病院
フレデリック・ワイズマン特集にて。アテネフランセ、平日の夜というのに、半分以上客席は埋まっており、ワイズマンは人気だな。
http://www.athenee.net/culturalcenter/program/wi/wiseman_part1_2018.html
『病院』(1969年/84分)を鑑賞。
ニューヨーク市、ハーレムにある大きな都市病院、メトロポリタン病院の活動を緊急棟と外来患者診療所に焦点を当てて記録した作品。都市病院に運びこまれる様々な患者とその処置をする職員とのやりとりを通して都市が抱える多くの問題を浮き上がらせる。
今年の半分は予期せぬ病院通いが続いたため、私にとって身近な被写体として『病院』を観ることにした。自分に施された先端医療、改築したばかりのピカピカの病棟に圧倒されたばかりだったから、1969年の病院の医師や患者たちのワイルドな表情、まさに前時代的な設備や治療法、現在とのギャップに、50年かけて医療が格段に進歩してくれたことに感謝した。手術のシーンもあるけれど、モノクロだからか生々しさをさほど感じない。カラーだったら目を背けるはずで、血の赤って鮮烈な色なのだな。
「公園で渡された謎の薬を飲んだ」というアートスクールに通う若者が、薬と大量の水を摂取し、盛大に嘔吐する。あんな嘔吐はフィクションでは撮れない。フィクションが嫉妬するあまりにも映画的な嘔吐だった。しきりに死への恐怖を口にする若者→いなす医師→嘔吐する若者の無限ループ。死をそんなに恐れるならば「公園で渡された謎の薬」なんて飲んではいけない。そして、ただでさえ辛いのに、50年後の観客に人生最悪かもしれない一夜をいつまでも再生され目撃される若者が不憫。意識朦朧としたところをつぶさに撮られるなんて私なら拒否するし、もし勝手に撮られて公開されたら訴訟沙汰にするだろう。
ワイズマンの映画は被写体を遠くから俯瞰するショットで終わるものが時折あるけれど、『病院』も然りだった。あらゆるドラマが詰まった病院の前を、そんなことなど露知らず往来する車たち。私が入院した病院は近所で、しょっちゅうその前を通っていたけれど、病院に出入りする人はみんなドラマを抱えている、患者だけでなく、医師も、付き添いの人々もみんな、って、病院に入って出るまで想像していなかった。ラストシーン、素知らぬ顔で走り去る車のように。
麻酔
手術後の療養モードだけれど、待ったなしで仕事が忙しく現実に引き戻されている。しばらく入浴できないことと、しばらく激しい運動は制限ということ以外は普通の生活。
気分的には全身麻酔の強烈体験がまだ尾を引いており、あれは何やったんや…ほわぁぁぁ。麻酔前/後で人生の時間が分断されて、麻酔前の嗜好や記憶がフィルターがかかったように遠く感じる。好きだったものもすべて「過去の自分が好きだったもの」として一旦リセットされ、部屋にある本も洋服も、好きだった映画も、麻酔後の自分が改めてひとつひとつ手に取って選び直しているみたい。自分の部屋にいるのに、亡くなった親しい誰かの部屋にいて、あの人、こんな本、読んでたんだなぁ…って眺めてるみたい。戸惑うけれど、初めての感覚をしげしげ面白く味わっています。
今いちばんお話してみたい人は、私に麻酔を施してくださった麻酔医の方(副作用ゼロっぷりを考えると凄腕だったのでは)と、同じように全身麻酔を体験したことのある人かなぁ。リサーチ癖であれこれ調べてみたけれど、麻酔、特に全身麻酔、初めてトライした人の勇気よ…という気持ちが芽生えたので、あれってそんな物語だったような?と思い出し、有吉佐和子『華岡青洲の妻』を借りてきた。
世界最初の全身麻酔による乳癌手術に成功し、漢方から蘭医学への過渡期に新時代を開いた紀州の外科医華岡青洲。その不朽の業績の陰には、麻酔剤「通仙散」を完成させるために進んで自らを人体実験に捧げた妻と母とがあった――美談の裏にくりひろげられる、青洲の愛を争う二人の女の激越な葛藤を、封建社会における「家」と女とのつながりの中で浮彫りにした女流文学賞受賞の力作。
記憶が薄いけれど、遠い昔に映画版も観たように思う。大映映画!雷蔵さま!
『華岡青洲の妻』を読み終わったら、映画は観たけれど原作は未読仲間の泉鏡花『外科室』を読むつもり。日本麻酔文学巡り。
Cinema memo : 70mm
日比谷界隈の夏空。
フィルムセンター改め国立映画アーカイブで秋、『2001年宇宙の旅』70mm版特別上映があることを知った。
上映は10/6〜7、10/11〜14、チケットは9/1から発売。
http://www.nfaj.go.jp/exhibition/unesco2018/
映画の上映、フィルム→デジタルへの変遷があっけなく急速で、これまで当たり前に享受していたフィルム上映が、ずいぶん贅沢でノスタルジックなものとして扱われるようようになるまで、これまで自分がどんな素材で映画を観ていたかに無頓着だったけれど、70mmで映画を観たことって、果たしてあったのだろうか。初体験かもしれない。需要に対して上映回数が少ない気がするけれど、無事チケット買えるといいなぁ…。
復興する和光
銀座和光へお買い物へ。和光って昔は日・祝休み、18時閉店だった記憶があり、いつ行けばいいの?と思っていたけれど、日・祝営業、19時閉店になった。いろいろ事情はありましょうが、世の中にこんなにお店がある中、営業時間の短さこそ和光らしい高級感だったように思う。
友達に写真を送るために交差点で和光を撮っていると、小津の映画にこの交差点から、和光や教文館を撮ったショットがあったなあ、と思い出す。
帰宅してamazon primeでチェックしてみると、『東京物語』の紀子さんがアテンドする東京観光シーン、はとバスからの眺めで和光の時計台がばっちり映っていた。和光が映る小津映画、他にもあるはず。
それから1954年の『ゴジラ』で和光はゴジラに破壊されていたけれど、
2016年、『シン・ゴジラ』でもゴジラのビームで破壊されていた。破壊され、復興する和光、銀座のシンボル。
和光で買うものは決まっており、イタリア製の三つ折財布を購入。昨今、現金を使う機会が減ってきたせいか、長財布に変わりミニ財布が流行しており、いろんなブランドから発売されているけれど、和光の三つ折は30年以上のロングセラーで、私もちょこちょこ色違いで買い替え、7〜8年は使っている。長財布は私の小さな手には収まりが悪い。和光で昔から売っているのは、冠婚葬祭用の小さなバッグに似合うサイズとして、という用途かしらね。
今回は友人からのリクエストによりプレゼントとして購入(オンラインにもあります。和光にしては買いやすい価格。こちら)。
この財布は1階入ってすぐの場所で売られているため、その奥や2階以上の和光には足を踏み入れたことがない。何も用がなくても店内ぶらぶら歩ける雰囲気なのか否かは依然として未知の世界。
湯呑み
酷い暑さで、日中は外に出ると死に近づいてしまうから、街を歩くには夜が最適。鈍った身体を整えるべく根津と湯島の間あたりを歩いていたら、目に入ったもの。小津映画に登場する湯呑み。
近くに和食器フェア的な催しの張り紙もあったから、和食器屋なのかもしれない。何しろ夜だから店が閉まっており、謎は謎のまま。夜の街歩きは情報量が少なくて謎解きのよう。
この湯呑みは「東哉」という店のもので、京都が本店で、銀座にも店がある。小津安二郎は銀座の店の常連で、撮影の後、この店で人と待ち合わせて飲みに出かけたりしていたそう。
といった小津と「東哉」にまつわるエピソードは、10年以上前、愛読していた原田治さんのブログのポストで知った。
http://d.hatena.ne.jp/osamuharada/20061123
「東哉」はこちら
会えば小津の話をよくする友人とそのパートナーが、もし結婚するならお祝いにこの湯呑みを贈ろうと決めているけれど、結婚しないので「東哉」でまだ買い物をしたことはなく、眺めるだけ。
謎の店?の周りをぐるっと回ってみたら、小津の写真も貼ってあった。特に説明もなく。酷暑の夜の謎は深まる。
kate spadeの好きな映画
夜中3時に友人からのメッセージが届いて知ったkate spadeの自殺のニュースはショックだった。ゴシップ混じりの報道、my first kate spadeを語るSNS…に混じって、お姉さんが語ったという「家族みんなでなんとか助けようとしたけれど、彼女はブランドのイメージ『ハッピー・ゴー・ラッキー』を崩したくなくて拒否し続けたの」という言葉でさらに悲しい気持ちになった。
以前読んだ、二階堂奥歯『八本脚の蝶』(最後に自殺すると書き残し、自殺した女性編集者のweb日記を書籍化したもの。現在も残る日記はこちら)のあとがきに、生前親交のあった女性作家が、
くだらない信仰かもしれないが、私には『着るものに興味のある女の子はそうそう簡単に自分で死んだりなんかしない』という信仰がある。だから虚をつかれた感じがあった。
と綴る一説があり、なんてくだらない信仰!着るものに興味があっても、好きなものがたくさんあっても、簡単に自分で死んだりする、ことはある!と怒りに似た強い反感を抱いたことを、kate spadeの死をめぐる反応で不意に思い出した。
日本語でも翻訳されているkate spadeの著書『STYLE』は、スタイルとは流行でも骨格診断の結果を愚直に守ることでもなく、洋服だけのことでもなくて、美術や音楽、好きな季節、好きな香り、同じぐらい嫌いな物事などで形成されていることが、kate spadeらしいカラフルさで語られた一冊。
好きな映画についても書かれており、私の想像するkate spadeらしさを裏切らない映画の嗜好。スクリューボールコメディーの名手、プレストン・スタージェスも「尊敬する映画監督」に名前を連ねていて嬉しい。スタージェスの描く弾けるような女性、確かにすごくkate spadeの世界っぽい。
「スタイルのある映画」として紹介されていた『泳ぐひと』(フランク・ペリー監督/1968年)は、この本がきっかけで観た1本。本の中でkate spadeは言及していないけれど、60年代のアメリカ、富裕層の邸宅のプールサイドで催されるパーティーに集う人々のファッションが、今季のkate spadeの新作です、と言われても納得するぐらいkate spadeそのものだった。
『泳ぐひと』、奇妙な映画だけれど、不思議と癖になる…
ブランド・kate spadeと仕事でかかわった時期があり、定義しづらい「ブランド」という言葉を、なんとなくこういうことかな?と朧げに実感した初めての出来事だった。「らしい・らしくない」を突き詰め細部に至るまで徹底すること。一時の感情やムードに流されないこと。Cinema Studio 28 Tokyoを作って続けるためのあらゆる判断に、じわじわ教えが効いている。kate spadeがどうか天国で、ハッピー・ゴー・ラッキーに過ごせていますように。
週末
金曜(映画の日!)の夜、公開ほやほやの『レディ・バード』をシャンテで
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土曜は家のスクリーンで小津『秋日和』をDVDで観てから
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そのままドラマ『おっさんずラブ』最終回を観て
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日曜はTOHOシネマズ日比谷で是枝監督『万引き家族』を先行上映で!
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千駄ヶ谷に移動してmoonbow cinemaでスパイク・リー『Do The Right Thing』を爆音で!
と、週末を休息に使わなかったので、月曜、すでにエネルギー切れ気味である。久しぶりに映画を立て続けに観た。まだ月曜か、金曜までたどり着けるかしら。『秋日和』を観終わってから『おっさんずラブ』が始まるまで30分もなかったので、女性が20代半ばになると婚期を逃さないか周りにざわざわ心配される1960年から、好きになるのに性別も年齢も関係ないよ、その人が好きなだけで、の2018年まで58年の月日か…長いのか短いのか…という気分に。
隙間時間に「ペンギンサッカー大会」の動画も5回ほどリピート。観ているうちになんかもうどうでもええわ、暑いし。って脱力してくるのでペンギンは偉大。
https://www.houdoukyoku.jp/clips/CONN00393411
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