リズム
季刊の花椿、秋号を青山ブックセンターでもらってきたけれど、夏号も勇んでもらいに行ったのに、3ヶ月経っても読み切っていない。装苑が隔月刊になるというニュースがあった。これだけ読むものが溢れている中、「新しいこと」ってどれぐらいのペースで必要なのだろう。
花椿はリズム特集。ふわっとした言葉をそれぞれの視点に引き寄せてふわっと解釈した文章が多くて面白い。「リズムと映画」についてのページもあり、映画はストーリー(脚本)、「盛り上がる場面」と「静かな場面」、リズムのない映画は魅力に欠ける。けれど脚本だけがリズムを生み出しているわけでもなくて…と、ロジカルすぎないふわっとした切り口で選ばれる5本が新鮮だった。ちょっと禅問答みたい。
しけしけ
台北。路上に置かれたテーブルと椅子、そして置き忘れられた小鍋……キュート!ちっちゃい!
何故かこんな、暑い季節、暑い国、路上で食事するシチュエーション、その風景にグッとくることが多い。映画を観ていても、海辺のヴァカンス、外にテーブルを出して食事…という場面ばかり目について、ロメール好きの理由の7割はそれなのではないかと思う。冬生まれなのに夏好きだし、前世は暑い国で暮らしていたのかな…。
映画化されると知って手にとった柴崎友香の小説「寝ても覚めても」がとても良く、余韻に浸りながら他の柴崎本も…と検索してみて、映画好きの柴崎さんが、好きな女優について書いたエッセイがあると知り「見とれていたい わたしのアイドルたち」という本(こちら)を読み始めた。今朝の通勤電車で読み始めただけなのに、もう半分読んでしまったぐらい、すらすら読める気楽なエッセイ。
柴崎さんの女優の好みは、私と恐ろしく似ていて、語り口も関西弁まじりの緩さがあるし、こんな人が近くにいたら夜通し喋り続けるほどの友達になるか、好みが似すぎていてもはや喋ることもなく友達にすらならないか、どっちかだ!と思いながら読んでいる。
そして、今日一番の驚きは、「しけしけ」という言葉が文中に登場したこと!「しけしけ」って、高校時代、クラスの男子が流行らせて、教室内のそこかしこで、しけしけしけしけ言ってた記憶がある。私はあの男子が開発したオリジナルワードだと今日まで勘違いしていたけれど、柴崎さん(大阪出身)が使っているということは汎用的な関西弁っぽい…!京都市左京区の某高校の某クラスの私の半径数メートル内だけで通じていた言葉だと思いこみ、開発したあの男子を危うく尊敬するところだった。
「しけしけ」とは「冴えない」「しょうもない」的なニュアンスだったはず。柴崎さんのツイン・ピークスに登場する女の子たちについて書いたエッセイでは「女の子がかわいい割になんで男はしけているんだろう、と思った。」「かわいい女の子がいっぱい出てくる話だなあ、と思った。その割に男がしけしけだと思った。」等の箇所で登場する。久しく耳にしていないので、この一節を読んだ瞬間、心が秒速で高校の教室にワープ。そしてニューシリーズが始まった?ツイン・ピークス、最初から再見したい。ずいぶんな言われようの、しけしけな男たちを確認するためにも。
memo : 書籍
メモ。8月にエドワード・ヤン本が出版されるとのこと。
手元にある北京で買ったエドワード・ヤン本が、各作品の製作時のエピソードをたっぷり盛り込んだ素晴らしい内容だから、翻訳されるなら日本語版も欲しいけれど、内容を読む限り、日本の執筆陣たちの論考を集めたものらしい。
http://filmart.co.jp/books/filmmaker/edward-yang/
最近の傾向として、自分が好きな映画について、カジュアルなものにせよ、フォーマルなものにせよ、誰かの感想や論考を読むことについて、興味を失ってきている。ロメール「冬物語」のフェリシーよろしく「私という存在は宇宙に一人で 自分で行動し 何物にも流されてはいけないと考えた」という気分。読むなら、製作サイドのエピソードなど、事実を積み上げたものだけ読みたい。けれど、野崎歓さんの文章はちょっと読みたいし、パンフレットにあった濱口竜介監督の文章も良かった…から、ただし書く人による、ということかしら。
写真は台北・牯嶺街で撮った、古切手・古紙幣屋さんのディスプレイ。
誠品書店 / 張愛玲
台北最終日。晴れた!朝、空港に移動するまで数時間あり、2日目に行って気に入った西門の「蜂大珈琲」でモーニング。今回、何度訪れたかわからない中山堂広場を抜け、台北郵局(北門郵便局)で明信片(ポストカード)と封書を送る。
郵便料金の相場がわからなくて、どれも国際郵便だから…と多めに見積もって現金を使い切らないように気をつけていたけれど、台湾の郵便料金は驚きの安さで、カウンターで、??!!という表情を浮かべてしまった。書留にするか?って何度か聞かれ、そうするとお高くなるんでしょう?と、普通のでいいですヨーと断ったのだけれど、書留にすればよかったかな。安すぎて訝しさが残る。無事に宛先に到着しますように…。
現金が予想より多めに残ったので、台北駅の地下にある誠品書店へ。駅の店なので規模は大きくないけれど(旗艦店に行ってみたかったけれど天候不順で無理だった。次回は買いたいものも定めて是非…)、中国文学の棚に張愛玲の写真を発見し(左側のチャイナドレスの女性)、するする引き寄せられると、短篇集、長篇がずらりとシリーズで刊行されていた。
李安(アン・リー)が映画化した「ラスト・コーション」の原作「色、戒」で有名な女流作家。本人のファッションセンスも素晴らしく、私の中ではモダン上海といえば、張愛玲のチャイナドレス姿の写真をパッとイメージする。酷評してしまったけれど映画「メットガラ」でも、展覧会のイメージ・ソースとして張愛玲の名前は登場していた。映画の出来がさっぱりだったので、名前が挙がるだけで、張愛玲が展示のどんなインスピレーションになったのかの説明は皆無だったけれど。
日本では「ラスト・コーション」公開時に、表題作を含む短篇が収められた文庫が発売された(集英社文庫)。どの短篇も素晴らしく、夢中になって読み、いつか原書で読んでみたいと思っていたので、台北最後の買い物はこの一冊に。
特に好きな「多少恨」という短篇を移動しながら読み始めたけれど、張愛玲の文章は、風景や衣服など目に写るものの描写が細かく、膨大な中国語の単語の中から、よくぞ胸を打つ美しさを持つ言葉をひとつ選びましたね…と感嘆するような華やかな言葉が選ばれている。比喩表現が多いわけではなく、衣服であれば色やスタイル、建築であれば床や壁の素材など、とにかく視覚面での詳細な描写が連続する。そして人物の動作や心理描写はそっけないほど簡潔で、映画の脚本のト書きみたい。これらが総合されて、頭の中で映画が上映されるような読書となる。
「多少恨」は冒頭、男女が出会う場が上海の映画館で、映画館そのものの描写から本文が始まることもお気に入りの理由。登場する国泰電影院は、内部は近代化したとはいえ、外装はそのままで現在も営業中とのことで、いつか行ってみたい映画館のひとつ。
黄色い本、読了
だらだら読んでいた「映画にまつわるXについて 2」ようやく読了。
本屋でかけてくれる、紙のブックカバー、何故か私の手にはワサワサして読書に集中できない。ブックカバーもいろいろ試したけれど、文具屋で300円ほどで売られている厚手の透明ビニールのものが、物心ついた頃から一番しっくりくる。透明だから装丁も楽しめるし、ビニールだから水分にも強い。次に文具屋に行ったら様々なサイズを買っておこうと思う。
黄色が印象的なこの本、なんと薄黄色の紙に黄色いインクで黄色を刷ってるのだとか!表紙を外してみると、表と裏で黄色の色味が違う。四六判より少し小さなサイズは、戦前の本によくあったサイズらしく、西川監督の文章は一文が長く、みっしり文字が詰まっているように見えないように選ばれたサイズだそう。手の小さな私にも持ちやすく、鞄に入れてもかさばりすぎない。シンプルながら考えれたブックデザイン。
映画本で最も好きなのはメイキング本なので、「永い言い訳」のメイキング・エッセイはどれも素晴らしかったけれど、後半にある、あちこちの媒体に書いたテーマの異なるエッセイもいい。
特に好きだったのが「タジン鍋」。食にまつわるエッセイの、この一節…!
「好きな人と、大事な勝負の相手と、とびきりおいしいものを食べることの幸せを、私は解さない。いちどきに、そういくつものことを同時にはこなせない。好きな人や大事な人との話に夢中になって、魅力に打ちのめされて、うますぎる飯や酒は、却って邪魔だ。香りとか、色目とか、焼き具合とか、どこそこ産とか、やかましい。私は今、目の前の相手と、真剣勝負をしておる。デニーズのビールで十分だ。ピンポーン。お姉さん、これ、もう一杯。」
あああ、完全同意。食について、こんなに膝を打つ文章ってあるかしら。
監督と同じく、料理と呼べば料理に申し訳ないような、簡単なものを作ってさっと食べるのが何より美味しいと思っているけれど、この間、つらつらと一番色気のある外食って何かしら、と経験も引きずり出し妄想したばかり。結論として、朝のドトール。コーヒーとサンドウィッチ計390円のモーニングがいい。もちろん食べる前にスマホで写真なんて撮らない人がいい。肴はあぶったイカでいい。2階建てのドトールの2階、ガラガラならなおいい。どうですか、色っぽいでしょう。と、ここまで妄想したけれど、たいして共感は得られなさそうね…と考えていたところに、監督のこの文章。連載は終わったらしいけれど、またエッセイもどこかで読めることを楽しみにしております。
http://www.j-n.co.jp/books/?goods_code=978-4-408-53705-4
共同作業
トークまでに読み終えたかったけれど、読み終わらず、トークの余韻をかみしめながら、今日も読んだ。
「映画にまつわるXについて」は 「X=フィルム」「X=二枚目俳優」等、映画を構成する要素をXに置き換える章立て。昨日のトークは担当編集の方もいらしていて、Xのネタは編集者も考え提案するけれど、一度もそれが採用されたことはなく、全部西川監督のチョイスによるもの、とのことだった。
今日は「X=音楽」を読んでいて、音楽に詳しいわけではない西川監督が、音楽家たちと膨大なやりとりをしながら映画音楽を完成させていく過程が綴られており、とりわけ胸に迫った。音楽の細かなニュアンスって言葉で伝えづらく、そもそも言葉じゃないから音楽なんだよ!という性質のものを完成させるために、それでも要求し続ける監督、要求に応え続ける音楽家。詳しいわけじゃないからって怯んでいるうちは何も始まらなくて、勇気を出して要求した時に物事が動くのだよなあ。
去年後半から、自分が読みたいもの、見たいもの、見たことのないものを作るための試行錯誤が続く中、映画とwebサイトではかかわる人数も工程の多さも天と地の開きがありましょうが、とかく共同作業という点で、西川監督のこの本、映画の現場からのエッセイであると同時に、共同作業における実用の書でもある。
「こんな眺めがあるだなんて。自分にも、他人にも、見切りさえつけなければ私たちはまたどこまでも行けるのかもしれない」。最後のくだりを帰りの電車で読み、ホロリときた。
黄色い本にサイン
仕事帰り、青山ブックセンター本店で西川美和監督「映画にまつわるXについて 2」刊行記念のトークへ。ああ楽しかった。あと3時間はお話を聞きたい。気遣いもサービス精神も抜群で、素敵な人。
本の中に「永い言い訳」脚本執筆で、是枝監督やスタッフと一緒に小津安二郎ゆかりの「茅ヶ崎館」で合宿するエピソードがあり、西川監督が泊まった一番の部屋に、私も泊まったことがあるので、サインをいただきがたら「監督が泊まられたお部屋、私も泊まったんです。新藤兼人監督部屋だと思っていたのですが、西川美和監督部屋でもあったのですね」と言うと、え?と驚いた表情で顔を上げ「え!…畏れ多いです…」と。あの宿はいい宿ですよね、と頷きあいました。
次に行ったら二番の部屋(小津部屋)に泊まりたいけれど、もう一度、一番の部屋でもいいな。西川部屋ですもの。
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