洋といった手触りで、エキゾチックな香港の街によく似合う。
「シェルブールの雨傘」オマージュだから、クライマックスのスリ合戦も雨の中。色とりどりではないけれど、男たちの黒い傘に落ちては跳ねる、超スローモーションでとらえられた雨粒の動きのエレガントなこと…!つるんと無機質に変化していく街で、「義理人情」とか「矜持」とか、簡単に使うのももはや気恥ずかしい、やがて死語になりそうな言葉が似合う場面だった。
これだけ要素を盛り込むと、どうしても甘いノスタルジアに支配された映画になりそうなものを、そうならないのは87分とコンパクトで、省略が多用されているからか。少なくはない登場人物たちも、巧みな人物配置であっという間に説明してしまう名人技。思い入れ強く語りたいことがある時ほど削るべき、とルビッチとジョニー・トーが教えてくれる。潔く削った断面からのみ香る種類の詩情に溢れ、大切な写真をアルバムにしまうように、街へのラブレターを投函するように、こんな映画を香港に贈ることができるジョニー・トーが羨ましい。
5 Best movies 2016 / Part3

眠気も覚めました。書いたら眠るけれど。
5 Best movies 2016、3本目は濱口竜介監督「PASSION」、2008年の映画。
「同級生の結婚を祝福する若者たち。しかしそこで男の浮気が発覚し、カップルは別々の夜を過ごすことになる。」
夏、新文芸坐のオールナイト1本目で観て、冬にポレポレ東中野で再会。ブランクの半年、「PASSION」の全体は覚えていて、細部を確認したい気持ちだったけれど、再見してみると、自分は何を観ていたのだろう、と思うほど全体の記憶も曖昧だった。
この、ぼんやりと対象を捉えられない感じ、何かに似てるってしばらく考えて、例えば、淡い恋愛感情を抱いてる相手の顔って、思い出せなくないですか。私だけなのかしら、と思っていたら、案外そういう人はいるようで、眩しいものを見る時と同じで普段より瞳孔が開いてるせい説とか、心理学的な説とか、さまざま説があるらしい。己の強い好意は認めるけれど、その輪郭はあまりに曖昧、「PASSION」のこと、少し熱が冷めるまで正確に捉えられそうもない。
中心にいるのは5人の男女。相関図の矢印を書いても、誰の想いも一方通行で、誰かの好きな人は別の誰かが好き、ということがじわじわと炙り出される群像劇。舞台は横浜で、バス、埠頭、マンション、ビル、特別なものは何も映されないけれど、街がきちんと映っている。夜明けの埠頭での長回しのシーンが出色で、2人の会話が止まった時、乱暴に画面を横切る赤いトラック!あまりに映画的な瞬間に鳥肌が立ち、演出ではなく偶然だったと知ってさらに鳥肌が立った。
女性は2人いて、自分はどちらかというとタカコっぽい。タカコはカラックスのミューズだった頃のジュリエット・ビノシュのような雰囲気を持っていた。良くも悪くもタカコに矢印が集まりがちのは、タカコが恋や愛を信じていなくて(あるいは信じていない振る舞いをしていて)空洞だから(あるいは空洞そうに見えるから)ではないでしょうか。あいつのどこがいいんだよ?と問われたタカコが「彼も私も他人に対する期待値が低くて、だから一緒にいてラク」って、けっこうな愛の言葉だと思う。こんなこと言われたら、あいつのどこがいいんだよ?なんて質問する人は、すごすご敗北するしかない。
カホについては、自分にない要素ばかりだから興味深く観察した。ラストの展開が1度めはうまく掴めず、2度観てもわかったとは思えないけれど、彼らは別れ話でようやく、お互いを見たのかな。考えてみれば「ハッピーアワー」でも、純さんの旦那さんは、相手の不在でようやく己の愛に気づく、というキャラクターだったように思う。
この感想の散漫さが、私の「PASSION」への初心な愛を物語っております。眩しくて瞳孔が開いていたせいか。
新文芸坐で夜中に観終わり、しばらく呆然とした。台北を舞台にした恋愛群像劇であるエドワード・ヤンの「恋愛時代」を観た時、いつか日本映画で、こんなのを観られたらいいなと漠然と願った。都市を舞台にして、街も主役のひとりで、恋愛群像劇で、スケッチのようだけれど不思議に普遍でもある、そんな映画が、懐かし映画を発掘するでもなく、同時代に生まれたらどんなに心強いだろう、と。
恐ろしいことに20年経過し、自分の願いも忘れたまま、映画を観るたびに、まるで違う、近いけど違う、惜しいけど違うと、期待と落胆を無意識に繰り返してきたはずの、求めた映画が目の前にあった。しかも2008年に作られていたのを、ずいぶん見逃してきたのだった。大袈裟ではなく、忘れた頃に運命って向こうからひょっこりやってくるのだな。2016年、観る本数が減ったのは、慌ただしかったせいもあるけれど、100の映画を観るよりも、観るたびに新たな発見と新たな問いが生まれる1本の映画と出会ったからかもしれない。「PASSION」も「親密さ」もそんな映画で、2016年は紛れもなくハマグチの年だった。
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