夏の日の歌
土曜の東京は風がつめたくて、ずっと外にいたら凍えてしまったけれど、新しい季節のために軽やかな素材のワンピースを手に入れたら、次の季節は春と信じられ、その次は大好きな夏と思い至るとSpotifyを立ち上げ『夏の日の歌』を聴いた。
広場でのお祭りで赤いスパンコールのドレスを着た双子姉妹が歌い踊るこのシャンソンは、歌詞も素晴らしい(こちら)。踊るような気分でiPhoneを眺めていると、ミシェル・ルグランの訃報が流れてきて驚く。
生で聴くチャンスを逃し続けてしまった。機会はたくさんあったはず。会いたい誰かにはさっさと会いに行かなければ。これから先もずっと人生に寄り添ってくれるであろう素敵な音楽をありがとうございました。
ジャン・ヴィゴ短編・中編
イメージフォーラムにて。ジャン・ヴィゴ特集も終盤。短編・中編3本セット上映へ。
『ニースについて』(1930年/21分)
http://www.ivc-tokyo.co.jp/vigo/#page11
ヴィゴの監督第1作となる短編作品。南仏ニースの街並み、バカンスに興じる富裕層の生態と庶民とを交差させ、エネルギッシュに活写する映像スケッチ。
ジャン・ヴィゴのニース紀行。海辺の椅子に優雅に腰掛ける富裕層と踊りまくる庶民。若い女性が着せ替え人形のごとく次々披露する30年代らしい装いにうっとりしていたら、最後にヌードになったので意表をつかれる。今週、月曜シネサロンで観た記録映画での街の切り取り方と比較すると、記録映画とフィクションの目的の違いがあるにせよ、ジャン・ヴィゴの視点は「作家性」とはこういうもの、の見本のように思われた。
『競泳選手ジャン・タリス』(1931年/10分)
http://www.ivc-tokyo.co.jp/vigo/#page10
監督第2作。1931年、400メートル自由形で世界新記録を樹立した水泳チャンピオン、ジャン・タリスの強さの秘訣を分析するスポーツ・ドキュメンタリー。
ジャン・タリスの水泳教室。目が歓ぶ10分間。水中の微笑みと、ずっと水着姿だったのに最後にクラシカルな装いに着替え去ってゆくジャック・タリスにギャップ萌え。ジャン・ヴィゴは動くものの魅力を捉えるのがとにかく上手。「活動」写真の申し子。
『新学期 操行ゼロ』(1933年/49分)
http://www.ivc-tokyo.co.jp/vigo/#page9
監督第3作。ヴィゴが描く小さな革命。猛烈なアナーキズムと自由で詩情に満ちた映像表現。そのスキャンダラスな内容から12年近く公開禁止となった。
革命の夜、寄宿部屋で旗を掲げ、声明を読み上げ、塊となって動く少年たちの姿がそのまま油絵になりそうで、フランス革命から現在のmouvement ‘Gilets jaunes’(黄色いベスト運動)まで脈々と流れるレジスタンスの血!と、妙に圧倒された。古いフランス映画には時々この学校で学びたいと思わせる学校が登場するけれど、現時点での学びたい学校Best3は
・ジャック・タチ『ぼくの伯父さんの授業』の学校
・トリュフォー『思春期』の学校
・ジャン・ヴィゴ『新学期 操行ゼロ』の学校
であることを、ここに発表しておきます。勉強する気ゼロ!
TIFF Studio
今週は、ペンギンって書かれたメールが飛び交っており楽しい。
去年、早起き生活は定着したけれど、早寝は難しかったので、今年は早く寝る訓練中。日記も夜の更新ではなく、隙間時間に書いて、毎日定時に自動更新する所存。しばらく12時更新でテスト。映画好きな人は映画の上映時間にスケジュールが振り回されがちだけれど、健康的に暮らしたいものですね。
TIFF Studioという東京国際映画祭の番組配信が始まると前日にtweetで知ったのでGoogleカレンダーに「TIFF Studio」と書いておき、待機。
まもなく24(木)20時~!
TIFF Studio 第1回放送!
ゲストは公開中『ひかりの歌』@lyssupport の杉田協士@kyoshisugita 監督!
MCの矢田部吉彦@yoshiyatabe PDとトークします!
このTwitterアカウントから生放送です!
お楽しみに!#TIFFStudio#TIFFスタジオ— #東京国際映画祭 #TIFFJP (@tiff_site) 2019年1月24日
『ひかりの歌』を観る予定を立てていたところで、監督のお話が聞けてナイスタイミング。観たばかりの『迫り来る嵐』にも触れられていた。サフディ兄弟を知ったのも東京国際映画祭のグランプリ上映だった。映画祭でかからなければ知ることのなかった映画とたくさん出会えて、とても感謝しています。
TIFF Studio、20時からと開始が早く、20分ほどでサクッと終わるのも朝型に優しくて良い。今後は隔週、木曜20時配信の予定だけれど、オープン記念?に来週も配信するそうです。
— #東京国際映画祭 #TIFFJP (@tiff_site) 2019年1月24日
【本日更新】One movie, One book 第4回 お早よう、世の中
本日更新しました。
原作本も映画関連本も登場しない、映画と本のお話。小栗誠史さん連載「One movie, One book」第4回は「お早よう、世の中」。小津映画の中でもとりわけ人気の高い1本から展開する思考。
東京の住人にはお馴染みのピンクの壁の建物も、文中に登場する建築家によるもの。この写真、どうやって撮ったんだろう?と不思議に思った人は、いつか小栗さんに質問してみてください。あらためてピンクを眺めてみると、早春気分が高揚しました。
オリンピック準備モード高まる東京。消えゆく景色を憂う人も、まだ見ぬ未来を心待ちにする人も、遠くの街のあなたも。お楽しみいただければ幸いです。
人々の生活と風景
大手町駅定点観測。東京ってほんと、永遠に完成しない街だな。
月曜シネサロンのテーマが「東京150年 人々の生活と風景」で、最後の1本『佃島』を観ながら、この時代の佃島界隈、映画で観たことがあるぞ…と記憶を辿っていた。
若尾文子主演『やっちゃ場の女』は築地界隈が舞台だけれど、お父さんが妾と暮らすのが佃島で、映画に登場していた。1962年の映画。
『やっちゃ場の女』と同時期に若尾文子映画祭で観た『東京おにぎり娘』、「私の家は新橋駅から2~3分…」のナレーションから始まる、1961年当時の東京がカラーで映される楽しい映画。
1961年の東京といえば、岡田茉莉子主演『河口』も、銀座界隈が映されている。水辺といえば『女経』の若尾文子パートは、水上生活を送る女性の物語だった。あれは1960年の隅田川。思い出すのは60年代前半の東京が撮られた映画ばかり。オリンピックに向け活気がありながら、映された景色のほとんどは現存しない不思議さもある。
記録映画『佃島』を観ながら、古い貴重な記録映像と親切なナレーションがあるだけで、こんなに興味深く観られるのだから、ロケで撮られたこれらの映画って、古い街並みの記録でもあり、華やかな女優さんが当時の東京を馳けまわるフィクションでもあり、図らずしてずいぶん贅沢な体験を重ねていたのだな、としみじみ思った。
月曜シネサロン&トーク
東京国際フォーラムにて。月曜シネサロン&トークというイベント、以前から気になりつつ逃していたけれど、デザイナーあずささんが申し込んだ!と教えてくださったので今回は逃さなかった。
「月曜シネサロン&トーク」は国立映画アーカイブ(旧 東京国立近代美術館フィルムセンター)所蔵の貴重な文化記録映画を 講師の解説付きで上映する映画会です。2018年(平成30年)は東京府開設から150年の節目を記念し江戸から近現代に向かう都市や 人々の生活風景を通じて東京の魅力再発見につながる作品を全4回に渡って上映します。
今回は第3回。上映されたのは『オリンピックの街』(1964年/荻野茂二)、『日本橋』(1964年/荻野茂二)、『佃島』(1964年/浮田遊兒)の3本。1964年は東京オリンピックの年。北京がオリンピックでがらりと顔を変えたように、1964年を目がけて大工事が施され、江戸から遠く離れて、という景色に変貌しつつある東京の記録。
『オリンピックの街』はオリンピック開会式の1週間前に、開会式・閉会式のリハーサルを、高校生が各国選手役を代わりに演じて行った日が記録されている。そんな日があったことを今まで知らなかったけれど、考えてみればあれだけ大掛かりなイベント、当たり前にリハーサルするよね。ランナーによる聖火点灯もリハーサルしたため、本番の点灯は2度目だったとか。市川崑の記録映画で美しいシーンとして記録に残っている、風船飛ばしもリハーサルがなされていた。この映画は最初から最後まで同じトーンの和風の音楽が淡々と流れており、気がふれそうになり、映像に適切な音楽が選ばれることの重要性を逆説的に考えた。
『日本橋』はサイレント・モノクロ映像。日本橋に高速道路を建設する途中が映されていた。何かをぼたぼた水に落としながら進む工事のワイルドさに驚き。60年代前半のご婦人の服装、キュッとヒールを履いてハンドバッグを持って、クラシカルで素敵。
『佃島』はナレーションがつき、音楽も工夫されていて3本の中で最もストレスなく鑑賞。映像はそのままでも多くを語るけれど、あれは何?と生じた疑問を、ナレーションが適切にガイドしてくれることの安心感よ。
資料が最初に配られ、スクリーンに資料を投影してのトーク→上映→トーク→上映の形式でのイベントで、トークは都市形成史家の岡本哲志さん。資料もトークも独特の雰囲気があり(映像の作家性にはまったく興味がない様子で、あくまで都市の変遷にフォーカスした内容)、後から調べてみれば『ブラタモリ』に何度も登場されたらしい。資料は編集者が見れば校正したくてウズウズするトーンで纏められていたけれど、あえてあのまま、というのが味のようにも思われた。
2020年オリンピックのピンバッジをお土産にいただいて、500円。大充実!
迫り来る嵐
ヒューマントラストシネマ有楽町で。中国映画『迫り来る嵐』。
1990年代。ユィ・グオウェイは、中国の小さな町の古い国営工場で保安部の警備員をしており、泥棒検挙で実績を上げている。近所で若い女性の連続殺人事件が起きると、刑事気取りで首を突っ込み始める。そしてある日犠牲者のひとりに似ている女性に出会い接近するが、事態は思わぬ方向に進んでいく…。
終始興奮しながら観たけれど、私自身の記憶と紐付いた興奮なので、この映画が面白いのかどうかはわからない。『迫り来る嵐』は1997年と2008年の中国の地方都市が舞台。それぞれ香港返還(1997年)、北京オリンピック(2008年)と、中国の街や人の外側から内側まで作り変えるきっかけになる転換点の年が選ばれて描かれている。
興奮したのは、私が中国に暮らし始めたのは98年、まさしくこの映画に描かれた頃で、地方都市の鉄鋼工場に働く中国人の男と、首都北京に暮らす外国人の私の生活はまったく同じではないけれど、北京においても路上で、あるいはバスの車窓から眺める風景、人々の服装の色、表情はこの映画に映されたそのままだった。
90年代後半の北京は、
・電化製品が急速に普及し、電気の供給が追いつかず、停電が日常茶飯事
・みんな自転車で移動。大きな荷物も工夫して自転車で運ぶアクロバティックな人々をよく見かけた
・スーパーマーケットが登場して間もなく、まだ珍しい存在。野菜や果物は八百屋で買う。定価の概念はなく価格交渉必須
・タクシーが安いのでしょっちゅう乗ったけれど、気を抜くと黒タクに遭遇してしまうので気が抜けない
・道路は舗装されていないエリアが多く、靴が土埃で白くなる
・華美な服装の人がいない。髪に寝癖がついている。化粧をするのは水商売の女だけ
・デパートやスーパーマーケットでは偽札チェッカーが必ずあった
・細胞分裂するように街が変わる。先週食事したレストランが、今週は跡形もないなんてしょっちゅう。壊しては作り、作っては壊しの繰り返し
など、日常生活を送るために必要なエネルギーが日本の比ではない、というワイルドな環境で、あの時代の中国で人々と知り合い、言葉を覚え、楽しく暮らせたのだから、私はきっとどこでも生きていける(拳を固めながら)。
帰国した後も数年おきに中国に行くたびに、空港の建物が変わり、人々の髪の寝癖が消え、友人は華やかな服を着て化粧をするようになり、自動車が普及し、スマホを持ち、WeChatを駆使し、現金を使わなくなり、空気は悪くなり、いつも渋滞で、街はすっかり顔を変えた。素朴だったあの子が、整形美人になったような戸惑い。そして確かに、オリンピックを境に中国はガラリと変わった。北京は、なのかもしれないけれど。
目に見える部分だけでこれだけ変わるということは、目に見えない部分も同じく変わっているはずで、何も娯楽がなかった北京で、おしゃべりするだけでいくらでも時間を潰せた素朴な友人が、すっかりスマホやブランドバッグにご執心な様子に軽くショックも受けるけれど、彼らが望んだ便利さや発展を手に入れられたのならば良かった、とも思う。短期間で一気に成し遂げ、平然と変化の恩恵を享受する逞しさを改めて尊敬もする。それでも時折、かつて彼らが着ていた服は、自転車はどうなったのだろう、彼らはいつそれを捨てたのだろう、どんな気持ちで、とふと考える。懐かしむ感情を嘲笑うように、私が過ごした98年の北京はもう跡形もない。
しかし懐かしい景色は『迫り来る嵐』の中にあった。監督はロケハンの途中、舞台となる鉄鋼工場を見つけ、あまりに90年代の面影を残していることに驚いたらしい。私も驚いた。探したら残ってるのだね、さすがに中国は広い。
主人公の男は、自分がいる場所で幸せになりたかっただけなのだろう。いい仕事をして褒められ、みんなに尊敬される。「自分がいる場所」がいつまでも続くとは限らず、「幸せ」の概念はあっという間に更新されて、いつまでも「みんな」でいられるわけもない。1997年から2008年の中国の11年とはそんな年月だったということを、映画の形に整えて私に改めて納得させてくれた、『迫り来る嵐』はそんな映画だった。
監督インタビューはこちら「時代の変化が嵐のように襲ってきた」
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