無名

 

ヒューマントラスト有楽町で。トニ―・レオン主演『無名』を観た。

 

1941年、上海。日本の傀儡である汪兆銘政権のもとで、フーは諜報機関に所属している。彼は、部下のイエと共に汪兆銘政権に忠誠を誓い、敵対する中国共産党勢力と熾烈なスパイ戦を繰り広げる。

 

あらすじだけ読むと『ラスト、コーション』(2007年/アン・リー監督)を連想し、当時の上海が舞台なら美術や衣裳も楽しみと思っていたけれど、何人か女性は登場するものの基本は男たちの物語で、クリストファー・ノーラン的に時系列を自在に入れ替える編集、1930〜40年代の共産党国民党・日本軍の歴史理解、言語は普通話・上海語・北京語・日本語が混じり、ひとりの人物がどの軍に属しているか把握したかと思えば寝返り、日本人だけではなく中国人も日本語を話し…と、人物の印象も関係性も刻々と変わる、そのスリリングな変化を楽しむ映画で、予習とは言わずとも「汪兆銘政権」の歴史はwikipediaで読んでおくほうが良いかもしれない。

 

一度観ただけの私は完全に物語を掴んだとは思えず(最近そんな映画が多いですね…)、けれど最後の数分まで辿り着くと『無名』の魅力をきちんと浴びた気持ちになった。理解は脇に置いてトニ―・レオンともう一人、主役級の若い俳優ワン・イーボー(王一博)の存在感が時間の経過とともにスクリーンの中央を支配して離さない。新しいスターの誕生を目の当たりにした!彼こそ新星!と画面のどこにいても目を奪われてしまう。久しぶりに観たな、映画の中であんなにキラキラした人を。キラキラした役でもないのに…。

 

ワン・イーボーはアイドルグループのメンバーとしてデビューし歌、ダンス、ラップもできるらしい。『無名』の最後には彼自身が歌う物憂げなメロディーの主題歌『無名』が流れ、歌も上手い。私にとって眉目秀麗というわけではないけれど、スター誕生の清々しい気持ちを感じさせてくれてありがとう、の気持ちでトニ―・レオンの映画を観たというのにトニ―・レオンの印象が薄いまま映画館を出た。時間が経った後に、もう一度観たい。

 

https://unpfilm.com/mumei/

 

 

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