ブレードランナー

ずいぶん前に観た映画の鑑賞メモ。早稲田松竹で、ブレードランナー新旧2本立て。続けて観ると2017年の『ブレードランナー2049』は、1982年の『ブレードランナー』あってこそだな、と納得するので、2本立てに感謝。
http://www.wasedashochiku.co.jp/lineup/2018/bladerunner.html
80年代の映画、世代的に私はほとんど観ておらず、『ブレードランナー』も初見だった。それなりに古いSFを観る時の「ちょっと前の世界が想像した、近未来」のくすぐったい感じや、80年代の映画特有の、こんなんが流行ってたなんて、なんてクレイジーな時代だったのか!感(日本の80年代トレンディ映画群にありがち)に溢れた映画なのかな…と身構えていたら、どちらも微塵もなく、今年の新作です、と言われても信じてしまいそうなタイムレスさだった。
どうして?と考えたのだけれど、ハリソン・フォードの髪型やファッション、いつの時代もこんな男の人はいるよなぁ…と思うベーシックなものだったからかもしれない。レプリカントたちはめいめいに好きなファッションだったけれど、今観ても違和感がなかったのは、昨今80年代がリバイバルしているせいだろうか。
人間が創ったレプリカントが、人間の想定した以上の思考を持ち始め、人間がそれに振り回される…やや最近の『エクス・マキナ』にも共通するところがあって、1982年から30年以上経過し技術は映画の世界に近づいたけれど、物語る想像力、妄想のテーマはあまり変わってないのかも、と思った。
ショーン・ヤングって女優、知らなかったわ。めっちゃ綺麗!とwikiで調べてみたら、なかなかの人物だった。人生いろいろ。
好き・嫌い

上野動物園のペンギン、羽(毛?)の生え変わり時期なのか、病気じゃなければいいんだけど…の右の子、見た目のせいで周囲にちょっかい出されるのか、当の本人(本鳥?)も気が立っているのか、周囲と喧嘩しがちで、ちょっと近づいただけで嘴をわぁわぁしはじめて、きみたち!…!仲良くしなさい!と願ったものです。元気かな。
監督の前作『タンジェリン』が面白かったので、半年前から楽しみにしていた新作『フロリダ・プロジェクト』、ずっと手帳に書いているけれど、なかなか足が向かない…のは、上映されている映画館(ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿WALD9)がどちらも苦手だからだ!映画は観たいけれど映画館に行きたくないからぐずぐずしちゃうんだ…と気づいた。
好きな映画館もあれば嫌いな映画館もある。苦手な理由は主に立地、観客層。都内の映画館でもっとも観客層が落ち着いていて気持ちよく観られるのは、TOHOシネマズ日本橋説を唱えている。映画館の好き・嫌いって理由もあわせて聞くと、その人の趣向が見える気がしてなかなか面白い。私は都内だと早稲田松竹が好きだけれど、最前列で観てもスクリーンとの距離がしっかりあって疲れないから、学生街にあるせいか名画座だけれど観客層が若め…等が愛する理由です。
悩み多き『フロリダ・プロジェクト』、一度行ってみたかったユジク阿佐ヶ谷に7月末にかかるそうなので、そちらで観ようと決意。時間の都合がつけば、台湾巨匠傑作選と併せて観たい。
https://www.yujikuasagaya.com/
夏至

夏至。万事うまくいけば、この時期にヨーロッパに行きたかったけれど、ホン・サンス『それから』のコピーじゃないけれど、「人生は、ままならぬ」ものですね。『それから』を観ると、は?!人生は、ままならぬって、あなたが言うなんてどういうつもり?って、あの妻のように問い詰めたくなる瞬間の連続だけれど。
夏越しの大祓、ずっと行きたくて平日だから無理だったけれど、今年は土曜!ついに行けそうで近所の友人と誘い合わせた。近所の和菓子屋で水無月が発売されるという情報も軒先の張り紙から得た。
毎年、この時期になると、夏の盛りに観たい映画を、観られる環境にあるかないかを問わず妄想するけれど、数多ある夏の名作から今年パッと浮かんだのは、濱口竜介監督『何食わぬ顔』。
電車に揺られながら、女性が国語辞典の「なつ」から始まる一帯を淡々と読み上げるシーンがある。夏、懐かしい…。なかなか観る機会のない映画だけれど、あのシーンは至高。
補足。『何食わぬ顔』、こちらで有料ダウンロードできるらしい。なんと!梅雨が明けたらダウンロードして観ようかな。でもこれはshort versionで、私が観たlong versionより短い。どうしようかしら。
ジブリと暗算

週に何度か通りかかる近所に珠算学校があり、ノスタルジックな気分になる。
今年の夏はペンギンのアニメを観るつもりだけれど、夏休みといえば!親に連れられてアニメ!という習慣は皆無だった。私の映画好きは父親の影響によるものだけれど、幼子(私)がいるからといってアニメを見せることもなく、自分の観たい映画を観るマイペースな男であった。50〜60年代のハリウッド・クラシックがメイン。時折サイレント映画が混じる。隣でぼんやり観ていて、子供にもわかりやすくて好きだったのはチャップリンや西部劇。チャップリン『独裁者』は小学校に入学する前のお気に入りで、何度も観て筋書きは覚え、演説シーンを真似していた…やだよそんな子供…。
小学生になると兄の要望により近所の珠算学校に通うことになり、意外な計算能力の高さがなぜか開花し、先生からスカウトされ、珠算学校を代表して県大会に挑むことになった。夏休み、珠算学校に強化選手が集められ、何日もひたすらそろばんを弾く。そろばん以外には暗算など、各種目まんべんなく鍛える。

しかし遊びたい盛りの小学生を薄暗い珠算学校に閉じ込めることを、さすがに先生も不憫に思ったのか、教室にテレビとビデオデッキを持ち込み、映画を見せてくれる日があった。ある年は『風の谷のナウシカ』で、ある年は『天空の城ラピュタ』だった。先生が所有していたのがその2本だったのかもしれない。両親は私をアニメに連れていく人々ではなかったので、数少ないアニメ体験は珠算特訓のサービスとしてもたらされた。労務の提供と、その報酬としてのジブリ。
今でもジブリ映画が公開されたり、テレビ放映されるたび、そして今年の夏のアニメが話題になるたび、反射的にあの薄暗い珠算学校を思い出す。広い珠算学校に少ない強化選手が集められるから、一部だけしか電気を点けてなくて薄暗かった。

東京を歩いていて珠算学校を稀に発見するけれど、この時代に珠算を学ぶのはどんな子なんだろう。OK, googleって呼びかけたら、手を動かさなくても教えてくれるんでしょう?県大会の結果は珠算総合、暗算ともに県2位だった。何年かに渡って出場したけれど、常に2位。やるからには1番になりたい負けん気の強い私としては、ややほろ苦い。あんざんで右脳をトレーニング!とポスターにはあるけれど、あんざんで鍛えられるのは左脳のような気がする、というのが経験者からのコメントです。
この夏のペンギン

4月、食事のため一瞬だけ大阪、戎橋商店街を歩いた。そして発見したのである。北極のアイスキャンデーの店を。小さい頃、ローカルCMがずっと流れていて、メロディーが頭にこびりついているけれど、店舗はここ一軒だけで、アイスキャンデーも食べたことがない。時折、誰かが手土産に買ってきてくれたアイスキャンデーは、シロクマの絵の蓬莱のものだった。
風の噂には聞いていたけれど、戎橋界隈は外国人観光客だらけで、彼らの需要に応えるためか、ドラッグストアばかり目立つ。そんな中に燦然と輝く、老舗の風格のペンギン。ペンギン!
サイトもペンギンだらけ。夢のよう…
しかし寒い夜だったので、アイスキャンデー気分は皆無だった。パッケージに魅かれてキャンデーを買った。

アイスも手作りなら、キャンデーも手作り。現在はアイスキャンデーの味の種類も増えているけれど、昭和20年の創業当初はミルク、あずき、パインの3種類だけだったそうで、その3つの味を飴で再現したもの。レトロなフォントやペンギンのイラストも創業当初のものだろうか。

蓋もこのとおり。甘党の北極!どことなく、Cinema Studio 28 TokyoのGolden Penguinにも似ている。にわかに感じる親近感…。
http://cinemastudio28.tokyo/goldenpenguinaward_2017
前置きが長くなったけれど、この夏、楽しみにしているペンギンは、アニメ『ペンギン・ハイウェイ』のペンギンです。しばらく情報を追わないうちに、声優は蒼井優、主題歌は宇多田ヒカルと発表されていた。豪華ペンギンである。
日比谷の前にオープンしたTOHOシネマズ上野でかかるらしく、オープン時は上野!近所!と喜んだものの、秋葉原に近いためアニメの比重が高いプログラミングで、これまで行くことはなかった。ペンギンで上野デビュー。ペンギン柄のマスキングテープが特典としてつくムビチケを買おうかと思っておるところ。8/17公開。
うたうひと


濱口竜介、酒井耕監督の東北記録映画三部作、上映は清澄白河で。会場はこの清洲寮という建物の1階にあるスペースだった。清洲寮、昭和7年(1932年!)に建てられた集合住宅。寮という名前だけれど、個人所有の建物で、現在も空室があれば借りられるのだそう。駅近なのに古いせいか賃料も格安。
東北記録三部作の最後は『うたうひと』。前2作とは趣向を変えて、東北の民話伝承を記録する。
http://silentvoice.jp/utauhito/
『うたうひと』は 酒井耕・濱口竜介監督による『なみのおと』『なみのこえ』に続く東北三部作の第三部。二人は前二作における「百年」先への被災体験の伝承という課題に対して、東北地方伝承の民話語りから示唆を得る。栗原市の佐藤玲子、登米市の伊藤正子、利府市の佐々木健を語り手に、みやぎ民話の会の小野和子を聞き手に迎えて、伝承の民話語りが記録された。語り手と聞き手の間に生まれる民話独特の「語り/聞き」の場は、創造的なカメラワークによって記録されることで、スクリーンに再現される。背景となった人々の暮らしの話とともに語られることで、先祖たちの声がその場に甦る。映画と民話の枠を超えた、新たな伝承映画が誕生した。
みやぎ民話の会の小野和子さんを聞き手に、集った70〜80代という年齢の男女が民話を語り始める。淀みなく発される民話はどれも、話す人が幼い頃、祖父母や両親から伝え聞いたもの。成長して民話を聞くことも話すこともなくなったけれど、男性は40代の後半、不意に民話を語りたくてしょうがなくなり、小野和子さんとの出会いにより、語る人生が始まったのだと言う。
ひとりの人間の体に何百もの物語がインデックスつきで収納され、引き出しを開けるように、次はこんな話があったら聞かせて?とリクエストに応じてするすると物語が出てくる。何度も繰り返し聞いた民話だからなのかどうか、人はこんなにも聞いた物語を詳細に記憶し、再現できるのだな、と驚く。最高齢の女性の口跡が見事で、講談師のようだった。
語りも見事ながら、聞く人・小野和子さんの素晴らしさにも目を瞠った。ねぇねぇ、お話を聞かせて?とせがむ幼子の無邪気さと、どんな突飛な展開もどっしりと受け入れ楽しむ落ち着きが共存しながら、常に語りの素晴らしさを讃える。こんな人を前にすると、誰でも自分が語り上手になって気がして、どんどん話してしまうだろう。そうやって引き出された民話が何千とあるのだろう。
小野和子さんによると、語りだけではなく、相槌も民話の一部とのこと。それが納得できる民話伝承の記録だった。三部作の最後がそれまでとガラリと色を変えたことに驚いたけれど、『なみのおと』『なみのこえ』を観た私が、何百年も先の人が東北であった震災について知りたければ、この映画を観ればいいのでは…と考えたように、『うたうひと』で締めくくられたことを、観終わると納得した。どんな語りも聞き手なしにはありえない。耳を澄ます、相槌、記録すること。
なみのこえ 新地町

濱口竜介・酒井耕監督による東北記録映画三部作、3月に『なみのおと』『なみのこえ 気仙沼』を鑑賞する機会があり(こちらとこちらの日記に書きました)、続きを楽しみにしていた。前回と同じ場所へ再び。上映されたのは『なみのこえ 新地町』『うたうひと』の2本。
まず『なみのこえ 新地町』から。
http://silentvoice.jp/naminokoe/
震災から1年後、福島県新地町で撮られたドキュメンタリー。震災体験とその後を語る人、聞く人が差し向かいになり記録される。向かいあう2人は時に語り合い、時に沈黙する。聞く人がいない場合は、監督のどちらかが聞く人になる。
美容師夫妻、役場の上司と部下、漁師の親子、鉄鋼所を営む男性、被災した女性と東京にいて被災しなかった女性、図書館司書の女性の語りが記録されていた。人は見かけによらない…とハッとすること数度。
『なみのこえ 気仙沼』の最後に登場する若い夫婦の妻がまるで気仙沼の希望を担うヒロインに見えたように、『なみのこえ 新地町』でも最後に登場する図書館司書の女性が新地町のヒロインのように見えた。女性の職場である図書館の棚の間で撮られ、聞き手は濱口監督。震災体験よりも、語ることが苦手と言う女性が訥々と語り始め、濱口監督があなたにとって語ることはどのような意味や作用を持つのか、を静かに深堀りしてゆく。どれほどの時間の記録だったのか次第に西陽が射し込み、女性の座る位置には影をつくり、監督の座る位置はオレンジ色に照らされ、語る人/聞く人の境界線を区分するようにも、震災の当事者/当事者ではないがそれを聞く人の境界線を区部するようにも見えた。
こんなふうに聞かれることがなければ、あんなふうに女性が語ることもなかったのだろう。女性の体内に長らく埋蔵されていた言葉が、純度の高さを伴ってついに排出された、語ることが苦手と自認する人ならではの強さがあり、このまま映画が終わらなければいいのに、と願った。
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