ラスト1本
細々と取り組むこと多く、鼻息荒く千栄子愛を語りながらも、なかなか千栄子に会いに行けない日々。これだけは!と、ラスト1本、「悪名」のみ。
千栄子…(声にならない叫び)!なんて贅沢な映画なのだろう。脚本・依田義賢、撮影・宮川一夫は、チーム溝口でもある。宮川一夫のカメラワークが冴え渡っており、つやつやした勝新、田宮二郎の可愛くて色っぽいこと!
この時代の大映映画、まさに映画遺産と呼ぶにふさわしい。そしてこんな凝った映画をあれだけ量産していたのだから、経営も傾くはずである、と妙に納得。感想はまた後日。
集中力
TOHOシネマズ スカラ座で。スコセッシ「沈黙」初日。
160分以上の映画の半分以上は拷問シーンで、観るのには集中力を要するけれど、恐ろしいことに、無駄な描写が1秒もなく息継ぎができず、観終わったらずいぶん疲れていた。
舞台挨拶でイッセー尾形さんが、観終わった後は言葉が出てこず、3日ほど経った後に、ようやくポツポツと言葉になり始める。けれど、その時の言葉は、観終わった直後の気持ちとは違っている。そんな感動もあるのだな、と初めて知った。と、おっしゃっていて、同じ気持ち。窪塚洋介さんは、大きな眼鏡をかけているね、と思っていたら、おそらく縮尺の問題で、眼鏡は普通サイズで、顔が小さすぎるのだと思う。最後、記事ではカットされるかもしれないけれど、と語った言葉、記事になっていた(こちら)。
今年の恋
シネマヴェーラ渋谷、浪花千栄子特集より。「今年の恋」1962年松竹。木下恵介監督。
ヴェーラのサイトより。
落ちこぼれ高校生の一郎と光。一郎の姉と光の兄は友達が悪いと反感を募らせるが…。吉田輝雄と岡田茉莉子が結ばれるまでのドタバタを軽妙洒脱なタッチで描く。担任の三木のり平、婆やの東山千栄子など名優たちのコメディ演技も見ものなら、岡田の呑気な両親を演じる三遊亭円遊と浪花千栄子夫婦のコンビも素晴らしい。木下惠介の名人芸に酔いしれる傑作ラブコメ!
ヴェーラのロビーに貼ってあったポスターは、ヒロイン岡田茉莉子の相手役・吉田輝雄。この映画がデビュー作だったようで「深い魅力を秘めた瞳!近代美溢れるスタイル!」。!が斜め!になってるところに時代を感じます。スタイルを褒めるのに近代美という言葉を用いる60年代初頭。
反目しあう2人がやがて結ばれるロマコメの定石。吉田輝雄の弟役は若き田村正和が演じており、あんなに若い頃から田村正和として完成していたのだね。たわいのないロマコメながらテンポが良く、木下恵介ってこんな映画も撮るのかぁ!と、ロマコメ好きの私の中で木下株が上昇。木下忠司の音楽が映画のリズムを先導したり整えたり煽ったりしながら全篇を貫き、鑑賞中の高揚をおおいに手伝ってくれるので、木下株またも上昇!
肝心の浪花千栄子は、岡田茉莉子の母親役。東京の小料理屋一家なので、浪花千栄子もいつもの関西弁を封印していたのが少し残念だったけれど、三遊亭円遊と夫婦役で、夫婦の掛け合いが落語のリズム。三遊亭円遊!学がないことをネタにしながらも小料理屋の大将で料理も上手だし、いちいち可愛げがあって、近年観た映画の中で、あんなお父さんいいなランキング上位に食い込む魅力。
後半部分はロードムービーの要素があり、喧嘩しながらドライブする先は熱海。口角上げながら後部座席から助手席に移る岡田茉莉子のいそいそ感!途中で富士山が見えて。ラストは大晦日の京都。お正月に向けて日本髪を結い着飾った岡田茉莉子が、新年の準備、万端です!というルックスで可愛い。京都、先に到着した弟たちからの絵葉書が京都の景色を説明していたので、熱海まではロケに行っても、京都は絵葉書だけで終わらせるつもりだな、この節約上手!と思っていたらラストはちゃんとロケだった。
お正月映画として公開されたそうで、晴れ着姿の岡田茉莉子をニコニコ眺めて年を始められるなんて、1962年のお正月、とても贅沢だったのですね。
こつまなんきん
シネマヴェーラ渋谷、浪花千栄子特集より。酒井辰雄監督「こつまなんきん」1960年、松竹映画。
ヴェーラのサイトより。
「霊感の強いお市を教祖に、インチキ新興宗教を始めた永之助夫婦。お市の色っぽさに、お布施もどんどん集まり大儲けするが…。財産なくして怒り狂い、教団に火をつける浪花千栄子の狂気の演技が凄い!小粒で美味しい南瓜“こつまなんきん”のような河内女を演じる嵯峨美智子の、はち切れんばかりの若さと美しさをご覧あれ。」
フィルムの劣化が激しく、退色でオレンジっぽい色調、傷で縦に雨がざあざあ降るような上映クオリティだったけれど、映画は滅法面白かった。主演の嵯峨美智子は山田五十鈴の実の娘で、顔もよく似ているけれど、母親のような迫力がない分、儚げで女らしい。市川雷蔵の映画によく出ている印象だけれど、主演映画をちゃんと観るのは初めてではないかしら。
河内女の男遍歴、流転の人生。嵯峨美智子にちょっかいを出して結婚することになる、あほぼん藤山寛美の母親役が浪花千栄子。何この親子、濃いわ…と絵面の強さに怯むものの、浪花千栄子は夫の言うことに、ええですなあ、ほんまええですなあ、と同調しているだけの従順な妻なのである。
何ですかこれは。こんな大人しい女なら、他に女優はたくさんいるではないか。浪花千栄子の無駄遣いである!浪花千栄子の本領発揮を断固要求します!と言いたくなるのを抑えつつ観ていたけれど、やはりキャスティングには意味があった。教団、家庭がめちゃくちゃになり狂気に転じた後の浪花千栄子の爆発力よ…!スクリーンから熱風…!それまでの大人しさは、ただのタメだったのだね。見事に緩急つけた浪花千栄子の使い方に監督、ええやないの…と、ホクホク喝采を送る。
しかし浪花千栄子は狂って途中で物語から退場し、寂しいわね…浪花千栄子特集なのに…と残念に思ったけれど、これは嵯峨美智子の映画なのであった。人より少し小賢しく、たっぷり色っぽく生まれついてしまったがゆえの不自由な人生。男と金を手玉にとりながらも、虚しさだけが募っていく。
河内女の遍歴といえば、鈴木清順「河内カルメン」というのもあったね、と思い出すと、「こつまなんきん」も「河内カルメン」も原作者が同じ今東光なのだった。人物造形は似ているところがあるものの、「こつまなんきん」の嵯峨美智子のように、ふと私って、女の幸せって、と立ち止まるような性質は、「河内カルメン」の野川由美子は持ち合わせていなかった。
考えてみればカルメンは、口にバラをくわえて自転車で川べりを走る衝撃の登場だったし(カルメン=口にバラ、というシンプルな発想)、男の間をひらひらしても、立ち止まりはせず、あっさり次にいく。最後にカルメンが言う「幸せは女だけのもんや。けどそれも男次第です。」ってケロッとしたセリフが大好きなのだけれど、途中まで似ていながら結末はずいぶん違う2人の河内女を並べてみて、ほら眉間に皺を寄せていると、そこから幸せが逃げるっていうでしょう?落ち込んでも何もいいことないわよ、こつまなんきん!って背中をバシンと叩きたくなるような、何やら学びを得た気になったのは、賑やかな道頓堀にヨヨヨと消えていくか細い背中が、あまりに儚げだったからだろうか。
ホワイト・バレット
東京での映画初めは、改装工事でしばらく閉館し、リニューアルした新宿武蔵野館。ロビーがとても綺麗になっていた。以前の雑然としたロビーも、新宿らしくて嫌いじゃなかったけれど。
香港の大御所ジョニー・トー監督「ホワイト・バレット」(原題:三人行)は、監督自身のプロダクションの設立20周年記念作品。いつものルイス・クーに加え、中国を代表する女優ヴィッキー・チャオも出演しており、華やか。あらすじはこちら(武蔵野館hp)。最後まで読むと「明けましてジョニーとう!」…。
ヴィッキー・チャオ演じる女医の勤める、病院の脳外科エリアが舞台。冒頭は女医とその周辺から始まる。俳優たちの動きがカクカクし、セリフと口の動きが下手なアフレコのように合っていない。ジョニー・トーは独特な演出の人なので、これはどういう演出なのだろう…と不思議に眺めていたら、非常灯が灯り、スタッフの人が謝罪をして、改めて最初からリスタートとなった。1.5倍速で再生する映写ハプニング。新年早々、レアな場に立ち会ったものだわ。今年はレアなことがたくさん起こる気がする…!
気をとりなおして。女医、ルイス・クー演じる刑事、ウォレス・チョン演じる若きマフィアの3人それぞれの職業倫理(というものが女医以外にあるかは別として)、3人が3人とも崖っぷちに追い込まれ、プライドを賭けた攻防を繰り広げる。マフィアの頭に撃ち込まれた銃弾を巡り時間との戦いも相まって。
東京での上映は武蔵野館だけ、時間は朝からか夜遅くからか、東京のジョニー・トーファンは厳しめの二択を迫られている!夜に弱い私は朝を選択したけれど、朝から観るのにまったく相応しくない映画だった。
開頭手術のシーンが何度かあり、血みどろの銃撃戦もゾンビもさほど怖くないけれど、内臓がグリグリされるような手術シーンを観るのは苦手なので、その度に薄目で凌いだ。そろそろ終わるかな…と目を開けると、メスやハサミの刃先が鋭利で美しく、ジョニー・トーは何でもスタイリッシュに撮る人だなぁ、と妙なところでうっとり。開けられた頭の内側から手術する医師たちを撮る、他ではお目にかからないショットも幾つか。時折差し込まれるルイス・クーのドジな部下、ラム・シュー(お腹がますます出ており、不健康そうな太り方をしていた)のシーンといい、お笑い成分が4割ぐらい含まれているのも、お正月らしくて良い。
何百人もスタッフを動員して撮ったという歌謡曲が流れる中のスローモーションの銃撃戦は、もしソフト化されたら何度も何度も観たい。ジョニー・トーの映画はいつも脚本らしい脚本はないと聞くけれど、あの場面、あいつがあいつを撃って、あいつの身体が飛んで…って精緻に矢印書いて段取って撮ったのかしら。
銃撃戦で流れる歌の歌詞といい、「三人行(=三人行めば必ず我が師あり、という論語からの引用)」というタイトルといい、崖っぷちに立たされた3人が自らの利益と倫理を貫こうとするあたりも、ほろ苦さの残るラストも、ジョニー・トーの様式美が今回も楽しかった!というだけではない深みを含みながら、教訓めいたセリフが一言もないのが素晴らしい。多くを含みながらも88分と短いのも粋。ジョニー・トーもルビッチの如く、省略の美学の人だなぁ、と名人芸に惚れ惚れ。
姿は現さないながら、電話の向こうから聞こえるルイス・クーの上司役の声はジョニー・トー本人らしく、エンドロールにしっかり名前が載っているのが可愛らしかった。いや、可愛らしいとか、そういう人ではないけれども。
初日
待望の!浪花千栄子特集、本日初日。
浪花千栄子、画面に登場するだけで映画全体の面白みがネクストステージに到達する。俳優に対して、これ以上の褒め言葉があるだろうか。
「こつまなんきん」「今年の恋」の2本立てを鑑賞。「今年の恋」、ずいぶん久しぶりに木下恵介監督の映画を観て、10代の頃にたくさん観た木下作品、あまり好みではなかったけれど、「今年の恋」が魅力的だったのは、私好みの軽妙なラブコメだったからか、もしくは時間が経過して、ようやく木下映画の魅力を理解できるようになったからか。
その後、お茶しながら映画談義した人から、気になりつつ永らく未見の「悪名」必見!と教えてもらい、観ていないなんて愚の骨頂!という気分に陥ったので、この特集でようやく捕まえることにする。フィルム上映だし!
教授と美女
頭が冴えてきて、ようやく新年が始まるみたい。年末、映画納めに観た「教授と美女」から映画の記録をリスタート。
シネマヴェーラ渋谷にて、ハワード・ホークス監督特集より1941年「教授と美女(原題”Ball of fire”)」。脚本はビリー・ワイルダー&チャールズ・ブラケット、傑作輩出コンビでルビッチ「青髭八人目の妻」も「ニノチカ」も2人の脚本によるもの。
一軒家に長らく篭り、百科事典の編纂をする、専門分野の異なる8人の男。男はふんだんにいるけれど、女っ気はなく、身の回りの世話をする強面の女のみ。冒頭しばらく男たちが徐々に登場し、さりげなく紹介される時間が続いたので、早く…早くバーバラを!断固としてバーバラを要求します!とスクリーンに念を送る。
バーバラ・スタンウィック!「レディ・イヴ」で彼女を知って以来、めっきり好きな女優ランキング上位に。ああ、男たちはもう十分、バーバラのあの引き締まったウェストと足首を…と渇望した瞬間、ジャズクラブの場面に差し掛かり、バーバラ登場!しかもウェストと美脚をこれでもかと強調した、冷静に考えるとものすごく奇抜な、けれどバーバラが着ると不思議に説得力のある衣裳で。
「教授と美女」と「レディ・イヴ」は同じ1941年の映画らしい。「レディ・イヴ」で衣裳に釘付けになったのは露出の激しさゆえだった。身体を覆う面積は少なく、ウェストと脚を強調する衣裳はイーディス・ヘッドによるもの。「教授と美女」もそんな1941年のバーバラの身体の魅力をこれでもかと伝えるもので、映画衣裳に留まらず、すべからく衣服というのは、着る人の身体の最も美しいパーツをこれでもかと強調してこそ、衣服と着る人の双方が引き立つことを思い知らされる。
バーバラ・スタンウィック、絶世の美女というよりは親しみやすい、写真で見るとバーバラより造形的に優れた女優はたくさんいるけれど、動いた時にあれほどオーラを放つ女優は多くはない。ダンサー出身の身のこなし、生まれながらのフォルムに加え、日々の鍛錬が削ったであろう脂肪、際立たせたであろう筋、身体が動くたびに「活動」写真を観る歓びがもたらされる。
ゲイリー・クーパー演じる有能なれど世間知らずな言語学者が、生きたスラングの採取のため街に繰り出し、最もスラングの溢れる場所であるジャズクラブでバーバラを見初め、男どもの館に招待する。キラキラ衣裳のまま館に乱入したバーバラと8人の男たちの異種格闘技。バーバラが彼らにダンスを教え打ち解け始めると、館全体が身体性を初めて獲得したかのように色づく。
やがてスクリューボール・ロマンティック・コメディの定石として、女っ気のない人生を送ってきた教授(ゲイリー・クーパー)と、小賢しくも魅力的な美女(バーバラ)が惹かれあっていくのだけれど、この感じ、最近どこかで観た気がする…ふと考えてみれば「逃げ恥」ではないか。特に教授!未知の行動をとる前にまず本で調べる(=ググる)とか、キスの味を覚えた途端、大胆さが開花していくなどの細かな描写…1941年の平匡さん発見!
身長差のある2人ならではのウィット溢れるキスシーン、ヤムヤム(=キスのスラング)の後、「もう一回ヤムヤムをお願いします」とおねだりする教授の表情こそムズキュンの極み!大好きなバーバラに加え、ゲイリー・クーパーまで可愛い「教授と美女」、2016年は最高の映画で暮れた。
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