レディ・バード

6月1日、映画の日に観た映画。グレタ・ガーウィグ監督『レディ・バード』。
グレタ・ガーウィグを手放しで好きではないので身構えていたけれど、この情報量の多い物語をキュッと93分にまとめた巧さ。エモーションが発動しそうになる寸前にカットして次の場面に移るの、めちゃくちゃ気持ちいい。上半期随一の編集大勝利映画。
観終わって自分の母親のことを考えたという声が周りに多く、私もそうでした。家庭の事情が立て込んで、母曰く「親離れがとても早い娘だった」私は、あっという間に家の外に自分の世界を作り、何から何まで自分で決めて、母親に相談したり心の内を打ち明けたりすることが下手だったし、今でも苦手だけれど、『レディ・バード』の何でも共有して喜怒哀楽を全開にするママと娘の関係を観ると、私は私の性格のせいで、母にあんな感じの「娘を持つ母親の楽しみ」を与えることができなかったんじゃないかしら、と切ない後悔のようなものが生まれた。
以下、物語の内容に触れますが、
夢見ていたロマンティックな初体験が、ティモシー野郎(ティモシー・シャラメ)のスカした態度のために散々な結果になってしまった後、レディ・バードがちゃんと怒るのがとても良い。相手のスカした態度や、思春期らしいくだらない見栄っ張りに流されず、たとえ世界の恋人ティモシー・シャラメであろうと、自分が大事にされたい時に、雑に扱われたらちゃんと怒る。相手にも自分にも。レディ・バードがレディ・バードたるゆえん、素敵なところはそんなところで、それもこれもパパとママが大切なレディ・バードを素敵に育てたからなんですね、と印象的なシーンだった。
君の名前で僕を呼んで

5月に観た映画メモ。上半期、あの映画観た?って質問が飛び交った回数ランキング1位は『君の名前で僕を呼んで』だったと。
2ヶ月経って覚えている感想としては、
・ルカ・グァダニーノ監督はティルダ・スウィントン主演『ミラノ、愛に生きる』の監督と後で知って、ラブシーンの撮り方に特徴ある人だな、と思う。野趣溢れ、ちょっとフェティッシュ。
・ラストシーンのティモシー・シャラメは髪型とシャツの柄のせいか、幼い頃にテレビで観たアイドル時代の本木雅弘に似ていた。
・あのラストのおかげで、映画全体の印象がちゃんと残っておる。ラストよ。
というもので、切ない恋の物語に触れて何も手につかず放心…という事態には陥らず、大人って冷静でつまらないことよ…。
しかし前半、君の名前で僕を呼んでってどういう意味だろう?と疑問に思いながら観た。日本だと恋愛もので、(結婚して)あなたの名前になりたい、僕の名前にならないか、というセリフはありそう。逆に、例えば夫婦別姓の中国だと、あなたの名前になりたいという発想そのものがないのかぁ、あたなは王さんですね、私は張ですけど?的な感じなのかな…など、ぼんやり途中で考え始めてしまったので、目の前にある80年代イタリアの夏が一瞬遠のいてしまう。
その後、このタイトルの意味が明らかになると、ふたりの成り行き、桃がどうこうより、タイトルが興味深いな、と思った。あなたと私は体も心も混じり合い、あなたと私を象徴する最たるものである名前さえも交換するんです。
ここ数年、恋愛についての文章で最もロマンティックで面白かったのは、チームラボ代表の方のこのエッセイで、
理由がなくても言えるから「愛してる」しか言わない
https://gqjapan.jp/culture/column/20131030/trotting-arround-asia-127
エリオとオリヴァーが2人だけの短い旅に出て、あなたの場所でも私の場所でもない通りすがりの街で、身につけた語彙をすべて忘れて、君の名前で僕を呼び合うシーン、あれはまさに「世界がもっと言語から解放されたら」の瞬間が切り取られており、稀有なものを目撃した、と思った。
湯呑み

酷い暑さで、日中は外に出ると死に近づいてしまうから、街を歩くには夜が最適。鈍った身体を整えるべく根津と湯島の間あたりを歩いていたら、目に入ったもの。小津映画に登場する湯呑み。
近くに和食器フェア的な催しの張り紙もあったから、和食器屋なのかもしれない。何しろ夜だから店が閉まっており、謎は謎のまま。夜の街歩きは情報量が少なくて謎解きのよう。
この湯呑みは「東哉」という店のもので、京都が本店で、銀座にも店がある。小津安二郎は銀座の店の常連で、撮影の後、この店で人と待ち合わせて飲みに出かけたりしていたそう。
といった小津と「東哉」にまつわるエピソードは、10年以上前、愛読していた原田治さんのブログのポストで知った。
http://d.hatena.ne.jp/osamuharada/20061123
「東哉」はこちら
会えば小津の話をよくする友人とそのパートナーが、もし結婚するならお祝いにこの湯呑みを贈ろうと決めているけれど、結婚しないので「東哉」でまだ買い物をしたことはなく、眺めるだけ。

謎の店?の周りをぐるっと回ってみたら、小津の写真も貼ってあった。特に説明もなく。酷暑の夜の謎は深まる。
香り

この夏は東京から出ない予定なので、頭の片隅に引っかかっている、東京で行きたいと思って行っていない場所をリストアップしてみたら、半分以上「食べてみたいかき氷リスト」だった。
ということで山の上ホテル、コーヒーパーラーヒルトップ。水出しコーヒー蜜、中にはラムレーズンのアイス。大人の味だった。

ヴィスコンティ『白夜』、DVD付属のリーフレットを読んでいたら、小さなリーフレットの1ページを割いて、ヴィスコンティのプロフィール、フィルモグラフィを紹介するページの前半は無難な内容だけれど、後半はバイセクシャルだったヴィスコンティと噂のあった男たちの名前を羅列し、「香水はイギリスで140年以上の歴史を持つペンハリガンのハマムブーケを愛用していたという。」で締めくくる唐突感ある着地。限られた文字数にオフィシャルなプロフィールからプライベート紹介までギュッと混じった少し暴力的な密度があって、くらくらした。
ヴィスコンティの姿はもう写真で見るしかないけれど、「愛用の香水」を知ることは、肉体が消えても存在を立体的に感じられる、まさに残り香のようで面白い人物紹介だな、と思った。
https://www.penhaligons.com/hammam-bouquet/
【本日更新】moonbow journey 008 『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』

本日更新しました。
映画のストーリーにあわせて上映場所を変えてゆく、移動式映画館moonbow cinemaの着想から今日に至るまでを追う連載「moonbow journey」、第8回は『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』。
バンクシーのドキュメンタリーの上映会場となったのは、渋谷のこんな外観の雑居ビル。ビル内部の写真を拝見すると、こんな場所でまさか上映会が開かれているなんて、秘密の会合みたい…と思いました。何年暮らしても未踏の場所ばかりの東京で、moonbow cinema体験、小さな旅のようです。
『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』、私は未見なのですが、「暑さを吹き飛ばすような痛快な作品」とあらば、今年の東京の猛暑にもぴったりかもしれません。amazon videoにあるのも発見した!(こちら)
それではどうぞ、お楽しみください!
ファントム・スレッド

世の映画好きを二分する(していない)熱きアンダーソン論争、私は俄然、ウェスよりポール・トーマス派である。それが証拠に『犬が島』はまだ観ていないけれど(観たいぞ)、『ファントム・スレッド』は初日に観に行った。
女を求めることはあっても己の完全なる世界を崩す気はなく、女がその先を求め始めると即座に関係を破棄していた仕立屋が、母の幻影を追うように女・アルマと出会い結婚する。田舎町のウェイトレスだったアルマの結婚前の生活はオートクチュールの世界とは程遠く、けれどアルマは男にとって完璧な身体を持っている。
男にとって完璧な身体とは決してモデル体型ではなく、肩が丸く下腹がぽっこりした骨の存在を感じさせない体脂肪率の高そうな、そしておそらく母に似ているだろう体型だった。アルマより洗練された美しい女はたくさんいるだろうに、執拗にアルマに執着するところ、好み、嗜好というものの説明不可能な本能らしさを表していて興味深い。
衣装の美しい映画好きとしては、ダニエル・デイ=ルイスが天才仕立屋の役と聞いただけで、気に入ること間違いなしと思っていたけれど、途中から衣装への興味は後退し、奇妙な愛の物語に夢中になった。頑固者同士の領地争い。「あなたには無力で倒れていてほしい」という言葉がまさか愛を語るなんて、という関係もこの世に存在するのだ。
思い返してみると、最初から女が男に従順な素振りを見せたことなど一秒もなかった。高名な仕立屋だから好きという素振りもなく、最初から男そのものを見ていたように思う。
初めて女が戦闘を仕掛けた夜、不意打ちに男がバランスを崩し、食事の前にシャワーを浴びると力弱く宣言し、シャワーを浴びて食事の席についた時の、パジャマの上下にベスト、ジャケットを羽織った外着と家着の入り混じった不思議な装いこそ、男の動揺とよろめきを表現しており、男の仕立てる数々のオートクチュールより遥かに記憶に残った。
上半期、私のベストは『ファントム・スレッド』だったと思う。
聖なる鹿殺し

早稲田松竹、2本立てのもう1本はヨルゴス・ランティモス監督『聖なる鹿殺し』。こちらのほうがお目当てで、ソフィア・コッポラ映画も併映なら好都合、というモチベーションで出かけたのだった。
ヨルゴス・ランティモス監督はギリシャの監督で、前作『ロブスター』が大傑作だった。『ロブスター』も豪華キャスト映画だったけれど、『聖なる鹿殺し』も負けず劣らず。どちらもコリン・ファレルが出ていて、監督のお気に入りなのかしらね。そしてソフィア・コッポラ『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』との2本立て、どちらもコリン・ファレル、ニコール・キッドマン主演。ひっぱりだこ!働き者!サスペンス要素、ホラー要素のある映画にニコール・キッドマンの冷たい美貌が似合う。どんな設定や不穏な効果音より、あなたの整った顔立ちが何より怖い、と思わせるものがある。
http://www.finefilms.co.jp/deer/
心臓外科医スティーブンは、美しい妻と健康な二人の子供に恵まれ郊外の豪邸に暮らしていた。スティーブンには、もう一人、時どき会っている少年マーティンがいた。マーティンの父はすでに亡くなっており、スティーブンは彼に腕時計をプレゼントしたりと何かと気にかけてやっていた。しかし、マーティンを家に招き入れ、家族に紹介したときから、奇妙なことが起こり始める。子供たちは突然歩けなくなり、這って移動するようになる。家族に一体何が起こったのか?そして、スティーブンはついに容赦ない究極の選択を迫られる…。
マーティンを演じるバリー・コーガンは『ダンケルク』にも出演していた。一度観たら忘れられない風貌で、『聖なる鹿殺し』は観終わった後、バリー・コーガンの演技にすっかり心を奪われている。あと10分で家を出なきゃいけないんだ、って何度も言いながらスパゲッティわしわし食べるあの姿…。
冒頭、夫婦の寝室での妻(ニコール・キッドマン)の手慣れた雰囲気の全身麻酔プレイ待機姿勢に、わ、これは!と沸き立ったけれど、周りに誰も笑ってる人がおらず。あのシーンが冒頭にあったせいか、これはコメディなのだろうな、ドス黒いけれど!そして場内、誰も笑ってないので笑えない…辛い…というトーンで最後まで観た。家族が次々と不思議な病気を患っていくけれど、そんなことが可能か否かはさておき、マーティンによる巧みな催眠に一家でかかり、パチンと指を鳴らして催眠を解けばいいんだ!って誰かが気づけば良いものを、誰も気づかないから大真面目で展開していく物語、のように思えた。『ロブスター』同様、傍観者には滑稽にも思える設定に、大真面目に取り組む人々をクスクス観察しているうちに、何か深淵なるものに触れたかもしれない、気のせいかもしれないけれど、と思わせる映画。
どこを切り取ってもそのまま映画のポスターになりそうな構成美。病院のエレベーターで倒れこむ少年を真上から俯瞰で撮った後、ネオン輝く都会をバイクで疾走する若者のショットが続いた時、私は今とても美しいものを観ている!という映画的興奮におおいに満たされた。
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