麻酔
手術後の療養モードだけれど、待ったなしで仕事が忙しく現実に引き戻されている。しばらく入浴できないことと、しばらく激しい運動は制限ということ以外は普通の生活。
気分的には全身麻酔の強烈体験がまだ尾を引いており、あれは何やったんや…ほわぁぁぁ。麻酔前/後で人生の時間が分断されて、麻酔前の嗜好や記憶がフィルターがかかったように遠く感じる。好きだったものもすべて「過去の自分が好きだったもの」として一旦リセットされ、部屋にある本も洋服も、好きだった映画も、麻酔後の自分が改めてひとつひとつ手に取って選び直しているみたい。自分の部屋にいるのに、亡くなった親しい誰かの部屋にいて、あの人、こんな本、読んでたんだなぁ…って眺めてるみたい。戸惑うけれど、初めての感覚をしげしげ面白く味わっています。
今いちばんお話してみたい人は、私に麻酔を施してくださった麻酔医の方(副作用ゼロっぷりを考えると凄腕だったのでは)と、同じように全身麻酔を体験したことのある人かなぁ。リサーチ癖であれこれ調べてみたけれど、麻酔、特に全身麻酔、初めてトライした人の勇気よ…という気持ちが芽生えたので、あれってそんな物語だったような?と思い出し、有吉佐和子『華岡青洲の妻』を借りてきた。
世界最初の全身麻酔による乳癌手術に成功し、漢方から蘭医学への過渡期に新時代を開いた紀州の外科医華岡青洲。その不朽の業績の陰には、麻酔剤「通仙散」を完成させるために進んで自らを人体実験に捧げた妻と母とがあった――美談の裏にくりひろげられる、青洲の愛を争う二人の女の激越な葛藤を、封建社会における「家」と女とのつながりの中で浮彫りにした女流文学賞受賞の力作。
記憶が薄いけれど、遠い昔に映画版も観たように思う。大映映画!雷蔵さま!
『華岡青洲の妻』を読み終わったら、映画は観たけれど原作は未読仲間の泉鏡花『外科室』を読むつもり。日本麻酔文学巡り。
解説
読みかけていた『ハッピーアワー論』は酷暑で頭がまわらず進まず、予約待ちの人がいたのでひとまあず返却、張愛玲『傾城の恋/封鎖』を借りてきた。
張愛玲、訳書がなかなか出版されず、台湾で原書を買ったことは28の記事で書きました。上海の作家。
http://cinemastudio28.tokyo/cinemaontheplanet_007_part2
けれど、最近たて続けに訳書が刊行されている。
『中国が愛を知ったころ』
https://www.iwanami.co.jp/book/b313851.html
と、この『傾城の恋/封鎖』
http://www.kotensinyaku.jp/books/book276.html
酷暑で頭がまわらないので、何故か末尾の解説から読み始めると、張愛玲の人生、幼少期からなんとまぁ波乱万丈で、こんな小説の中にいるような家で育った理知的な少女は、作家になるべくしてなったと言えましょう。没落官僚の贅沢で退廃的な暮らし。父と継母の吸う阿片の煙が立ち込める瀟洒な家。
中国、阿片の煙、没落…とキーワードが揃うと反射的に『さらば、わが愛」のレスリーを思い出したりして。
思わず動画を探してみたりするので、張愛玲、なかなか小説部分に辿り着けない。
Cinema memo : 9月
Amazon Prime Day、いつか買おうと思っていたワイヤレスイヤフォン(線がないだけで格段に快適なことよ。もっと早く買えばよかった)と、『寝ても覚めても』の文庫を買った。
図書館で借りて読んでから1年経過し、よい具合に物語を忘れかけているので、映画を観てから再読しよう。
濱口監督の特集上映もタイムテーブルが発表された。
http://netemosametemo.jp/hamaguchi/
今回上映されるものは一通り観たけれど、3回目の『親密さ』を観たいなぁ。初めての濱口映画、何がおすすめ?と質問されたりするのですが、1本目は『PASSION』が良いのでは。何と言っても映画の長さが普通です。115分。気に入ったら『ハッピーアワー』 317分、『親密さ』255分に手を伸ばしてみる。そこまで観たら、濱…と目にするだけで反応する身体になっていることでしょう。
マチネの終わりに
紫陽花の退色。とはいってもこれは2年前の写真で、今年はあまりの暑さに外に出る気力を失っておる。極限まで冷房の効いた室内でも、気がつくとぐっしょり汗をかいていて驚く。夏を越えられるだろうか。
『マチネの終わりに』、小説(こちら)を読み終わり、映画になりそうな物語だなぁ、と考えていたら映画化のニュース(こちら)。私の脳内キャスティングでは、
蒔野 : ディーン・フジオカ
洋子 : 中谷美紀
で、この2人の浮世離れした雰囲気がぴったり!と読み進めていたので、現実のキャスティングの俳優年齢が妄想より年上だと思ったけれど、小説でも冒頭と最後では6年の年月が流れ、6年経った後に照準を合わせるなら年齢は福山雅治&石田ゆり子でしっくりくるかもしれない。石田ゆり子、ちょっとイメージ違うけれど。
三谷早苗の配役が楽しみです。
kate spadeの好きな映画
夜中3時に友人からのメッセージが届いて知ったkate spadeの自殺のニュースはショックだった。ゴシップ混じりの報道、my first kate spadeを語るSNS…に混じって、お姉さんが語ったという「家族みんなでなんとか助けようとしたけれど、彼女はブランドのイメージ『ハッピー・ゴー・ラッキー』を崩したくなくて拒否し続けたの」という言葉でさらに悲しい気持ちになった。
以前読んだ、二階堂奥歯『八本脚の蝶』(最後に自殺すると書き残し、自殺した女性編集者のweb日記を書籍化したもの。現在も残る日記はこちら)のあとがきに、生前親交のあった女性作家が、
くだらない信仰かもしれないが、私には『着るものに興味のある女の子はそうそう簡単に自分で死んだりなんかしない』という信仰がある。だから虚をつかれた感じがあった。
と綴る一説があり、なんてくだらない信仰!着るものに興味があっても、好きなものがたくさんあっても、簡単に自分で死んだりする、ことはある!と怒りに似た強い反感を抱いたことを、kate spadeの死をめぐる反応で不意に思い出した。
日本語でも翻訳されているkate spadeの著書『STYLE』は、スタイルとは流行でも骨格診断の結果を愚直に守ることでもなく、洋服だけのことでもなくて、美術や音楽、好きな季節、好きな香り、同じぐらい嫌いな物事などで形成されていることが、kate spadeらしいカラフルさで語られた一冊。
好きな映画についても書かれており、私の想像するkate spadeらしさを裏切らない映画の嗜好。スクリューボールコメディーの名手、プレストン・スタージェスも「尊敬する映画監督」に名前を連ねていて嬉しい。スタージェスの描く弾けるような女性、確かにすごくkate spadeの世界っぽい。
「スタイルのある映画」として紹介されていた『泳ぐひと』(フランク・ペリー監督/1968年)は、この本がきっかけで観た1本。本の中でkate spadeは言及していないけれど、60年代のアメリカ、富裕層の邸宅のプールサイドで催されるパーティーに集う人々のファッションが、今季のkate spadeの新作です、と言われても納得するぐらいkate spadeそのものだった。
『泳ぐひと』、奇妙な映画だけれど、不思議と癖になる…
ブランド・kate spadeと仕事でかかわった時期があり、定義しづらい「ブランド」という言葉を、なんとなくこういうことかな?と朧げに実感した初めての出来事だった。「らしい・らしくない」を突き詰め細部に至るまで徹底すること。一時の感情やムードに流されないこと。Cinema Studio 28 Tokyoを作って続けるためのあらゆる判断に、じわじわ教えが効いている。kate spadeがどうか天国で、ハッピー・ゴー・ラッキーに過ごせていますように。
私の恋人
上田岳弘『私の恋人』読了。手にとったきっかけは、青山ブックセンター本店に平積みだったからというシンプルな理由だけれど、そんなきっかけがあって良かった。
あらすじは、
一人目は恐るべき正確さで世界の未来図を洞窟の壁に刻んだクロマニョン人。二人目は大戦中、収容所で絶命したユダヤ人。いずれも理想の女性を胸に描きつつ34年で終えた生を引き継いで、平成日本を生きる三人目の私、井上由祐は35歳を過ぎた今、美貌のキャロライン・ホプキンスに出会う。この女が愛おしい私の恋人なのだろうか。10万年の時空を超えて動き出す空前の恋物語。三島賞受賞作。
あらすじを読んでもどんな小説なのかわからなさすぎるけれど、読了してみると、あらすじはこうとしか書けないよなぁ、と思う。
http://www.shinchosha.co.jp/book/121261/
クロマニョン人、ユダヤ人、日本人のそれぞれの「私」の中に、過去を生きた「私」が存在しているのが面白くもややこしく、時制があちこち移動する。強制収容所での2人目の「私」を描写したかと思えば、次の段落では歌舞伎町のHUBのハッピーアワーで飲む3人目の「私」が描写される、その落差に振り回されることも徐々に気持ち良くなってくる。壮大な物語が叙情を排除した淡々とした筆致で綴られるのに、読了して本を閉じて残った気持ちを観察してみると、エモーションとしか呼べない何か。私好みだった。
映画化するなら監督はドゥニ・ヴィルヌーヴの妄想は最後まで変わらなかったけれど、クリストファー・ノーランもいい。日本人監督は思い浮かばず。高橋一生の愛読書らしく、主役を演じて「あれは私が一人目のクロマニョン人だった頃のことだ」とか言いたいと語ったそうだけれど、確かに主人公に年齢も雰囲気もぴったりだと思う。
今日から平野啓一郎『ある男』(文學界2018年6月号に掲載)を読み始めた。これまで読んだことのない作家を読みたい気分。長らく読書の時間がとれないことが悩みだったけれど、SNSとしっかり距離を置いてみたら読書に集中できるようになったかわりに、しょっちゅう携帯を携帯せず家を出てしまう新たな問題が生じている。
都市が多様性を持つための条件
TOHOシネマズ日比谷、日曜に初めて行った。日比谷公園の緑を見下ろす窓辺がある。
昨日更新した小栗さんの連載『One movie , One book』、
ジェイン・ジェイコブズの書籍は未読(現物を見せていただいたら、なかなかの分厚さだった)ながら、原稿をフィックスするためにあれこれ調べ物していたら、wikiで読むだけでも面白かった。
都市が多様性を持つための条件(The conditions for city diversity)として、ジェイコブスは次の4つを指摘した。
都市の街路や地区で,溢れんばかりの多様性を生成するためには,4つの条件が必要不可欠である。
1. 地区,そして,地区内部の可能な限り多くの場所において,主要な用途が2つ以上,望ましくは3つ以上存在しなければならない。そして,人々が異なる時間帯に外に出たり,異なる目的である場所にとどまったりすると同時に,人々が多くの施設を共通に利用できることを保証していなければならない。
2. 街区のほとんどが,短くなければならない。つまり,街路が頻繁に利用され,角を曲がる機会が頻繁に生じていなければならない。
3. 地区は,年代や状態の異なる様々な建物が混ざり合っていなければならない。古い建物が適切な割合で存在することで,建物がもたらす経済的な収益が多様でなければならない。この混ざり合いは,非常にきめ細かくなされていなければならない。
4. 目的がなんであるにせよ,人々が十分に高密度に集積していなければならない。これには,居住のために人々が高密度に集積していることも含まれる。 (中略)
この4つの条件は,どれかひとつが欠けても有効に機能しない。都市的多様性が生成するためには,4つの条件すべてが必要である。
— 著:ジェイン・ジェイコブズ、訳:中村仁 ”The Death and Life of Great American Cities”(Random House, 1961, and Vintage, 1992, pp.150-151)
数年前に北京に久しぶりに行き、私が慣れ親しんだかつての北京の面影がなく悲しい気分になったのは、「3.地区は,年代や状態の異なる様々な建物が混ざり合っていなければならない」の条件を満たさなくなったピカピカした一画を歩いた時だったな。東京の現在暮らしているエリアをとても気に入っているけれど、4つの条件すべて満たしている。多様性を持つ街が好きというわけではないけれど、居心地の良さを紐解いてみると4つの条件を満たしている、と気づく。
ジェイン・ジェイコブズに関するドキュメンタリー映画も公開中です。ご覧になった小栗さんによると、映画についてはいろいろ言いたいことがあるようだったけれど、ご興味の方は書籍、映画、どちらも是非どうぞ。私は、本から読んでみようかな。
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